3.特に介護業界等低賃金の職場は人手確保が困難になる
介護施設もワクチン接種義務化によって人員不足に陥るでしょう。しかも、病院等より困難な状況に陥るかもしれません。ハーバード大学デイビッド・グラボウスキー(介護施設研究の第一人者)は私に言いました、「介護施設の従事者は病院のそれとは大きく異なります。病院の従事者といえば、ほとんどが医師と看護師です。介護助手もいますが非常に少数です。介護施設では、その構成が全く逆で、大部分は介護助手です。介護助手のワクチン接種率は非常に低いのです。」
何十年もの間、介護施設は人材の採用や確保に苦戦しています。というのは、低賃金ですし、手当等も不十分ですし、労働環境も悪いからです。パンデミックが始まって以降、介護業界からは既に約40万人が離職しています。グラボウスキーはワクチン接種義務化は間違いなく状況を悪化させるだろうと推測しています。彼は言いました、「世間の多くの人が、ワクチン接種を義務化すべきと考えています。ワクチンを接種したくない人は辞めさせて、別の人を雇えば良いと考えています。でも実際にはそんな簡単な話ではないのです。たしかにすぐに簡単に別の人を採用できれば何の問題もないでしょう。でも、最も人が辞めやすく採用しにくいのが介護業界なんですよ。」と。彼は続けました、「医師が職業を変えることはまずありません。しかし、介護助手は離職するとすっぱりと介護業界から足を洗ってしまうことが多いのです。そのことも介護業界が常に人手不足になっている要因の1つです。介護助手の仕事は本当に大変です。しかし、給料は安く、誰からもあまり評価されません。介護助手はいつでも飲食業に転じれば同じくらいの給料を稼ぐことができるのです。」と。グラボウスキーの研究によれば、多くの介護施設の介護助手の年間の離職率は既に100%を超えています。介護施設の人員不足は病院等医療施設の人手不足の問題をさらに悪化させている可能性があります。病院は患者を退院させることができなければ、新しい患者を受け入れることはできません。ストロング記念病院のパリネッロが言っていたのですが、現在、彼女の病院では今年の夏の3倍の数の患者が介護施設で空きが出るのを待っている状態だそうです。
人員不足気味の病院や介護施設にとって、それを悪化させるであろうワクチン接種義務化は歓迎し難いところがあります。ワクチン接種義務化は、入院患者や介護施設入居者に安全をもたらすでしょうが、一方で人員不足によるケアの質を低下を招きかねません。病院では入院患者が新型コロナウイルスに感染する例は減っている一方で、介護施設でワクチン未接種の介護助手によって引き起こされた感染例が数多く報告されています。全く状況が異なっているわけですが、グラボウスキーは言っていました、「私は介護施設を何十年も研究してきましたが、そこでの人員不足はさまざまな不具合を生じさせることがデータによって明らかになっています。『介護施設で人員不足が起こったって、入所者が入浴や着替えを待たされるだけで大した問題では無いだろう。』という人が時々います。しかし、それは間違っています。人手不足は重大な事象を引き起こします。転倒事故や感染蔓延が起こったり、不必要な入院が必要になってしまうことがあります。」と。私はグラボウスキーに質問してみました。それは、コロナウイルス感染のリスクと不十分な人員配置のリスクから同時に介護施設の入所者を守って安全な状態を保てるようにするには何をしたらよいかということです。彼は言いました、「解決策は、より良い賃金とより良い労働条件しかないと思います。」と。パンデミックが発生してからの18カ月間で介護施設では入所者の10人に1人が亡くなりました。これまでのところ、介護施設が直面する人手不足の問題への連邦政府の対応は全くもって不十分です。