2022年GDP成長率3.5〜4.0%!米国では高い経済成長率が続く見通し。楽観的だがリスクは無いの?

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The 2022 Economy Looks Strong, but Beware the Known Unknowns
2022年の経済通しは明るい。しかし、”知らないとさえ知らないこと”があるのではないか?

COVID and policy changes could radically affect growth, inflation, and the midterm elections.

新型コロナと政策変更が経済成長率、インフレ率、中間選挙の結果に大きく影響を及ぼす可能性もある。

By John Cassidy

January 3, 2022

 オミクロン株の感染が急速に広まったものの、2021年の米国経済は好調に推移しました。直近の調査によれば、クリスマスシーズンの消費支出は昨年に比べ8.5%増加しました。12月25日迄の4週間の新規失業保険申請者数は週平均で20万人を下回り、半世紀以上ぶりの低水準となりました。アトランタ連銀は、そうした好調な数字をもとに、21年第4四半期のGDP成長率は7.6%になると推定しました。デルタ株の感染拡大で消費が下押しされた第3四半期の成長率は2.3%でしたので、急回復です。The Conference Board(全米産業審議会:非営利の調査機関)は、2021年の年間のGDP成長率を5.6%と推定しており、それは1984年以来もっとも高い数値です(先述したGDP成長率の推定値や予測は、すべてインフレ率調整後のものです)。もし、それらの推定値が本当に正しければ、2021年は、レーガンが好調なアメリカ経済を前面に打ち出して選挙キャンペーンを展開した1984年以降で最も急速に経済が成長した年ということになりす(レーガン陣営は、大統領選のキャンペーンで”morning again in America “を打ち出して、レーガン大統領1期目で雇用が改善され、インフレ率が低下し好景気がもたらされたことを大々的にアピールした)。

 プロの経済評論家の多くが、2022年も新型コロナによる2020年の低迷からの力強い景気回復が続くと考えているようです。The Conference Board(全米産業審議会)のGDP成長率予測は3.5%、ゴールドマン・サックスは3.8%、バンク・オブ・アメリカは4.0%となっています。もし、経済成長率が3.5〜4.0%であるとすれば、2021年よりは見劣りするものの、それでも非常に経済が堅調であることを意味します。新型コロナのパンデミック前の10年間で、年間成長率が3.0%に達したことは1度もなかったのですから。

 また、世界的なサプライチェーンの問題についても明るいニュースがあります。それはインフレ率を急上昇させた最大要因でした。クリスマスシーズンには小売店で買い物客は商品が並んでいない棚を目にすることになると心配されていましたが、大部分は無用な心配でした。欧州では、製造業における供給の不具合が2カ月連続で緩和されたと報告されています。IHS Markit(IHSマークイット:金融市場データ・情報サービスを提供する世界屈指の企業)のシニアエコノミストであるシアン・ジョーンズは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材に対し、「供給の遅れは依然として大きいものの、この年末にはコスト上昇圧力はいくぶん緩和される兆しが見られた。」と述べていました。そうした状況を踏まえると、中間選挙を控えた今年後半には、堅調なGDPの伸びが続き、失業率が低いという環境下でインフレ率が低下する可能性もないとは言い切れません。

 もちろん、経済予測なんてものは全く外れることもあるわけですから、そうした予測を全て鵜呑みにすることはできません。GDP成長率に関しては、多くの経済評論家が楽観的な推定をしています。そうした推定は、直近の各種指標(消費支出、雇用者数、需要)を基にして、それに調整を加えるという形で行われています。平時であれば、そうした推定方法は極めて合理的だと思われます。しかし、今が平時でないことは明らかです。今年の経済の先行きや11月の中間選挙に重大な影響を与える可能性のある、“known unknowns” (知らないことさえ知らないこと)が存在しているかもしれません。“known unknowns”という語は、かつて故ドナルド・ラムズフェルドが使ったものですが、今は平時ではない、経済予測をすることは容易ではないということを認識しておくべきです。

