The Disturbing Rise of Amateur Predator-Hunting Stings
素人によるプレデターハンティングの不穏な流行
How the search for men who prey on underage victims became a YouTube craze.
未成年の男女に性的虐待を加える男をおびき出して晒す動画が、 YouTube で増えた経緯
By Rachel Monroe November 2, 2022
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2年前、カム(Cam)と彼女の夫とその弟が座ってユーチューブ(YouTube)を見ていると、ある種の動画が何度も出てきました。どういった動画かと言うと、「Dads Against Predators(プレデターに反対する親父たち)」「Predator Catchers Alliance(プレデター捕獲者同盟)」「Alabama Predator Poachers(アラバマ・プレデター捕獲者集団)」などのグループによって作られたものでした。まるでテンプレートがあるかのように似た構成の動画ばかりで、不吉なBGMが流れていて、スマホのスクリーンショットが現れるのですが、そこではプレデターと10代の少女もしくは少年と称する者がいかがわしいメッセージをやりとりして、いちゃついていました。メッセージの内容を見ると、最初に数回ほど形式ばったやり取りがあった後、大人の男性側が、「私の年齢を気にしますか?」とか「親にバレないかな?」といったより露骨に会いたい意図が感じられるメッセージを送っていました。それから、2人で会う約束をしていました。10代と称しているのは、上記のグループのメンバーで、実際には年齢を偽って成りすましているわけですが、「放課後に会いましょう、お母さんに送ってもらうわ。」などのメッセージを送っていました。それから、場面が切り替わって、蛍光灯で明るく照らされたターゲットストア(Target)の店舗内の通路や、ダラーゼネラル(Dollar General)の店舗の前の駐車場が現れます。カメラは、1人で立ってスマホをそわそわとチェックしていて不安な面持ちを隠し切れないプレデターの姿を捉えています。プレデターハンターが数人で近づくのですが、スマホはやり取り中の画面を開けたままの状態で、カメラはずっと回っていました。彼らは、「待ち合わせしていた10代の子に会いに来たのか?」と大声で言いました。待ち合わせに来ていたプレデターの顔には、これから起こることを予測して後悔した表情が浮かんでいました。そして、何かの間違いだと言ったり、神に祈ったり、顔を両手で包み込んで泣き始めたりしました。プレデターハンターたちは、プレデターに質問や非難の言葉を浴びせます。「どういう魂胆で年端もいかない子とネットでチャットしたんだ?」とか「お前は変態だ、不潔だ 」などと罵っていました。その後、警察に通報するとか、もう通報したとか言い出します。結局、待ち合わせ場所まで来たプレデターは逃げ去ることになるのですが、画面上にはその者の名前と車のナンバープレートが点滅しながら晒されていました。
プレデターが子供と落ち合おうとしていることに、カムは非常に憤りを感じていました。そんな時に、警察でもなく、テレビのジャーナリストでもない、一般の人たちが、その憤りを代弁すべく活動しているのを目にしたわけです。彼女の夫とその弟は、そうした動画を見て同じようなことをしたいと決心しました。カムは私に言いました、「主人とその弟は、『自分たちの地元で同じことをやったらどうだろう?』と考えたようです。私は『分かったわ。私も手伝うわよ』と言ったんです。」と。カムは、テキサス州オデッサに住んでいます。カムというのは、もちろん仮名です。報復を受ける恐れがあるということで、彼女よりの要望を受けて仮名にさせてもらいました。
そうしたプレデターを懲らしめる動画は、ネット上にたくさん氾濫しています。そうした誰かを懲らしめるところを晒す動画は、ソーシャルメディア上では根強い人気があります。また、そうした動画を見ることで、正義のために自警団が活躍するところを視たような気分に浸れますし、本当の犯罪現場を視たような臨場感を味わうこともできます。ここ数年、プレデターハンターの動画はYouTubeで増えており、それなりのビュー数があります。投稿される動画の数も急増しています。プレデターハンターに関するコンテンツはYouTube以外ではほとんど目にすることはありません。これらの動画は、2000年代初頭に放映されて非常に人気を博したテレビ番組「To Catch a Predator(NBCの”dateline”というニュースマガジンの中の番組で、インターネットで13歳に扮した男のTV局員がエロい内容のチャットのやり取りをしてプレデターを見つけて家までおびき出し、相手が家に来た際に司会のChris Hansenが登場してインタビューするというショー)」で使われていたフォーマットをほぼそのまま踏襲しています。が、テレビ局の制作するものと異なり、素人が作ったものですので、編集がちょっと雑な感じが否めませんし、手作り感が満載な感じです。今年初めには、ノースカロライナ州のとあるターゲットの店舗で、プレデターハンターがおびき出したプレデターに声をかけたところ殴り合いの喧嘩に発展し、プレデターハンターが脚を撃たれるという事件がありました。プレデターハンターの動画の中には、ビュー数が何十万に達するほど人気のあるものもありました。そんなにビュー数が稼げるなら、自分もプレデターハンターをやってみようかと考える輩が出てきても不思議ではありません。各地で沢山追随する者が出たのは不思議なことではありません。2019年にNBCが調べたところ、全米にプレデターハンターの動画を上げているグループが30ほどありました。最近、ワシントン・ポスト紙が調べたところ、グループ数は160以上あって、今年だけでもプレデターをおびき寄せた動画が約1,000件以上作られていたそうです。
