5.キャビン・フィーバーを患った者が主人公の物語は至る所にある
D. H・ローレンスはかつて、アメリカ人の魂の本質を「頑固で(hard)、孤立し(isolate)、沈着で(stoic)、殺人者(killer)である」と定義していました。私は、アメリカ人の魂が頑固で(hard)、沈着で(stoic)、殺人者である(killer) という点については、同意して良いのか否かよく分かりません。が、孤立している(isolate )という点は、まさにその通りだとと思います。広い大陸のあちこちに人が住んでいて、孤独に暮らしている人は山ほどいます。彼らの孤立から、アメリカではいくつもの物語が紡ぎだされてきました。ハックルベリー・フィンは、酔いどれの父パップに丸太小屋に監禁されて閉じ込められました。その時、ハックルベリー・フィンは、言いました、「非常にゆっくりと時間が流れているように感じる。」と。そして、丸太小屋の中で孤独に座って考えた後、壁の下部を壊して逃げ出しました。ハックルベリー・フィンの冒険物語は、彼が丸太小屋から逃げ出すところから始まります。その後、彼は、イカダに乗っている時に自由を満喫していることに感動します。その感動は、父パップに小さな丸太小屋に閉じ込められた時に孤独を感じたことを身体が覚えていたので、より大きなものとなりました。彼も、丸太小屋の中では、キャビン・フィーバーを引き起こしていたと思われます。彼は、奴隷の身であり自由の身ではないジムと一緒に旅をします。しかし、後に裏切られます。そして、捕らえられ、小屋に1人で閉じ込められることになりました。最終的には、そこから解放されるのですが、その後痛い目を見ることとなります。
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー(アメリカの作家・思想家・詩人・博物学者)も、軽いキャビン・フィーバーを患っていたようです。しかし、それを自覚していなかったようです。彼は、ニューイングランド出身で勤勉でしたので、キャビン・フィーバーを患っていたのに、研究や創作に没頭することができたのでしょう。ジョン・グリーンリーフ・ホイッティア(アメリカのクエーカー教徒の詩人。奴隷制度廃止を提唱)の「雪に閉ざされて(Snow-Bound)」は、吹雪で室内に閉じ込められた人々が互いに話をする様子を描いた詩集です。詩集がベストセラーになるということは非常に珍しいことなのですが、この詩集は稀にみる売れ行きとなりました。この詩集は南北戦争の直後に発表されたのですが、多くの読者が家の中に閉じ籠ってあれやこれやと思索することも悪くないと再認識したようです。スティーブン・キングの小説「シャイニング(The Shining)」は、キャビン・フィーバーを患った人物が主人公のホラー小説です。