3.これからもネズミ捕り器の改良は永遠と続く
私が帰ろうとすると、パーは自宅の中を案内してくれました。自宅は博物館となっている倉庫からわずか20フィートのところにありました。たくさん部屋がありましたが、ほとんどの部屋に彼のコレクションが収蔵されていました。それらをトータルすると博物館に展示されていたものの倍はありました。キッチンのテーブルは、食事で使われることは無いようで、アンティークのダルマストーブ(potbelly stove)もたくさん置かれていました。また、彼の奥さんが趣味で蒐集していたものも置かれていました。イチゴに因んだものがほとんどで、いずれもイチゴの形をしたキャンドル、巣箱、塩入れ、鍋敷きなどが置かれていました。奥さんは2012年に卵巣がんで亡くなりましたが、パーはそれらをそのままの状態にしています。彼は、家で過ごすことが好きです。ランチはいつも近くのチェーン店のレストランで済ませています。そこは毎週水曜日にパイデー(pie day)をやっていてパイがお得に食べられます。夜も家にいることが多く、ホールマーク・チャンネル(Hallmark Channel)で映画を見たりします。家の中はモノがやたらと多いわけですが、無秩序に散らかっているわけではありません。それが証拠に、冷蔵庫の中の牛乳は、ラベルが外を向くように置いてあります。彼と違って世の中にはせっかく蒐集したものをしまい込んでしまう者も少なくありません。彼はそれが理解できないと言っていました。彼は言っていました、「見たいから蒐集したのに、しまい込んだら意味が無いのではないか?持っているだけでは意味が無いのではないか?」と。パーがこれまで興味を持って蒐集した品々は、すべて目に見えるところに置かれています。
チェーン店のレストランでランチをとりながら、私とパーは蒐集の意義について考えてみました。もしかしたら、それは投資かもしれません。パーが蒐集した罠等は高く評価されており、総額10万ドル近い価値があるとパーは推定しています。もしかしたら、単に集めるのが楽しいからなのかもしれません。子どもは何でも集めるのが好きですが、単にそれが高じただけなのかもしれません。もしかしたら、ネズミ捕り器には数奇な歴史があって思わず蒐集せずにはいられない魅力があるのかもしれません。もしかしたら、ネズミ捕り器自体や、それを見つけたり蒐集して並べたりすることが、パーの心をワクワクさせるのかもしれません。発明に勤しむ者が試作品を作っている時にワクワクするのと同じなのかもしれません。結局、私とパーは納得できるような答えを見つけることが出来ませんでしたが、それ以上考えるのは止めました。
彼が最近好んでしているのは、博物館の中で子供たちを案内することです。子どもたちが展示物を見て目を輝かすのを見るのが楽しいと言っていました。パーの実の子や孫たちは、全くネズミ捕り器に興味がありません。けれども、彼は自分のコレクションを家族が引き継いで、博物館を存続させてほしいと願っています。しかし、自分が死んだら博物館は閉鎖されるだろうと諦観しています。私は、救急救命器具等を販売しているパーの息子に会いました。彼が私に言ったのは、どうなるかを予測するのは難しいことであるが、パーの収蔵物の中でも特に愛着の強かったものは家族が引き継ぐだろうが、大部分は他の博物館や蒐集家に渡るだろうということでした。
2005年に出版されたネズミ捕り器の歴史に関する本の中で、ドラモンドは、ネズミ捕り器の改良は続き、絶えることは無いだろうと主張していました。たとえ既存のネズミ捕り器が非常に良く機能していても、必ず一部のユーザーがそれを効果的に使うことができないからです。その本は、「今改良すべきは、ネズミ捕り器ではなく、それを使う人間なのかもしれない。」という挑発的な言葉で締めくくられています。ネズミ取り器の発明が止むことなく続く理由は、技術的な不備にあるのではなく、人間の本質にあるのでしょう。ネズミを捕獲し、殺し、処分するということは、ほとんどの人にとって耐えがたいほど不快なことです。そうです、パーの博物館で学ぶべきことは、不快なことでもやらなければならなかった人類がより良い方法を見つけようと苦闘してきた歴史なのです。この博物館は、人類の根気強さを証明するものなのです。
彼の家から帰る前に、私はパーにアドバイスを求めました。私がどんなネズミ捕り器を使えば良いか聞いてみたのです。彼は、ネズミ捕り器はあまり使ったことが無いと言いました。彼は農村地域に住んでいながら、ネズミ捕り器を使う必要性に迫られたことは無いそうです。彼の考えでは、一般的には、バネ式のものが最適だそうです。彼は絶対に強粘性の糊を使ったものは絶対に使わないそうです。彼の博物館にもそれは無いそうです。彼がそれを、不愉快で、退屈で、想像力の欠片も無いと思っているからです。♦
以上