Signalgate (シグナルゲート)で露呈したトランプ政権の無能ぶり!独裁政治の脅威が高まっている!

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The Greater Scandal of Signalgate
シグナルゲートの大スキャンダル

The spectacle of incompetence and the attempts to smear a reporter are a misery; even worse is the encroaching threat of autocracy that cannot be concealed or encrypted.
無能さを露呈し、記者を中傷しようとする試みは陰惨なものである。さらに悪いことに、隠すことも暗号化することもできない独裁政治の脅威が迫りつつある。


By David Remnick March 26, 2025

 いつの時代にも、その時代を象徴するほどのバカ( knuckleheads )や間抜け( butterfingers )な集団が産まれる。 マック・セネット( Mack Sennett:20世紀初頭の映画監督・プロデューサー)のキーストーン・コップ( Keystone Cops:コメディアングループで警察署を舞台にしたドタバタ喜劇が得意)、スリー・ストゥージズ( Three Stooges:1930 年代に短編喜劇映画を量産した 3 人組、三ばか大将とも呼ばれる)、1962 年のメッツ( Mets:この年は勝率 2 割 5 分と大きく負け越した)、ビーヴィス・アンド・バットヘッド( Beavis and Butt-head:2 人の少年によるブラックコメディアニメ)、ウェイン・アンド・ガース( Wayne and Gart:シカゴ郊外に住む、ロック好きの若者 2 人組。自宅の地下室から人気ケーブルテレビ番組「ウェインズ・ワールド」を放送)などである。スタンリー・キューブリック( Stanley Kubrick )の冷戦時代の名作「 Dr. Strangelove (邦題:博士の異常な愛情)」では、愚か者たちがカスタードパイではなく終末兵器を振り回す。同作では、スターリング・ヘイドン( Sterling Hayden )扮するジャック・D・リッパー( General Jack D. Ripper )准将が、共産主義者が「私たちの貴重な体液を吸い取り、汚す」という陰謀を企てているという妄想に憑りつかれ、トチ狂ってソ連への核攻撃を命令する。こうしたハチャメチャな顛末を娯楽として楽しめるのは、それがコメディや空想の世界のことだからである。現実だったら、全く楽しめない。

 ドナルド・トランプの第 2 次政権が発足して数カ月経った。その間、この政権の特質であるむき出しの悪意、報復措置、目もくらむような拙速さを目の当たりにしてきた。それらの印象があまりにも強烈なため、この政権の主要な人物たちの無能さがいくぶん覆い隠されてきた。これが、アトランティック( The Atlantic )誌の直近の報道で白日の下に晒された。同誌の編集者ジェフリー・ゴールドバーグ( Jeffrey Goldberg )が、無料メッセージ通信アプリ「シグナル( Signal )」のグループチャットに誤って招待されたという。そのチャットは「フーシ派 PC 少人数グループ( Houthi PC small group )」と名付けられていた。彼は、セーフウェイ( Safeway )の駐車場に停めた車の中でスマホに釘付けになった。信じられないことに、この国の国家安全保障を司る重鎮たちがイエメン( Yemen )のフーシ派( Houthi )の拠点を爆撃する際の詳細を詰めているところだった。

 この報道で笑えるのは、副大統領と国防総省や諜報機関などのトップが、中学生と同じ頻度で絵文字を使用していることが判明したことである。笑えないのは、今さら驚くべきことではないのかもしれないが、トランプ政権の主要メンバーが致命的とも言える失態を批判された際に、彼らがトランプが実践するルールに従って行動したことである。彼らはゴールドバーグの言動や人格に疑問を投げかけて非難した。実際には、彼は国家安全保障顧問( the national-security adviser )よりもはるかに国家安全保障に関心があることが明らかになっている。また、自分たちの失態と機密の漏洩に関して議会で証言することを拒否した。主要閣僚とホワイトハウス報道官のキャロライン・リービット( Karoline Leavitt )は、揃いも揃って故ロイ・コーン( Roy Cohn )がトランプに授けた原則に従っている。それは、攻撃し続ける、決して非を認めない、勝利を主張し続ける、というものである。

 機密漏洩問題で質問されると、さばさばとした侮蔑的な態度を見せながら火消しに躍起になっている光景が見られた。情けないにもほどがある。しかし、驚くべきことでもない。誤って共有されたチャットの中で、J.D.バンス( J. D. Vance )副大統領とピート・ヘグセス( Pete Hegseth )国防長官は、ヨーロッパ各国を誹謗中傷することを競い合っていた。ヘグセスはバンスに「ヨーロッパのただ乗りに対するあなたの嫌悪感に完全に同意する。本当に情けない連中である」と言った。しかし、このチャットが非常に憂鬱なのは、明らかにされた内容とその精神が既に我々にとって馴染み深いものであることである。バンスは公に、繰り返し、自分とトランプのヨーロッパに対する軽蔑を明かしてきた。最も露骨だったのは、2月にミュンヘン( Munich )で行ったスピーチである。移民と言論の自由の分野でのヨーロッパ各国の指導者たちの失敗について延々と説教くさい話をした。

