米国農業ルポ!オーガニック食品に関する大規模詐欺事件の顛末!主犯ランディ・コンスタントは起訴後に自殺!

5.コンスタントはボルジャーディンが知らないところでサイドビジネスをしていた

 今思うと不思議なのですが、当時のボルジャーディンは、パートナーの裏切りそうな雰囲気に全く気づかなかったのです。ミズーリ州では、ランディ・コンスタントは非常に顔が広かったので、それなりに皆から信頼されていたのです。ボルジャーディンは、コンスタントがいつも副業をしていることを知っていました。ボルジャーディンは言いました、「コンスタントがフィスター種苗会社の仕事も副業でやっていることは認識していました。常に私はそのことが気がかりでした。私たちのビジネスが上手くいったら、彼は副業をどうするのだろうかと考えたこともありますし、逆に副業が上手くいったら私とのビジネスは捨ててしまうのではないかと考えたりしました。」と。

 ボルジャーディンは、ある時オーガニック認証機関の審査官から記録内容について質問された時のことを今でも鮮明に覚えています。その際には、コンスタントが対応したのですが、巧妙に質問をはぐらかす様子に畏敬の念を持ったほどだったそうです。「ランディ・コンスタントは、『その質問はこの書類を見れば分かるだろ!次の質問はそこの書類を見れば分かるだろ!どうしてそんな簡単なことも分からないんだ。お前は何も考えていないのか?』と言いながら、書類の山を崩したんです。」と、ボルジャーディンは言いました。審査官はすっかり怯んでしまったそうです。その時のことを思い返すと、ボルジャーディンは、コンスタントはいくぶん芝居がかっていたと思わないこともありません。しかし、当時のコンスタントの声の調子や行動は、何か人を安心させるところがあったのです。

 2001年、コンスタントはオーガニック・ランド・マネジメント社を代表して、提携農家のオーガニック大豆をクラークソン・グレイン社が所有するイリノイ州ビアズタウンの施設に納める契約を交わしました。クラークソン・グレイン社は、農家から穀物を買い付けて主として食品メーカーに販売する会社で、オーガニックの穀物や遺伝子組み換えでない穀物を早くから専門に扱っていました。当時、穀物業界は、モンサント社が開発したラウンドアップレディ(グリホサートベースの除草剤ラウンドアップに耐性のある遺伝子組み換え作物種子)の大豆やコーンの登場で変貌を遂げつつありました。ラウンドアップを撒くだけで除草ができて、作物には影響が無いということで、少ない手間で大幅に収量を増やすことが可能になったのです。

 非遺伝子組換作物には、オーガニックのものもあるしオーガニックでないものもあります。しかし、遺伝子組換作物は、間違いなくオーガニックではありません。今日、オーガニックな穀物を買付する業者は、必ずと言って良いほど遺伝子組換作物であるか否かをチェックしています。しかし、2001年頃には、納品されるたびにチェックをするような買付業者はほとんどありませんでした。しかし、その当時でもクラークソン・グレイン社は納品ごとにチェックしていました。

 当時、ビアードタウンにあったクラークソン・グレイン社の集荷場で働いていた従業員の1人は、トラックで到着したオーガニック・ランド・マネジメント社が非遺伝子組換であるとして納品した大豆をチェックした時のことを今でもよく覚えています。チェックした結果、遺伝子組換大豆であると判明したそうです。その大豆を運び込んだ運転手は、農場で集荷した際にミスをしてしまい、別のトラックに積む大豆を積んでしまったに違いないと言っていたそうです。次の日もその運転手が大豆を納品しに来ました。非遺伝子組換か否かのチェックをしたのですが、またも遺伝子組換であることが判明し、そのトラックは追い払われました。それを受けて、コンスタントは激怒してクラークソン・グレイン社に電話しました。それで、「チェックのミスだ!どうして遺伝子組換大豆なのに受け取らないのだ。」と言いました。その後もオーガニック・ランド・マネジメント社の大豆を積んだトラックは1週間ほど来ていたのですが、やがて来なくなりました。結局、クラークソン・グレイン社はオーガニック・ランド・マネジメント社との契約を破棄しました。クラークソン・グレイン社の集荷場の従業員は言いました、「あの時、コンスタントは非遺伝子組換のチェックをしない買付業者を見つけたのでしょう。 」と。私は、先日、電話でクラークソン・グレイン社の創設者兼CEOのリン・クラークソンと話をしました。彼は、コンスタントのことをインターネット詐欺師に例えました。そして、言いました、「彼は、騙すことが可能な非遺伝子組換作物の買付業者を探していたのです。実際に、遺伝子組換作物を買付業者まで運んで、チェックするか否かを試していたのでしょう。ランサムウェアを仕掛けるインターネット上の詐欺師のように、手当たり次第に試していたのです。そうやって、チェックの緩い買付業者を見つけ出したのでしょう。」と。

