リオネル・メッシ移籍!世界で最も偉大なサッカー選手が21年間在籍したFCバルセロナを離れたのは何故?

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世界で最も偉大なサッカー選手の移籍

Why is Lionel Messi leaving Barcelona after twenty-one years?
リオネル・メッシが21年間在籍したバルセロナを離れるのはなぜ?

By Daniel Alarcón
August 9, 2021

 現在、世界最高のサッカー選手がいまだに無所属の状況です。彼がそういった状況に陥ったのは、決して能力が衰えたからではありません。問題となっているのは純粋にスポーツに関することではなく、お金です。この不愉快な出来事を理解するには、2018年の10月の出来事を思い出すことが必要です。当時、FCバルセロナ(リオネル・メッシが13歳の時にアルゼンチンから加わったクラブ)は、前年度の収益が10億ドルを越えたと発表しました。サッカー界が肥大化したとはいえ、それは驚異的な額でした。近頃では、一流プレーヤーの移籍金が1億ドルを超えることもしばしばあります。メッシは2004年のデビュー以来、そうした一流プレーヤーの中でも特別な地位を占め続けていて、サッカー界の成長に少なからず貢献してきました。彼は得点を量産し続けてきました。2018年にはリーグやカップ戦等の公式戦で47ゴールを奪いました。素晴らしいのは個人成績だけではありません。クラブに多くのタイトルとトロフィーをもたらしました。FCバルセロナはこの10年間競争力を維持し続けています。2018年の5月には10年間で7度目のラ・リーガ制覇を果たしました。また、同期間に6度のコパ・デル・レイ(スペイン国王杯)を獲得しています。FCバルセロナは2015年以降はヨーロッパのクラブチームにとって最も権威あるタイトルであるチャンピオンズリーグでは優勝出来ていませんが、今年は優勝できそうだと楽観的な見通しを立てていました。クラブは、多くのサポーターが望んでいるチャンピオンズリーグ制覇を果たすべく、メッシとの契約交渉を続けてきました。

 しかし、交渉は破綻しました。それでも、FCバルセロナの置かれた状況を詳しく分析すると、メッシと再契約するのは非常に難易度の高いミッションでした。当代きっての才能を誇るメッシが最も相手チームに脅威を与えていたのは、ルイス・スアレス(ウルグアイ代表FW)やネイマール(ブラジル代表FW)と共にプレーしていた頃でした。しかし、そんな状況もネイマールがパリ・サンジェルマンに世界最高となる260億ドルの移籍金で奪われて終わりました。ネイマールの残した莫大な移籍金によって、FCバルセロナの収益は一時的に急激に増え、収益面では大きなプラスでした。しかし、スカッドは弱体化しました。というのは、ネイマールほどの選手となると、どれだけお金を積んでも代替を探すのは不可能だからです。予想出来たことですが、FCバルセロナは選手獲得のために支出を続けましたが、ネイマールの穴を埋める補強は出来ませんでした。ネイマールの残した移籍金はすぐに使い果たされました。再投資したと言えば聞こえが良いのですが、獲得した選手たちは投資に見合う活躍を見せたとは言い難い状況です。選手獲得の際に膨大な移籍金を払っていましたが、年棒も高額になりがちでした。その結果、翌年にはFCバルセロナの選手年棒総額は世界中のスポーツチームの中で1番高くなりました。また、注意すべき点があって、2018年には10億ドルもの収益があったにもかかわらず、クラブの純利益は、たったの1,500万ドルしかなかったのです。

