ジェフ・ベゾス、イーロン・マスク、ジョージ・ソロス・・・超富裕層はどうやって課税を逃れてきたのか?

Our Columnists

The ProPublica Revelations Show Why We Need to Tax Wealth More Effectively
プロパブリカが明らかにしたのは、どうして富裕層の課税逃れを防ぐために税制を改革する必要があるかということです

How Jeff Bezos, Elon Musk, Michael Bloomberg, George Soros, and other American billionaires have gamed the system.
ジェフ・ベゾス、イーロン・マスク、マイケル・ブルームバーグ、ジョージ・ソロス・・・アメリカの億万長者たちはどのようして課税を逃れてきたのか。

By John Cassidy June 8, 2021

 IRS(以下、内国歳入庁と表記)の機密情報が非営利の米報道機関ProPublica(以下、プロパブリカと表記)に流出し、アメリカの超富裕層が連邦所得税をほとんど払っていないことがわかりました。プロパブリカの火曜日(5月8日)の報道では、冒頭で2007年にジェフ・ベゾスが連邦所得税を全く払っていないことが明かされました。現在、彼は世界一裕福ですし、2007年にはすでに億万長者でした。また、彼は2011年も同様に全く連邦所得税を払っていませんでした。他の億万長者についても同様であることが明かされました。2018年には現在世界で2番目に裕福なイーロン・マスク(テスラの創業者)が連邦所得税を全く払っていませんでした。また、マイケル・ブルームバーグは、ここ数年で何度か連邦所得税を全く払わなかった年があり、著名投資家のカール・アイカーンも2度連邦所得税を払わない年があり、ジョージ・ソロスは、3年連続で連邦所得税を全く払っていませんでした。

 名前を挙げられた人たちは、間違いなく、この報道は意図的に冒頭に人々が食いつきそうなことを書いたもので、事実の全体像を歪曲しようとする意図があると反論するでしょう。その報道では、記事の後半部分で、2014年から2018年の5年間でAmazonの創業者兼CEOのベゾスは連邦所得税を9億7,300万ドル払い、テスラのCEOのマスクも同時期に4億5,500万ドル払っていることが明らかにされました。メディア王で前ニューヨーク市長のブルームバーグは、2018年に慈善活動に9億6,830万ドルを寄付したので3.7%の所得税率が適用されました。そうした事実を見ると結構な額の所得税を払っているように思えますが、しかし、この報道の主旨である超富裕層は所得税をほとんど払っていないということは疑いの無い事実です。ここ数十年、株式市場が高騰しましたので、一部の超富裕層は資産を莫大に膨れ上がらせましたが、ほとんど課税されることはありませんでした。今回の報道は、プロパブリカの3人の記者(ジェシー・アイジンガー、ジェフ・エルンストハウゼン、ポール・キール)によるものですが、彼らが内国歳入庁の記録を調べて明らかにしたのは、超富裕層が連邦所得税を僅かしか払っていないが、それが完全に合法であるということでした。そして、毎年資産を増やし続けているのです。

 地方固定資産税の対象となる不動産とは異なり、米国では他の形態の資産(金融資産等)は年間ベースで課税されることはありません。資産が売却または譲渡されるたびに、本来であれば連邦政府が税金を課すはずですが、税制上の抜け穴があって超富裕層はキャピタルゲイン税や相続税を最小限に抑えることができるのです。19世紀後半には政治経済学者ヘンリー・ジョージが指摘していましたが、米国の税制は超富裕層が莫大な資産を持っているにもかかわらず税負担が少な過ぎることが問題となっていました。それ以来、税制を改革すべきだという議論は度々持ち上がりました。1995年にニューヨーク大学のエコノミストのエドワード・ウルフは、富の過度の集中はアメリカの民主主義に対する脅威であると警告し、富裕層に対しては保有する資産に応じて毎年課税するべきであると主張しました。最近では、2020年の大統領選挙活動中、エリザベス・ウォーレン上院議員が裕福な世帯を対象とした富裕税の導入すると主張していました。ウォーレンは今年初めに再びそれを主張し、純資産が5,000万ドル以上の世帯には年率2%、10億ドル以上の世帯には年率3%を、内国歳入庁が課税すべきであると提案していました。

 一部の超富裕層が想像を絶するほどの巨万の富を蓄えていることを考慮すると、ウォーレンの提案が実現すれば理論的にはかなり税収を増やすことが出来るでしょう。ベゾスの推定純資産額(約2,000億ドル)に基づけば、ウォーレンの提案が実現すれば、想定ではベゾスは年間50億ドル以上の税金を払うことになります。同様にマスクは約45億ドル、Facebook社の創業者マーク・ザッカーバーグは30億ドル払うことになります。この想定額に比べれば、ベゾスら超富裕層はたまに税金を払った年がありましたが、それは本当に微々たるものです。カリフォルニア大学バークレー校の経済学者でウォーレンの富裕税導入案の構想に関与したガブリエル・ズックマンはツイッターでつぶやきました、「米国で最も裕福な25人は、2018年に純資産の0.17%しか税金で払っていない。これは、どう見ても少なすぎる。彼らの収入に対する実効税率は非常に低いのです。中産階級のそれと比べると非常に低くなっています。」と。

