侮れないトルコ製ドローンの実力!バイラクタルTB2投入でウクライナの戦況は一変!精密空爆可能な上に安価!

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 バイラクタルは、トルコでは非常に有名で、彼のソーシャルメディアは愛国的なリプライで賑わっています。彼は、パイロット養成所で訓練生向けに講演を行ったりしていますが、その際にはワッペンが沢山貼られた革のフライトジャケットを着ています。また、いろんな大学へ行って講演することも有るのですが、その際にはタートルネックの上にブレザーを着ています。私と対談した時には、男女平等の概念について語ったり、ロシアの国際法違反について言及しました。また、ベンジャミン・フランクリンの「安全を得るために自由を放棄するものは、そのどちらも得られないし、得るに値しない。」という名言に言及しました。しかし、彼はエルドアン政権の熱心な支持者でもあります。2017年にエルドアン大統領は憲法改正のための国民投票を行い、賛成票がわずかに過半数を上回りました。それで、首相ポストは廃止され、事実上、大統領の権限が大幅に強化されました。エルドアン大統領に批判的なメディアに厳しい税務監査を行いました。また、独立系メディアをいくつも接収して、それらをエルドアン政権の支持者に安価で売却しました。一応、オークション形式をとっていましたが、最初から落札者は決まっていたようです。また、多くのジャーナリストが “大統領侮辱罪 “で投獄されました。エルドアンはジャーナリストを頻繁に提訴しています。最近では、バイラクタルも同じことをしているようです。バイラクタルは、最近、自身が運営に携わっている財団のことを調査していたシグデム・トーカーというジャーナリストに3万リラの罰金が課されたことを祝っていました。そのことについてバイラクタルは、「嘘つきジャーナリスト!詐欺師!恥を知れ! 」とツイートしていました。

 バイラクタルの兄のハルックは、バイカー・テクノロジーズ社のCEOを努めています。バイラクタル自身は、CTO(Chief Technical Officer:最高技術責任者)と取締役会議長を務めています。彼らの父は昨年亡くなりました。バイラクタルTB2は、ウクライナ、アゼルバイジャンに加えて、ナイジェリア、エチオピア、カタール、リビア、モロッコ、ポーランドが購入しました。私がバイラクターに話を聞いた時、バイカー・テクノロジーズ社は東アジアでの売込み活動を終えたばかりでした。まもなく発売される新型ドローンのバイラクタルTB3の売込みに余念が無いようです。それは、TB2を艦載機型に改良したものです。

 さまざまな報道によれば、バイラクタルTB2の1機の価格は100万ドルほどであると言われています。しかし、バイラクタルが私に教えてくれたところによれば、もっと高価だそうです(正確な数値は教えてくれませんでした)。いくらであったとしても、TB2単体の値段が正確に分かったとしても、それはあまり意味が無いかもしれません。というのは、TB2は、携帯可能な操縦装置や無線機器等とともにセットで販売されるからです。2019年、ウクライナは少なくとも6台のバイラクタルTB2を購入したとされています。費用は6,900万ドルだったと言われています。米空軍が保有しているMQ-9リーパー(Reaper)の同様のセットを購入した場合に比べると6分の1のコストで済むようです。バイラクタルはTB2について言いました、「TB2は、非常に人気を集めていて、問い合わせが引っ切り無しです。まさに各国空軍が欲しているものだと思います。小さすぎず、大きすぎず、ちょうど良い大きさで非常に強力です。決して安価だとは言いませんが、高価過ぎて購入できないというものでもありません。」と。

 バイラクタルTB2はセットでしか購入できないわけですが、その購入を決めた国の空軍は、何人かのオペレーターをトルコ西部の施設に派遣して数カ月の訓練を受けさせる必要があります。米国ワシントンDCに本部を置く戦略国際問題研究所(CIS)の兵器装備類に詳しいマーク・カンシアンは言いました、「ただ購入するだけでは意味がありません。スペアパーツや修理の専門知識を常に必要とするため、供給元と密に協力できるようにしなければなりません。」と。TB2を購入する国は、トルコと協力関係を築かなければならないわけですが、トルコはそこから利得を得ることに長けています。トルコは、ナイジェリアのパイロットにTB2の操縦の訓練をすることを含む防衛協定を結びましたが、見返りとしてナイジェリアから鉱物資源や液化天然ガスの権益を譲り受けました。また、エチオピアにもTB2を売却したのですが、納入前にエチオピア政府はエルドアンがクーデターの首謀者だと非難していたギュレンが関与していた学校を閉鎖させました。米国から兵器類を購入する場合と異なり、トルコから購入する場合には、購入する側の国の人権問題が問題視されて取引が不成立になるようなことはありません。「TB2は、どの国でも購入可能です。その上、使用上の制約は全くありません。」とカンシアンは言いました。

