ロシア崩壊近し?国外に逃れた作家、芸術家等がこぞって自国を批判!この盛上がりはソ連崩壊前を彷彿とさせる!

Comment October 17, 2022 Issue

The War in Ukraine Launches a New Battle for the Russian Soul
ウクライナ戦争によって、ロシア国内でプーチンを批判する声が高まっています

The last time people were writing in Russian so urgently was in the late nineteen-eighties, when Soviet citizens were confronted with the terror of the Stalinist past.
ロシアでこれほど自国を批判する雰囲気が高まったのは、1980 年代後半以来のことです。ソビエト市民がスターリン主義者という過去の亡霊に苦しんでいた時以来のことです。

By Masha Gessen October 9, 2022

 ロシアは、領土拡大を宣言しました。9月30日、ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナの4地域をロシア連邦の一員として受け入れるという一方的な文書に署名しました。プーチンは演説で、これらの地域の住民は「永遠にロシア国民となった」と宣しました。彼は、ウクライナ軍がロシアが領有権を主張している地域を解放しつつある最中に、このような主張をしたのです。彼は、明らかにロシア軍が敗北の危機に瀕し始めた中で、一方的に勝利を宣したような形になったわけですが、同時に、それらの土地を維持するためにこれまで以上に積極的に戦うための準備も整えていました。その1週間半前、彼は動員令を発動して数十万人の新兵を徴兵するよう企てました。同時に、核兵器を使用するとの脅しもしています。

 侵攻前のロシアの領土に、ウクライナの一部もしくはその全部などを含んだ地域を、ロシア世界(Russian World)と呼びます。ロシア世界は、ロシア語を話し、キリスト教ロシア正教会を信仰する人々が居住する地域を独自の文明圏とみなすロシアの世界観、思想、イデオロギーでもあります。ロシア世界とその認識は、ロシアの歴史を通じて生まれ、その時代時代によって形作られたものですが、近年では、政治活動家で自称哲学者のアレクサンドル・ドゥーギン(Aleksandr Dugin)がこの語を好んで多用していました。いくぶん曖昧な概念なのですが、その概念が部分的にクレムリンに採用されていました。8月には、彼の32歳の娘ダリヤが自動車に仕掛けられた爆弾で亡くなりました。彼女も父親同様にロシア主義の論客として名を馳せていたのですが、自動車爆弾は彼を狙って仕掛けられたものだと見られています。先週のタイムズ紙(Times)で報道されていたのですが、アメリカの情報機関は、彼女の死の背後にはウクライナ政府の一部が関与している可能性があるとみているようです。もし、それが本当なら、ロシア政府がロシア世界(Russian World)」という概念を採用していて、この概念に強い信頼を置いていることを示唆しています。

 プーチンは演説の中で、ロシア世界とそれを取り巻く世界の両方について言及しました。彼は次のように述べています。西側諸国は1991年にソ連を崩壊させましたが、ロシアは不屈の精神で復活を遂げました。現在、西側諸国はロシアを滅ぼそうとしています。西側諸国は、ロシアの思想や哲学を直接の脅威とみなしています。それだから、彼らはロシアの哲学者を殺人の標的にしたのです。彼は言いました、「西側諸国、特にアメリカとイギリスの究極の目標は、世界中の人々を服従させ、伝統的な価値観を破壊することです。父親や母親という概念は失われ、親権者1、親権者2、親権者3という概念に取って代わられるのです。学童は、男性と女性の他にも性別があると教えられ、性転換手術を自由に受けられると教えられるのです。」と。彼が繰り返し主張しているのは、こうした脅威から世界を救えるのはロシアだけであるということです。その論法に従えば、プーチンがウクライナに侵攻することも、動員令を発令することも、当然のことなのです。そして、おそらく、彼は核攻撃さえも当然のことだと考えていると思われます。

 しかし、ロシア世界という概念を旗印に行動を続けていくと、そんなものはロシアしか信奉していないものなので、他の国と軋轢が生まれます。特に、軍事侵攻を仕掛けてしまった場合には、相手が黙っているわけは無く、強烈なしっぺ返しを食らうこととなります。10月5日には2つの動画がロシア語のソーシャルメディアで、広く拡散しました。ウクライナ戦争に反対していない者もたくさん視聴したようです。その動画では、軍服を着た男の集団が写っていました。その人数は500人で、全員が直近で徴兵された者でした。彼らは劣悪な状況に不満の声をあげていました。「家畜小屋のような」状況にあり、食料と防弾チョッキは自前で調達しなければならないことや、組織として統制がとれていないことを嘆いていました。その中の1人の男が言いました、「どこの部隊に配属されるかも決まっていない。銃器類を持っているが、正式に支給されたものではない。」と。一部のロシアのテレビ局は、ウクライナ軍が優勢になりつつあることを認めた上で、ロシア軍が再び攻勢に出るためには長い時間を要することを認識すべきであると主張していました。ロシア国内は決して一枚岩ではなく、ウクライナ戦争に反対する者が増えつつあるようです。