 今回のプロパブリカの報道のおかげで、非常に裕福な人たちのみに膨大な種類の課税回避策が存在していることを知ることができました。いくつかの課税回避策は馴染みのあるものでした。たとえば、株などの資産をできるだけ長く保持するという方法があります。また、投資で損失分を収入から相殺する方法もあります。税法上で非常に有利に扱われる不動産に投資するという方法もあります。慈善財団を設立するという方法もあります。しかし、今回の報道は、これまであまり知られていなかった方法も明らかになりました。

 一部の株式公開企業の経営者は、自分や他の株主に対して配当金を払わないという方法を取っています。配当金は課税対象となるからです。ウォーレン・バフェットはその方法を実行しています。また、多くの超富裕層は、膨大な資産を担保にして銀行から借金をするという方法を取っています。借金ですので利息がかかりますが、その額の所得税率に比べれば極々僅かなものでしかありません。マスクは昨年この方法を実行していました。今回のプロパブリカの報道で言及されていますが、テスラ社が公表した資料によると、マスクは昨年テスラ社の株式9,200万株を担保に差し出して、今年5月29日の終値で計算すると577億ドルに相当しますが、パーソナルローンを組んでいました。今回の報道では、他の例も触れられており、2016年と2017年にウォール街の投資家カール・アイカーンは5億4,400万ドルの調整後総所得を計上していたにもかかわらず、連邦所得税を全く払っていませんでした。彼は非常に多くの借入をして、利子の支払いが収入を上回ってた形にして何億ドルもの控除を受けていたのです。彼は、プロパブリカの取材に対して、「残念なことに、私はお金を増やすことができなかったのです。脱税の意図は全くありません。単純に調整後総所得よりも利子の支払いの方が多かったのです。」と答えました。

 ニューヨークタイムズ紙がドナルド・トランプの納税申告書に関する記事を掲載していましたが、米国には全く異なる2つの税制が存在しているようです。1つは、ほとんどの人に適用される税制で、給与所得額によって税額が決まります。もう1つは、株式や債権に投資したり他の資産などを運用して資産を増やし続けている人たち向けの税制です。税制改革が為されるべきですが、主要政党の1つ(共和党)が従来から税制改革に反対する姿勢を崩していませんし、富裕層の利益を守るためのロビー活動も激しくなっていますので、税制をより公平なものにすることは非常に困難でしょう。しかし民主党にやり遂げる気概があれば出来ないはずはないのです。

 バイデン政権はウォーレンの提案した富裕税の導入は却下しましたが、現行の税制に3つの重要な変更を加えることを提案しました。1つめは、法人税率を21%から28%に引き上げることです。法人税率を高くすれば、それは株主が負担することになるため、ベゾスやザッカーバーグのような株式を大量に保有する者への税率を実質的に引き上げることになります。2つめは、最高所得税率を39.6%に引き上げ、富裕層のキャピタルゲインに対しても同じく39.6%の税を課すということです。現在の長期キャピタルゲインに対する税率は僅か20%ですが、所得税もキャピタルゲイン税も同じ税率39.6%になります。それによって、公平な税制になりますし、大きく税収も増えるはずです。そして3つめは、悪名高き「ステップアップ制度」という抜け穴を塞ぐことです。ステップアップ制度では、相続する財産の取得コストは相続発生日の公正市場価格に付け替えられてしまいます。ですので、富裕層の相続人が金融資産等の財産を相続する際に資産価値が上昇していたとしても、死んだ者も相続人も大した税金を払っていませんでした。バイデン政権は、その抜け穴を塞ぐ手段として、死亡時に未実現のキャピタルゲインに課税することを提案していました。

 3つの変更案は、超富裕層に富裕税を課すという提案に比べると注目度は低いのですが、変更が為された場合の効果は大きいと思われます。ワシントンの独立系の税制調査機関Tax Foundation(タックスファンデーション)によると、キャピタルゲイン税を課した上にステップアップ制度を変更するとなると、既存の相続税と合わせて超富裕層の相続税率は最大で61%になる可能性があります。61%という見積りはちょっと高すぎるのではないかと思いますが、バイデン政権が提案している税制改革案は、かなり大胆で革新的なものです。税制改革が為されたとしても、優秀な会計士たちを擁する超富裕層は必ず抜け道を見つけ出すだろうと思う人も少なくないでしょう。そういう懸念が現実とならないよう留意すべきですが、きちんとした税制が整備され、内国歳入庁の業務執行のための十分な資金が提供されれば、多少の抜け道は残るかもしれませんが、超富裕層に応分の税負担を強いることが可能になるでしょう。プロパブリカの今回の報道によって明らかになったのは、税制の改革がどうして必要なのかということです。

以上