 今回、シグナルを使った失態が明らかになったわけだが、トランプ政権の根底にある偏見と情けないほどの無能さが露呈した形である。おそらく、この政権の主要なメンバーのあらゆる私的な発言を 24 時間ライブ配信で聴いたとしても、ほとんど何も学べないだろう。先日、トランプとバンスがウォロディミル・ゼレンスキー( Volodymyr Zelensky )と会談したが、内容はとんでもないものだった。2 人はウラジミール・プーチン( Vladimir Putin )から聞いた主張や交渉要点をそのままゼレンスキーに伝えただけである。さらに、大統領執務室の記者団の前でゼレンスキーを怒鳴りつけて悦に入っていた。

 大統領のシャトル外交で重要な役割を担っているスティーブン・ウィトコフ( Steven Witkoff )もチャットのメンバーであったことが判明している。この人物の外交交渉能力は眉唾ものである。外交の歴史と戦略の細部に精通しているわけではない。それは、何カ月もかけてマスコミが丹念に調査しなくても明らかであるし、今回の失態以前からわかっていたことである。そもそも不動産屋の経験しかないのだから。先日、モスクワでプーチンと会談した後に、彼はタッカー・カールソン( Tucker Carlson )とのロング・インタビューに応じた。彼は、一貫してロシア側の主張をオウム返しした。また、ロシアの独裁者が寛大であると称え、トランプ大統領への贈り物としてトランプの「美しい肖像画( beautiful portrait )」が贈られたことを喜んでいた。ちなみに、彼は「プーチンを悪者とは思っていない」と発言している。ウィトコフによれば、トランプはその絵に「非常に感動した」という。そもそもウィトコフはウクライナ紛争の内容を十分には把握していないようである。彼の間抜けさを目の当たりにしてクレムリンでは失笑が止まらないだろう。プーチン政権は彼を意のままに操っている。ウィトコフは、しばし熟考した後、「今回の任務の複雑さを過小評価していたのは確かである。少し夢想的な考え方をしていたかもしれない。まるで、颯爽と乗り込んで一気に片を付けるつもりだった。でも、実際にはそんな容易なものではなかった」と認めた。

 ピート・ヘグセス( Pete Hegseth )が自省することは、ほとんどない。したがって、今回の失態についても全く意に介していないようである。元々、彼が無能であることは誰の目にも明らかであった。昨年 12 月にトランプが「 Fox & Friend 」週末版の司会者であるヘグセスを国防総省のトップに指名した後、ジェーン・メイヤー( Jane Mayer )が本誌に彼の華々しい経歴について綿密にレポートした記事を書いた。仕事とプライベートに関わらず過度の飲酒、極めて性差別的な態度を繰り返したこと、ドライクリーニング店よりは大きいが国防総省よりはるかに小さい企業を経営して失敗したことなどが明らかになっている。だが、そんなことは問題ではない。問題なのは、議会共和党がヘグセスの任命を拒否しなかったことである。彼らは大統領の怒りを買うリスクを恐れたのである。同様に、彼らはシグナルのチャットで失態を晒したもう 1 人の参加者、国家情報長官のトゥルシ・ガバード( Tulsi Gabbard )に対しても寛容だった。

 今週のスキャンダルは、オー・ヘンリー( O. Henry )の小説の結末に似ている。驚くべき点もあるが、知り得た内容自体は驚くべきものでもない。もし、アメリカの保健当局のリーダーたちのグループ・チャットにどこかの報道記者が誤って招待されたら、ロバート・F・ケネディ・ジュニア( Robert F. Kennedy, Jr )が効果が証明されたワクチンの推奨を拒否する場面に出くわすかもしれない。でも、それを見たって誰もあまり驚かないだろう。

 トランプ政権に重要な機密情報など存在しないと主張する者も少なからずいるわけだが、ホワイトハウスの機密情報の重要性を否定するのは賢明ではない。とはいえ、トランプの側近連中や政権中枢にいる者たちは、自分たちの意図を一切隠していない。リチャード・ニクソン( Richard Nixon )は、自身の暗部や偏った意見を、ヘンリー・キッシンジャー( Henry Kissinger )やH.R.ホールドマン( H. R. Haldeman )などの側近との個人的な会合以外では明かさなかった。対照的に、トランプは自らのイデオロギーを毎日のようにマイクに向かって声高に語り、ソーシャルメディアで発信している。法の支配に挑戦し、学術研究機関の権威を貶め、報道機関を弱体化させることを意図した独裁的な行動をとり、民主主義を掲げる同盟国を軽視している。多くの権威主義者に愛着している。グリーンランド、カナダ、パナマ、メキシコ、ヨーロッパへの敵意をむき出しにしている。あからさまに共和党内の非主流派を粛清しようとしている。批判者や敵と思われる人物にはむき出しの敵意を隠さず、絶えず威嚇し続けている

 トランプ政権下では独裁政治の脅威が日々高まっており、それは目に見えないところで進行している。そんな事実はないと否定する者もいる。諦め顔で順応するしかないと言う者もいる。現在の異常な状態を政治の世界ではよくあることだと捉えている者もいる。嵐はいずれ止むと考え、頬かむりを決め込んでいる者もいる。しかし、現在、脅威が現実のものとなりつつあり、誰もが目にしている。どんな暗号を使ってもそれを隠すことはできない。♦

以上