2004年、カムが8歳の時に、NBCの”Dateline”というニュースマガジンの1コーナーとして「To Catch a Predator」の放映が始まりました。このコーナーの司会者クリス・ハンセン(Chris Hansen)が、オンラインチャットで10代の若者を装ってプレデターを監視している団体「Perverted-Justice(歪んだ正義)」が活動していることをたまたま知りました。それで、NBCのプロデューサーと協力して、このグループの活動の形を変えさせ、プライムタイムにテレビで放映するにふさわしいフォーマットを作り上げたのです。そのために、一軒家を借り上げて、カメラを何台も設置し、おとり役となる若い俳優を何人も雇いました。また、その団体には1回の放映につき10万ドル以上の報酬を支払っていました。10代を装ったおとり役に騙されて、NBCが借り上げた家までおびき寄せられたプレデターは、そこで突然ハンセンと向き合うこととなります。現地の警察官も待ち構えていて、未成年者オンライン勧誘罪(5年から10年の禁固刑)で告発されることとなります。
フロリダ州立大学の歴史学教授で「Stranger Danger: Family Values, Childhood, and the American Carceral State(未邦訳)」の著者のポール・レンフロ(Paul Renfro)は言いました、「実は、そのシリーズは3年間でわずか20エピソードしか製作されなかったのです。しかし、私もそうでしたが、非常にたくさんの人たちが視ていて、非常に大きな衝撃を受けました。この番組のおかげで、多くの者が子供に対する性的暴力に関して、気をつけるべきことを新たに認識することとなりました。」と。その番組は、インターネット上の見知らぬ人が児童に性的虐待をする危険性があるということに焦点を当てていました。当時、児童の性的虐待の被害者のほとんどは知り合いから被害を受けていたので、見知らぬ人に注意すべきであるという概念はとても斬新でした。レンフロは言いました、「この番組では、子どもたちに脅威を与えるのは家族でもなく、神父やラビや教師やコーチとかでもなく、悪意のある見知らぬ人でした。」と。この番組の影響で、2006年にアダム・ウォルシュ法(Adam Walsh Act)が成立し、子供を狙った性犯罪で有罪判決を受けた人物を公的に検索できるデータベースが作られたのです(残念ながら、性犯罪者をデータベースに登録することが性犯罪を減らすのに効果的であったという証拠は全く存在していません)。
このテレビショー(To Catch a Predator)は、かなり批判されました。理由は、児童に成りすまして相手をおびき寄せて犯罪者を作り出しているという点、娯楽と法執行の境界線をあいまいにしているという点でした。しかし、この番組には児童を毒牙にかけるプレデターを追い詰めるという正当性があると考える者は少なくなく、肯定的な意見が批判を圧倒する傾向にありました。2007年には、プレデターをおびき寄せたものの後味の悪い結末となったこともありました。テキサス州テレル(Terrell)に住むビル・コンラッド(Bill Conradt)なる男がおびき寄せられていました。彼は数週間前から、13歳の少年を装った「Perverted-Justice(歪んだ正義)」のメンバーと卑猥なメッセージをやり取りしていたのですが、いざ会う段になってメッセージを返してこなくなったのです。捜査当局は、おびき寄せて逮捕する形を諦め、彼の自宅まで急行して逮捕することに決めました。テレビ局の制作班も異存はありませんでした。スワットチーム(SWAT team:凶暴で危険な状況に対処するよう訓練された警官隊)が家の中に突入し、カメラクルー1人も続いたのですが、コンラッドは拳銃自殺をしてしまったのです。NBCは後に和解したものの、コンラッドの遺族から、番組のプロデューサーが警察に圧力をかけて逮捕を急がせたとして訴訟を起こされました。
「To Catch a Predator」の放映は打ち切られたのですが、犯罪者をおびき寄せて責める形の番組は無くなりはしませんでした。しかし、「To Catch a Con Man(詐欺師を騙しておびき寄せて責める番組)」という番組がありましたし、時々YouTube の動画でそうした形のものを目にしましたが、いずれもそれほど人気はありませんでした。しかし、最近になって、児童の性的虐待に関してさまざまな陰謀論がネット上で広く流布するようになった結果、素人によるプレデターハンティングが再び流行するようになったのです。流布している陰謀論は、本当にとんでもない内容ばかりです。変態で小児性愛者の教師たちが性的搾取(グルーミング)を教育現場で行っていると、フロリダ州のデサンティス知事が言っていたという主張や、ピザゲート陰謀論(ワシントンDCのコメット・ピンポンというレンスランで民主党員が「ピザゲート」という児童人身売買組織を運営しているという主張)などです。