 ウクライナ戦争に反対する者が増え、ロシア国内の世論が割れたとしても、それがどのような結果に繋がるのかを見通すことは現時点では不可能で、時期尚早です。しかし、ロシアが軍事的に敗北したら将来どのような姿になるかを考えるのは、時期尚早ではありません。2021年1月から獄中にいる野党政治家アレクセイ・ナヴァルニー(Alexey Navalny)は、ずっと以前からそのことを考えてきました。先日、ワシントンポスト紙は、ナヴァルニーの書いた論説をオピエド欄(当該紙の編集委員会の支配下にない外部の人物が、ある新聞記事に対して同じ新聞内で意見や見解を述べる欄)に掲載しました。ナヴァルニーの弁護団がこっそり持ち出したものです。そこには、ロシアは戦争に負けて当然であり、負けた後は大統領制ではなく議会制の共和国に生まれ変わらなければならない、と記されていました。そうすれば、プーチンのように1人の人間が権力をほしいままにするようなことはできなくなる、という主張が記されていました。

 ナヴァルニーの主張を読むと、プーチンはとことん馬鹿なわけではなく、少しは知恵があるということが分かります。少なくとも、最も危険な政敵を牢獄に閉じ込めておくという知恵はあるようです。ナヴァルニーはロシアという国の転換点を見ることはできなさそうです。ロシアがウクライナに本格的な侵攻を開始してから7カ月半の間に、何十万人ものロシア人が国を離れました。彼らの多くはジャーナリストや作家や詩人や芸術家でした。彼らは、ロシアに残っている人たちと協力して、随筆や詩を書いたり、Facebookに投稿したり、ポッドキャストを制作してきました。そうして、どうして自分の祖国が大量虐殺的な侵攻を仕掛ける国になってしまったのかを理解しようと努めているのです。そうした姿を見て、ウクライナのジャーナリストや作家たちは嘲笑しています。ロシアの作家たちに比べれば、ウクライナの人々の方が、確実により過酷で差し迫った問題に直面しているからです。しかし、ウクライナ人よりも、ロシアのジャーナリストの作家の方が不幸な点も無くはないのです。それは、ロシアはかつてと全く異なったものとなってしまい、全く先が見通せないということです。

 ロシアで国外脱出者が増え始めた初期に、ペットのハリネズミを連れてロシアを脱出しようとすることの不自然さを描いた詩が、児童文学作家のアレクセイ・オレイニコフ(Alexey Oleynikov)によって発表されました。その一節に記されていました、「老いるまで、死ぬまで、恥は洗い流さない/もっと悪い時代もあったが、これほど馬鹿げた時代はなかった」と。Facebookに投稿されたこの詩は、3月に大きく拡散されました。5月に拡散された詩は、女優で詩人でもあるゼンヤ・ベルコヴィッチ(Zhenya Berkovich)によるもので、第二次世界大戦を戦った祖父の亡霊がロシアの1人の若者を訪れる話です。その亡霊は孫に、自分のことを忘れるように頼みます。彼の武勲や軍功を賛美することで戦争を正当化して欲しくないと考えたからです。この10月に拡散した詩は、イスラエル系ロシア人のエリ・バーヤロム(Eli Bar-Yahalom)によるもので、いつか故郷に帰りたいと願う1人のモスクワ市民と神との対話の形をとっていました。それとなく、ロシアの侵攻に反対する内容でした。また、少なくとも2つのロシア語のポッドキャストでは、戦争に対する個人と集団の責任の問題が取り上げられています。ウクライナ生まれでイスラエル在住の著名なロシア人作家であるリノール・ゴラリク(Linor Goralik)は、ロシアの現状を批判的に報じるROAR(ROAR Russian Oppositional Arts Reviewの略)というオンラインジャーナルを創刊しました。現在、3号まで版を重ねています。

 ロシア語でこれほどまでに自国を批判する文章がたくさん書かれるようになったのは、1980年代以降で初のことです。当時のソ連市民は、スターリンの亡霊という過去と向き合っていました。ウクライナやベラルーシの人権団体とともに先週ノーベル平和賞を受賞した人権団体「メモリアル(Memorial,)」がロシアに生まれたのは、ちょうどその頃のことです。現在、ロシア国民は自国の現状を目の当たりにしています。国外に逃れた作家たちは、メモリアルのメンバーと同様ですが、仕方なく国を離れていますが、新しいロシアへの道標を記そうとしています。彼らの想像力が、ロシアという国を大きく変えてくれるでしょう。それは現在のロシアとは根本的に異なったものとなるはずです。プーチンに率いられて領土の損失を取り戻そうとするロシア世界という概念を信奉する国ではなくなるはずです。♦

以上