 クラークソン・グレイン社が大豆のトラックの受入れを拒否した頃、アイオワ州フォートアトキンソンで穀物商をしていたドゥエイン・ブッシュマンが、オーガニック・ランド・マネジメント社から初めてオーガニック認証されたコーンを買い付けました。ブッシュマンは、オーガニック・ランド・マネジメント社の農場を2カ所訪問したことがあり、この取引に確信を持っていました。その後数年間、彼は同社からコーンを買い続け、取引量は増え続けました。ところが、奇妙なことが起こりました。彼が2006年の前半に電話でコンスタントと話をした時、コンスタントは前年に収穫済みのコーンの在庫はもう無いと言っていました。しかし、1週間後に再び電話で話す機会があったのですが、コンスタントはコーンを供給できると言いだしたのです。そして、「鉄道貨車5両分の在庫がある。」と言ったのです。貨車1台には、約100トンのコーンを積載できます。貨車5台分のコーンというのは、ミズーリ州のそれなりの大きさの農場の年間収穫量に匹敵します。そこで、ブッシュマンは、そのコーンがオーガニックであることを証明する「取引証明書」を見せてほしいと頼みました。ブッシュマンは、アシスタントとして数年前から働いていたリンダ・ホルトハウスに、取引証明書を入手するまで、貨車5台分のコーンの代金を支払わないように指示しました。それから、商談に出かけました。

 ブッシュマンが商談から戻ると、ホルトハウスは既にコーンの代金を支払っていました。また、彼女は新しい仕事を見つけてきたようでした。ジェリコ・ソリューションズ社への入社が決まっていました。そこはランディ・コンスタントが友人のジョン・バートン(ミズーリ州の農民)と共に新設したばかりの穀物仲買業者でした。2006年9月には、コンスタントはジェリコ・ソリューションズ社の支店をアイオワ州オシアンに開設しました。登記上の住所はホルトハウスの自宅になっていました。

 ブッシュマンは、コンスタントに連絡を取ろうとしましたが、連絡がつきませんでした。仕方がないので「オーガニック・ランド・マネジメント社」でググりました。それで、グレン・ボルジャーディンの名前を見つけ、彼に電話をしました。ボルジャーディンは、コンスタントがなかなか電話を返してくれないことに同情し、何か手伝えることはないかと尋ねました。
ブッシュマンが言いました、「君のところから買った鉄道貨車5両分のコーンの取引証明書のことについて確認したいんだ。」と。
ボルジャーディンは混乱して言いました、「何のこと?と。」
ブッシュマンが言いました、「鉄道貨車5両分のコーンの取引のことだよ。知らないの?」と。
ボルジャーディンは、ブッシュマンに、オーガニック・ランド・マネジメント社はブッシュマンの会社に穀物を売ったことはないと言いました。

 しばらく沈黙が続きました。ブッシュマンは不安になって、オーガニック・ランド・マネージメント社が近年ミズーリ州で栽培しているコーンの量を聞きました。ボルジャーディンは、作付面積は1,500エーカーほどであると説明しました。再び沈黙が訪れました。ボルジャーディンは当時のことを回想して言いました、「本当に静かでした。ピンが落ちる音も聞こえたでしょう。」と。

 計算が合わなかったのです。ブッシュマンはコンスタントからコーンを買い付けたのですが、その量はオーガニック・ランド・マネジメント社がミズーリ州の農場で収穫できる全量よりもはるかに多かったのです。ボルジャーディンは、自分の知らないところで、コンスタントが非常に大きな取引をしていることに気付き始めました。それで、コンスタントはサイドビジネスをしていて、他のオーガニック農家から穀物を買付してそれを販売するというブローカー的なビジネスを行っているのではないかと考えました。しかし、ボルジャーディンは、弱々しく笑って言いました、「ブローカー業だけでなく、他にも何かやっているかもしれない。」と。