 TB2を購入した軍は、バイカー・テクノロジーズ社のプログラマーのサポートも受けます。バイラクタルTB2はスマートフォンのように常にアップデートされています。TB2には、40台以上のコンピュータが搭載されており、敵の戦術に適応するために月に数回の頻度でソフトウェアのアップデートを行っているそうです。バイラクタルは言いました、「第一次世界大戦時の性能しか持たない戦闘機が、世界最先端の防空網を掻い潜るにはどうすれば良いか?という記事を私は見たことがあります。あなたも見たことがありませんか?掻い潜るためには、継続的なアップグレードが為されなければなりません。」と。

 バイラクタルTB2は、既にさまざまな戦場に実戦投入されています。ウクライナ軍が結構たくさん導入していて、ロシア軍の兵器とかなりの回数交戦しました。ロシアとトルコの関係は少し複雑です。ロシアは、トルコにとって重要な貿易相手国であり、トルコはロシア人観光客にとって人気の高い旅行先です。ロシアは、トルコが初の原子力発電所を建設した際に協力し、技術供与していました。また、2017年にトルコはロシアのミサイルシステムを購入して、他のNATO加盟国から非難されました。米国からは、制裁を課されました。トルコもロシアも、世界の大国としての地位を獲得することを目指していて、ロシアがウクライナに侵攻する前から、しばしば対立することもありました。

 リビア内戦では、トルコは暫定政府軍を支援しました。一方、ロシアはそれと敵対するリビア国民軍(LNA)を支援していました。バイラクタルTB2を迎え撃ったのは、ロシアの近距離対空防御システムであるパーンツィリS1でした。それは、車両に搭載された機関砲と短距離対空ミサイルという兵装の組み合わせの対空システムです。結果、少なくとも9台のパンツィールS1が破壊され、少なくとも12機のTB2が撃墜されたようです。

 バイラクタルTB2は、コーカサス地方に実戦投入されたこともあります。2020年のことでしたが、アゼルバイジャンが領内のアルメニア系住民居住地域であるナゴルノ・カラバフを攻撃したことで軍事衝突が発生しました。アゼルバイジャン軍は、バイラクタルTB2を投入し効果的に運用しました。先月、カリフォルニア州グレンデールのカフェで、私は、ナゴルノ・カラバフ出身の駐米ナゴルノ・カラバフ代表のロバート・アヴェティシャンに会いました。アヴェティシャンは私に言いました、「軍事衝突が発生して最初の数日間は、アゼルバイジャンの機動部隊に大きな被害が出ました。しかし、トルコ軍の将軍たちが無人飛行機を操縦しだしてからは、戦局はアゼルバイジャン軍が優位になりました。」と。アルメニアは、ロシアと軍事同盟を結んでおり、装備類のほとんどはロシアから提供を受けていました。6週間に渡って、たくさんのTB2がアルメニア軍の装備類を破壊しました。その戦果については、さまざまな分析が為されていますが、一説によると、戦車、砲塔、ミサイル防衛システムなど500以上の目標が破壊されたようです。アヴェティシャンは、「残念ながら、アルメニア軍は空戦で敗れてしまったのです。」と言いました。TB2を使った攻撃は、アルメニア軍の地上部隊を標的としたものもありました。その様子を捉えた無人機からの空撮映像をアゼルバイジャン国防省がYouTubeに投稿しました。投稿された映像は6分の長さに編集されたものでしたが、同じシーンを捉えたものが何十種類も収められていました。多くのアルメニア兵が映っていました。塹壕の中でうずくまったり、輸送トラックの周りに集まっていたアルメニア兵が、近づいてくる爆弾の音で死が迫っていることを知った直後に、爆風で体を宙に飛ばされまていした。

