The Supply-Chain Mystery
サプライチェーンの謎
Why, more than a year and a half into the pandemic, do strange shortages keep popping up in so many corners of American life?
なぜ、パンデミックが発生してから1年半以上経った今でも、アメリカの生活の隅々に奇妙な品不足が生じ続けているのでしょうか。
By Amy Davidson Sorkin
September 26, 2021
パンデミックが長引いています。パンデミックの影響でレンタカー業界では異変が起きていることをご存じでしょうか?最近、レンタカーを借りたことが無い人でも、そのことを小耳にはさんだことがある人は少なくないのではないでしょうか。アトランタ空港では貸出しできるレンタカーが1台も無くなってしまい、レンタカー各社のカウンターには長蛇の列ができていました。ロサンゼルスタイムズ紙にはある男性の記事が載っていました。その男性は子供たちをディズニーランドに連れて行くためにコンパクトカーを予約していたのですが、実際に借りれたのは「タバコとマリファナの匂いの染み付いた」ワゴン車ということでした。しかし、現在、そうした話は決して珍しいことでも特別なことでも無いのです。レンタカーカウンターだけでなく、各所で長蛇の列が出来ています。価格も高騰しています。選択肢も狭くなっています。それらは、全て「サプライチェーンの問題」で引き起こされているのです。
サプライチェーンの問題とはどういったことなのでしょうか。また、パンデミックが発生してから既に1年半以上が経過しているのに、サプライチェーンの問題が経済活動のさまざまな面に影響を及ぼし続けているのは何故なのでしょうか?レンタカーが不足している状況は、少なくとも来年までは解消されないと予想されています。新車や中古車の在庫が不足しているのも同様に続く見込みです。先週、ブルックリン地区で営業しているPark Slope Food Co-op(パークスロープ食品生協)は、会員向けにメールを送信したのですが、特定の種類のパスタが在庫切れになる可能性があるとのアラートを流していました。また、手羽先を仕入れるのに四苦八苦している食品小売業者も多いようです。また、他には、衛生器具や建設資材といったものから、サラダドレッシング、一部の新刊本の流通が滞っており在庫の確保が難しいというニュースもありました。新型コロナの影響で、リモーツワーク、リモート学習が普及したおかげで、パソコンや通信機器等の需要も急増し、納品待ち状態が続いているようです。即座に手に入れようと思ったら、高い値段に鳴ることを覚悟しなければなりません。そんな状況ですので、ほとんどの商品が値上がりしています。過去1年間で、消費者物価指数は約5%上昇しました。それは、パンデミックが始まる前の年(2019年)の2倍にあたります。
とはいえ、アメリカ人がかつてソビエトの人たちが経験したような商店の棚に商品が何も無いような状況に陥っているわけではありません。また、買い溜めする必要もありません。いろいろな問題があるものの、アメリカでは、決して物不足の状況に陥っているわけではありません。しかしながら、現在のサプライチェーンの問題が示唆しているのは、世界経済には思わぬ脆弱性が隠れていたということであり、それを誰も認識していなかったということです。また、サプライチェーンの問題の影響は想像以上に大きく、景気回復の深刻な足枷となる可能性があります。
サプライチェーンの問題が引き起こされた原因で最も明確なのは、新型コロナです。レンタカー業界の場合には、2020年春に移動需要が急減したことを受けて、多くのレンタカー会社は自社の保有する自動車のかなりの部分を売却し現金に変えました。後に需要が復活したら自動車を購入するつもりだったのでしょう。しかし、需要が復活していざ自動車を購入しようとしたら在庫が払拭してしまって買えない状況になってしまったのです。自動車が不足している主な理由は、世界的な半導体の不足にあります。自動車に多く使用される半導体の供給が滞ってしまっています。それは主としてアジアで生産されていますが、当地では新型コロナの影響で多くの工場が閉鎖に追い込まれていました。先週、ウォールストリートジャーナル誌に載った記事では、「半導体チップ不足」の影響で自動車製造台数が約700万台減ったと記されていました。
先週の木曜日、商務長官ジーナ・ライモンドは、半導体チップの不足に関して会議を開催しました。フォード社、ゼネラルモーターズ社、アップル社、サムスン社など、半導体の需給に関連している企業の幹部が参加しました。その会議の終了後、商務省は、サプライチェーンを「信頼」できる状態にすることが喫緊の課題の1つであると発表しました。また、将来的には半導体の海外のサプライヤーへの依存度を下げる方法を探るとの発表もありました。同日には、ホワイトハウスのブリーフィングが為され、半導体チップの不足が米国経済を足枷となっており、推定では米国のGDP成長率を1%引き下げるとのことでした。
