3. Hybrit プロジェクトの進捗状況
完全なグリーンスチールを作るという目標が達成できないとはいえ、電気アーク炉の実験は進めなければなりません。ということで、スウェーデンで開始される予定です。この国の目標は、2045年までに世界に先駆けて完全なグリーンスチールを作れるようにするということです。スウェーデンは他の国々も追随することを望んでいます。現在では、世界の鉄鋼のほとんどを供給している中国も、炭素排出量の削減に取組んでいます。ペイが私に言ったのは、少なくとも直近では、グリーンスチールのコストは旧来の鉄鋼よりも20〜30%高くなるだろうということでした。しかし、いずれ電気溶解プロセスが効率化され、クリーンエネルギーもより安価になるので、コストは下がっていくと予想されます。また、グリーンスチールに対して、補助金、税金、関税などの手段で各国政府の介入が為されれば、グリーンスチールの競争力はより強くなるでしょう。やがて安価になっていき、旧来の製法の鉄鋼を駆逐するはずです。
Hybritプロジェクトで作られた鉄鋼は、SSAB社で圧延されます。SSAB社は、自動車メーカーのボルボにグリーンスチールの初回納品を実施しました。今月(2021年9月)、SSAB社はメルセデスベンツ社にグリーンスチールを納入する契約を交わしたと発表しました。ストックホルム環境研究所で製鉄業の環境負荷低減に関する研究を主導しているゴクチェ・メテは私に言ったのですが、グリーンスチールを使用して製造された自動車は300ユーロほど割高になるとのことです(洗濯機の場合には20ユーロほど割高になります)。メテは、多くの消費者はそれくらいの上乗せなら喜んで支払うだろうと予想しています。メテは言いました、「スウェーデンではグリーンスチールは非常に注目されています。若者たちが、ヒッピーのような人でさえも、カフェで食事しながらそれに関して話し合っている姿を良く目にします。グリーンスチールは、日常生活の中で非常にホットな話題になりつつあります。」と。スウェーデンではグリーンスチールを報道機関も熱心に取り上げていますし、国民の気候変動に関する関心も高いと、メテは言っていました。スウェーデンではグリーン(環境にやさしい)ということに対する関心が非常に高く、ある統計によれば、国民の10人に1人は先進的な製造業で働いています。
スウェーデン政府が行っている化石燃料の使用を減らす取組み”FossilFreeSweden”の幹事を務めるスヴァンテ・アクセルソンは、政府と産業界が協力してグリーン(環境にやさしい)経済に変革することを支援することが職責です。アクセルソンは言いました、「国を挙げて取組む必要があります。また、全ての者が参加して、協力して取組む必要があります。環境負荷を減らす取り組みに無関係な人などいないのです。気候変動を小さくするという視点から炭素排出量削減に取組むわけですが、それはそのまま、将来有望な産業を創出し雇用を生み出すことにも繋がります。」と。アクセルソンが言っていましたが、産業をグリーンな形に変換しながら、景気や雇用に悪影響を及ぼさないようにするということも政府の重要な役割です。そうした役割は過去には無いものでした。それを達成するためには、やるべきことが沢山あります。国や地方自治体は環境にやさしいものを優先して調達するとか、環境にやさしい案件への投資を促進し、許認可で便宜を図ったり、労働者への教育をすることも必要でしょう。共通の目標に向かって、規制等の調和を図り上手く機能するようにすることも必要でしょう。彼は言いました、「大きくやり方を変える必要があります。2人でタンゴを踊っていたのをやめて、スクエアダンス(2人ずつ組んで4 組(8人)で方形を作って踊る)を踊らなくてはなりません。取り組みを正しい方向に進めるためには、より多くの人が参加することが必要なのです。」と。