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今週初め、シアトルから30マイルほど離れたエバレット(Everett)にあるボーイング社の組立工場に、20世紀の偉大な発明である747を讃えるために何千人もの人たちが集まりました。このイベントは、決して747の製造終了を悲しむものではありませんでした。むしろ、新たな旅立ちを祝うような式典でした。
ジョン・トラボルタ(John Travolta)が、世界で最も収容力の大きいとされる建物の中のステージに立っていました。頭髪を丁寧に剃り上げ、髭も完璧に整えた1970年代のアイコンであるトラボルタは、長年飛行家としても活躍してきました。彼は、黒いセーターと白い襟付きシャツの上にグレーの上着を羽織っていました。彼は問いかけました、「747に実際に乗ったことのある人は、この会場に何人いますか?」と。沢山の経営幹部やエンジニアやメカニックが、組立工場の床の9列に置かれた椅子に座っていたのですが、一斉に手を挙げました。トラボルタは「イエーッ!イエス!」と叫び、アース・ウィンド&ファイアー(Earth, Wind & Fire)の1981年のヒット曲”Let’s Groov(邦題:レッツ・グルーヴ)”の一節を口ずさみました。その一節は、”glide like a seven-forty-seven(ボーイング747のように滑空し)” でした。。
トラボルタは、象徴的なジャンボジェットである747を大絶賛しました。それから数年後にカンタス航空とのプロモーション契約の一環として、747の操縦資格を取得しました。トラボルタ以外にも、ボーイング社が747を賞賛するために壇上に上げたゲストスピーカーが何人かいました。その中にはボーイング社の顧客先企業の経営幹部も含まれていました。ルフトハンザ、UPS、そして747の最後の納入先であり貨物航空会社でチャーター便の運行もしているアトラス・エア(Atlas Air)などです。アトラス・エアは、747を沢山運行させているのですが、建物を出てすぐのところに、翌朝シンシナティに向かう747が置かれていました。
ボーイング社のCEOのデイブ・カルフーン(Dave Calhoun)の将来を憂慮するような発言が少しあったにもかかわらず、1978年の興行収入第1位の映画(訳者注:”Grease(邦題:グリース)で主演を務めたトラボルタがカメオ出演したことにより、この日の午後はとても盛り上がっていました。この日のイベントは、747の偉大さを確認し製造終了を偲ぶ目的だったわけですが、フアン・トリップは国際協調の重要性を訴えていました。その時のトリップは、後にウクライナで戦争が起こることを予知していたのかもしれません。既に潰れてしまったパンナムのCEOが「747は平和のための偉大な新兵器」になると予言してから60年近く経つわけですが、世界はナショナリズムに覆われ、核紛争の脅威も高まっています。(余談ですが、大量殺戮の為に初めて広島と長崎に原爆を投下したのもボーイング社が設計した航空機(B29)です)
トリップが将来について語ったことの中には、正しいこともありました。それは、747が世界をより小さくするということです。より多くの人々の移動を楽しみたいと感じるようになり、それが実際に可能になったのです。そういう意味では、747は私たちの行動を根本から変えたと言えます。地球市民という概念が生まれましたし、人類は1つの種であり、皆平等であるという概念も普及しつつあります。ライト兄弟が初めて地表から離れてから約120年経って、ボーイング社のジャンボジェット機が就航して誰もが容易に海外旅行できるようになってから半世紀経ったわけですが、私たちは以前とは大きく変わりました。時速600マイルで高度6.5マイルの上空をほとんど瞬きもせずに飛ぶことができます。大きな大陸も軽く越え、大海原を渡るのに、機中の柔らかい人間の体を守っているのは、アルミニウム合金で出来た薄い板1枚のみです。着陸する際は、あっという間です。生身の人間が高速度で飛んでいるわけですから、本当は恐怖を感じるべきなのかもしれません。恐怖を感じたら、身動きが取れなくなってしまうでしょう。しかし、実際には、恐怖など感じるどころか、機内ではシートベルトのバックルをついつい緩めがちです。私たちは、明るい未来が来ると信じたいものです。♦
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