サプライチェーンに問題が発生する時、原因として多いのは労働力の不足です。先週、ロサンゼルス港とロングビーチ港では港湾機能がほとんど麻痺していました。70隻以上のコンテナ船が沖合で入港待ち状態となっていました。。貨物を降ろすのに十分な港湾労働者が確保できず、また、港湾から貨物を移動するのに必要なトラック運転手の確保もできていません。輸送費用も急上昇しています。労働力の不足がサプライチェーンの問題を引き起こし、サプライチェーンの問題は経済活動の様々な場面に悪い影響を及ぼしています。新型コロナ前は、“Just in time”(ジャスト・イン・タイム)システムが上手く機能し幅を効かせていましたが、労働力不足ではどうしようもありません。
労働力不足が発生しているのは、新型コロナの影響があることは間違いありません。その影響が大きいという人もいれば、それ以外の影響が大きいという人もいます。パンデミックの初期に事業閉鎖等で解雇された人の内のかなりの数の人が、多くの事業が再開されているにもかかわらず、未だ失業したままです。復職しない理由として度々引き合いに出されるのは、新型コロナ感染への脅威、顧客の苦情への嫌悪感、職場の新型コロナ対策の不備、マスク着用とワクチン接種の証明が煩わしいことなどです。こうしたことが復職しない理由ですから、特に飲食業では労働力不足が顕著となっています。エッセンシャルワーカー(医療従事者や輸送業従事者等)は、新型コロナに非常に大きな影響を受けました。エッセンシャルワーカーの60万人以上が新型コロナに感染して亡くなりました。ですから、中には職を変えることを検討した者も少なくなかったようです。エッセンシャルワーカー以外でも職を変えることを検討した者が多かったようです。多くの者が職を変えるということは、とても時間が掛かります。それで、様々な制約が解除されて学校の授業が再開されていますが、児童保育施設等で人員不足が発生していて、子供を預けられずに職場に戻れない人もかなりいるようです。
児童保育施設等が不足している状況は、実は新型コロナパンデミック前から元々存在していた問題で、パンデミックによってより顕著になっただけです。労働力不足をどのように解決するかという問いへの解決策は、いろいろあります。何を重視するかで答えはおのずと変わってきます。現在割増されている失業手当を削減すれば復職する人がふえるかもしれまません。最低賃金(時給7.25ドル)を引き上げる等、賃金を引き上げるべきでしょうか。育児手当を増やしたり、育児休暇を増やしたり、公共交通機関(現在下院で議論されている)を充実させたり、移民を増やしたりするのも選択肢の1つでしょう。
サプライチェーンの問題は、その場限りの対処をするだけで、労働力不足という根底にある問題が解決されない限り、根本的な問題の解決には至らないでしょう。さらに言えば、今回のサプライチェーンの問題の原因をパンデミックだけに求めることは、まやかしであると言えます。先週、外交問題評議会の場でアイルランド首相のマイケル・マーティンが言っていましたが、Brexit(ブレグジット)の影響でサプライチェーンに多大な影響が出ているものの、それも全て新型コロナの影響とされてしまっているとのことでした。現在、英国は、食品から燃料に至るまであらゆるものの不足に苦しんでいます。また、直近で米国を襲った大きなハリケーン(ハリケーン・アイーダ等)もサプライチェーンの問題に大きな影を投げかけています。ある試算によれば、ハリケーン・アイーダによって自動車25万台が破壊されました。
アハリケーン・アイーダによる被害を見て認識しておかなければならないことは、パンデミックだけでなく、自然災害もサプライチェーンに重大な影響を及ぼす可能性が有るということです。しかも、ハリケーンのような自然災害は毎年のように発生しており、今後も発生し続けるでしょう。疫病のパンデミックと自然災害が一緒に襲ってきてサプライチェーンに影響を及ぼす可能性だって無きにしも非ずです。それに対する備えも必要です。現在のサプライチェーンの問題への対処として、早期に状況を改善すべく短期的な対応も必要ですが(ハリケーンで壊れた電力網の復旧やパスタの品切れの改善)、根本的な対策を蔑ろにしないでほしいと思います。サプライチェーンの問題について考える時、本当の課題は、社会全体の労働力不足をどう改善していくかということです。コンテナの荷物を確実に素早く荷下ろしできるようにするというような小さな話ではないのです。♦
以上
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