所得格差は拡大し続けるのか?米国では「上位1%」の富裕層の所得が国民総所得の約20%を占めている!

4.世間は不平等の問題に注目している

 多大な影響力を持つシカゴ学派は、不平等と所得分配に関する研究にはあまり力を入れていませんでした。それで、米国では長い間、そうした研究はあまり注目されていませんでした。アペルバウムが「エコノミストの時間」で示しているように、シカゴ学派は市場をより効率的に機能させる方法の理解に集中し、分配の問題の研究は不足してしました。(皮肉なことですが、ミルトン・フリードマンの修士論文の指導教官はサイモン・クズネッツでしたので、フリードマンの修士課程修了後最初の仕事はクズネッツの為の所得分配に関する調査でした。)シカゴ学派では、不平等自体は悪いことではないという見解が優勢でした。不平等であるからこそ、人々は一生懸命働き、自分だけは自らの力で這い上がろうとするだろうという風に考えられていました。

 対照的に、ミラノヴィッチは、近年の所得分配の状況を追跡するのをデータを駆使して助けています。データを駆使する新世代の経済学者の中の1人です。そうした新世代の経済学者の中には、フランス人が意外なほど沢山います。フランソワ・ブルギニヨン、トマ・フィリポン、トマ・ピケティ、エマニュエル・サエズ、ガブリエル・ズックマンです。フランス人が多いのは、全くの偶然です。フランスが平等と友愛の国だということは全く関係していません。

 ミラノヴィッチやフランスの経済学者らを始めとするヨーロッパの経済学者の一団は、トクヴィルの功績から色々と学んでいました。米国人以外の経済学者が米国を分析することで可能となる非常に冷静な分析のおかげで、私たち米国人も自国のことをより正確に分析することが出来るようになりました。彼らはまた、不平等の問題に世間の注目を集めることに成功しました。彼らは、ジニ係数などの分かりにくい統計によって不平等を数値化することを意図的に避け、代わりに、もっと分かりやすい指標を、例えば、超富裕層に所得全体の何割が流れているかを明確に示すこと等ですが、普及させました。それにより、未だに不平等の問題に対する関心は薄くなっていません。また、彼らは、「上位1%層の」という言葉を使い始めました。その対となる言葉から生まれたスローガン「We are the 99%」を2011年の「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」運動のデモ行進時には皆が口にしていました。不平等の問題は2020年の大統領候補指名争いでも主要な論点となっていました。民主党の指名争いの候補たちは、富裕税、所得税率引き上げ、相続税率引き上げ、社会保障制度の充実をこぞって主張をしていました。そのことは、優れた理論は歴史の流れを形作る力があるということを再認識させてくれるものです。

以上