 アヴェティシャンは、27歳の退役軍人のアーサー・サリヤンの証言を私のために翻訳してくれました。サリヤンは、夜中の2時ごろ、少人数の兵士とともに立哨している際に爆撃に見舞われたそうです。サリヤンは言ったそうです、「自分たちが標的になっていたとは全く知りませんでした。爆撃の2〜3秒前に音がしたんですが、それまでは全く警戒していませんでした。」と。爆撃によって火の気が上がったそうです。何もかもが炎に包まれ、兵士たちの体も燃え、車両は焼け落ちたそうです。6人の兵士が死亡し、7人が負傷しました。サリヤンは「恐ろしい光景だった。」と言いました。

 バイラクターTB2はゆっくりと飛行しますし、プロペラが音を発するので、敵から位置を特定されやすいような気がします。しかし、ナゴルノ・カラバフでTB2はアルメニア軍の対空防御システムを容易に回避していたようです。レーダー妨害電波を使ったのが功を奏したのか、敵軍の対空防御システムに技術的な欠陥があったと推測されます。イスラエルのミサイルに詳しい軍事評論家のウジ・ルービンは、アゼルバイジャン軍が行った精密空爆の映像を見て言いました、「映像の中で最も印象的だったのは、アルメニア軍の対空防御システムが全く無力であったことです。対空防御システムは、レーダー・アンテナを回転させたまま破壊されていました。それは、敵機を探し出すことが出来なかったことを示したいます。」と。また、アゼルバイジャン軍は、保有する農薬散布用の無人飛行機を囮役としてアルメニアの防空網に侵入させ、敵のレーダーを故意に作動させ、地対空ミサイルシステムの配置場所を特定していました。その後、TB2によってそれを攻撃し破壊しました。

 トルコとアゼルバイジャンは、使っている言語が似ています(どちらの言語もテュルク諸語の南西語群に属する)。また、政治的にも密接な関係にありますが、ナゴルノ・カラバフ紛争で協力関係がより強固になりました。アゼルバイジャンとトルコの間には文化的親和性があります。かつて米国国務省で中東関係の分析官を努めていたアウトゼンによれば、昔からそうした両国の良好な関係を「一つの国家、二つの州」と評す人が多かったそうです。アウトゼンは言いました、「現在、両国では、 両国の関係を『一つの国家、二つの州、一つの軍隊』と評す者が多くなっているようで、より関係を深めるべきだという声が高まっています。」と。そうした状況は、両国の間に挟まれたアルメニアにとっては好ましいものではありません。トルコは、1915年のアルメニア人大虐殺における自国の非を未だに認めていません。また、アゼルバイジャンのアリエフ大統領は、古来からのアゼルバイジャンの土地をアルメニア人が勝手に占拠しているとして非難しています。

 トルコとアゼルバイジャンの接近を驚異と感じたアルメニアのユダヤ人たちは、米国の議会やメーカーなどに働き掛けて、バイラクタル社の無人飛行機に欧米各国で製造された部品が採用されるのを阻止してきました。しかし、ナゴルノ・カラバフで墜落したTB2を分析した結果、その機体にはスイスのメーカーであるガーミン社製のGPSトランスポンダーが使用されていたことが判明しました。ガーミン社は声明を発表し、バイカー・テクノロジーズ社との供給関係は無いこと、使われていたGPSトランスポンダーは市販品であることを明らかにしました。しかし、バイカー・テクノロジーズ社は、欧米の部品メーカーへの依存度を下げようと旧来から努めており、最近のInstagramの投稿で、TB2の部品の93%がトルコ国内で製造されていると主張しています。バイカー・テクノロジーズ社の製品開発サイクルは、非常に短いようです。それに比べると、米国国防総省の兵器開発サイクルは時間がかかり過ぎて時代遅れに思えます。中東研究所の上席研究員アンディ・ミルバーンは指摘していました、「国防総省の開発手法は非常に煩雑で時間がかかり過ぎています。バイカー・テクノロジーズ社の開発は、モジュール化されています。モジュール化とは、全体システムを、いくつかの下位システム(モジュール)にわけ、モジュール間のインターフェイスを標準化することによって、システム全体の構造を変革することなく、モジュールの取替や組換えによって、システムの機能を維持ないし変更できるようにする方法です。ですので、非常に改良が素早く行われるのです。」と。バイラクタルが大学院生だった時に指導教官を務めたフェロンは、バイラクタルが市販品のドローンを購入してパーツを交換したりして改造していたことを覚えています。フェロンは言いました、「航空宇宙産業では、研究者はシミュレーションをたくさんしても、実際に機械に触ることはないのです。バイラクタルは、この業界では珍しいのですが、ものづくりが非常に好きなんです。」と。