 さて、“known unknowns” (知らないことさえ知らないこと)は沢山あるような気がします。まず1つ目は、ウイルスです。ほとんどの経済評論家は、オミクロン株もデルタ株と同様に、そんなに長期間に渡って感染が猛威を振るう状況が続くわけではなく、経済に大きなダメージは残さないだろうと推定しています。ゴールドマン・サックスの投資調査チームは、2022年の経済予測を発表する際に、「オミクロン株は景気の回復を遅らせる可能性があるが、米国内では適切な感染防止策がとられており、経済活動がウイルス拡散の影響を受けにくくなったため、サービス業への支出はわずかな影響しか受けないと予想している。」と言及していました。その予測は、正しい可能性もありますし、その予測とおりになって欲しいと思うのですが、現時点では正しいか否かは分かりません。この週末には、7日間平均の新型コロナ感染者数が40万人を超えました。クリスマスイブ以降、悪天候とオミクロン株の影響で、1万5千便以上の航空機が欠航しました。”OpenTable”(オープンテーブル:レストランのオンライン予約を扱う、ウェブサイトおよびアプリ)のデータによると、12月最終週のレストランの利用者数は、前年同期比で約30%も減少しました。

 米国経済がオミクロン株の感染拡大を比較的無傷で乗り切って、ロックダウンがほとんど行われないとしても、オミクロン株が、米国に多くの部品や製品を供給している中国の生産能力に影響を与える可能性が残っています。中国は、先週、新型コロナの感染拡大の第1波を封じ込んで以降で最大となる感染数を記録したばかりです。オミクロン株の感染拡大は、“zero covid” policy(ゼロ・コロナ政策)を掲げる習近平政権にとっての最大の課題となっています。万が一、中国が大規模なロックダウンをするという決断をすると、サプライチェーンの問題は悪化する可能性があります。そうなると、経済のグローバル化が進んでいますので、たとえ米国のような経済強国でも、その影響から逃れることはできません。

 “known unknowns” (知らないことさえ知らないこと)の2つ目は、バイデン政権の経済政策です。下院民主党が、仕切り直しとなってしまったバイデン大統領が提案した”Build Back Better”(ビルド・バック・ベター⦅より良い再建⦆)法案を再度まとめ上げられるかは、現時点では不透明となっています。もし、それができなかった場合、2022年の経済成長率にマイナスの影響を与えるでしょう。しかし、それほど大きなものにはならないと思われます。というのは、The Conference Board(全米産業審議会)の試算によれば、議会予算局が検討した法案が下院を通過しても、2022年のGDP成長率を押し上げるのは約0.4%のみだからです。

 連邦準備制度理事会(FRB)の動きと、それに対するウォール街の反応が、経済の行方を左右する大きな要因になる可能性もあります。2022年の経済成長率を予測する際、多くの経済評論家は、ジェローム・パウエル議長率いるFRBが新型コロナのパンデミック発生時に発動した金融刺激策を段階的に縮小し、段階的に利上げを実施することによって経済の “soft landing” (軟着陸)を成功させることを暗黙のうちに想定しているようです。そうした想定はあながち的外れというわけではありません。しかし、そうした想定はちょっと安易すぎるのではないでしょうか?もし、インフレ率が期待したほど下がらなかった場合、FRBはもっと大幅に金利を引き上げる可能性があります。第二次世界大戦以降、ほとんどの不況はFRBがインフレ率を下げようとしたことによって引き起こされてきたことを忘れてはいけません。

 世界的に新型コロナの感染が拡大している中で経済を上手く回していくことは容易なことではありません。最初のパンデミックからほぼ2年経ちましたが、トランプ政権もバイデン政権も、国民からの評価はさほど高くないものの、非常に上手く舵取りをしています。2020年、2021年に実施された緊急経済対策が実施されていなかったならば、経済状況は今よりもずっと悲惨な状況になっていたでしょう。バイデン政権が引き続き上手く対処してくれると思われますので、オミクロン株の感染が拡がりつつありますが、経済通しで悲観的になる必要はないのかもしれません。しかし、新型コロナはまだ収束していおらずリスク要因が消え去っていないということを忘れてはいけません。

以上