 スペイン国内では、FCバルセロナは依然として高い競争力を維持しています。しかし、チャンピオンズリーグでは毎年屈辱を味わっています。そして、毎年チャンピオンズリーグで敗退するたびに、メッシががっかりして落ち込んでいる様をファンは目にしなければなりませんでした。サッカー選手は成功するために移籍する自由を有しています。メッシは引く手あまたの状態でしたが、既に十分すぎるほど1つのチームに留まって耐えてきました。彼はFCバルセロナに留まり続けていますが、以前より周りのサポートが弱い状況に陥っており、給料に見合った働きをしていない選手たちとプレーしなければならない状況です。去年の夏に行われたクラブとの交渉では、彼は移籍を希望していましたが、クラブに慰留された後、2021年6月末まで契約を延長していました。昨シーズン(2019-2020シーズン)、FCバルセロナはラ・リーガでは3位に甘んじました。そんな中でも、メッシ(現在34歳)は得点王(5シーズン連続となる)になりました。

 しかし、シーズン中には奇妙なことが起こっていました。メッシは移籍するつもりであると公言していましたが、シーズン途中で心変わりしました。クラブの会長ジョゼップ・バルトメウが辞任し、新しい会長はメッシに残留するよう説得を続けていました。説得が奏功しましたが、厄介な資金の問題だけは未解決でした。クラブがメッシに提示した契約の基本的な骨子は、さまざまな報道によって漏れて公になっていました。メッシは年棒の50%減額を受け入れ(消息筋によれば初年度の年棒は約2,350万ドル)、5年間契約を延長するというものでした。しかし、メッシが39歳までラ・リーガでプレーする可能性は低く、噂によれば、現実的なシナリオですが、どこかのタイミングで米国のメジャーリーグサッカーに活躍の場を移すという内容も含まれているようです。彼の年俸の大部分は、クラブの財政基盤が健全な状態に戻った際に支払われることになっていました。メッシはそうした契約内容に同意しており、サマーバケーションから戻ったらすぐにサインをする手筈になっていました。

 契約は巧妙な内容でしたし、また、年棒の支払いを先延ばしするという奇策を弄したにもかかわらず、FCバルセロナはラ・リーガが課す厳格なサラリーキャップ(クラブ全体の収入から選手等の年棒、移籍金の減価償却費等に使用できる額の限度を定める)をクリアすることができませんでした。サラリーキャップというのは、各クラブに身の丈に合った経営をすることを求めるものです。FCバルセロナの場合、2018年には10億ドルの収入があったのですが、負債額は14億ドルに達していました。ですので、FCバルセロナの来るべきシーズンの支出上限は新型コロナパンデミック前と比べると半分ほどとなったのです。FCバルセロナが契約した選手の何人かは登録できない状況で、笑いものとなっていました。こうした状況に陥ったのは、新型コロナも一因でしょう。今年の1月にクラブが公表しましたが、2020年には新型コロナの影響で1億1,700万ドルの収入が失われました。無観客のカンプノウスタジアムを見れば、入場料収入が大きく減ったであろうことは容易に想像できます。今年の4月にヨーロッパの強豪数チームによってヨーロッパスーパーリーグ構想が打ち出されましたが、FCバルセロナはその試みに加わったチームの1つです。強欲さとPRの拙さによって、広範囲のファンの反感を買ってその試みは頓挫しました。その試みに加わったチームのほとんどは構想を撤回しましたが、FCバルセロナは撤回していません。スーパーリーグ構想が実現すれば、FCバルセロナの収入は桁違いに増え、おそらくボロボロになっている財政状況を改善できたでしょう。しかし、少なくとも今のところ、スーパーリーグ構想が実現する見通しは全くたっていません。今年の夏、メッシと再契約するために、FCバルセロナは他の選手を何人か売る必要がありました。しかし、FCバルセロナで年棒が高額になってしまった選手を買い取ろうという気配を見せる奇特なチームはほとんどありませんでした。おそらくFCバルセロナは、リーグ側が折れてサラリーキャップ制遵守を見逃してくれるだろうと予測していたのでしょう。リーグ側がビッグクラブに忖度するということは、これまでもしばしばあったことだからです。しかし、今回はそうではありませんでした。何日もの間、ファンはメッシが移籍するということを信じませんでした。FCバルセロナがサラリーキャップのためにメッシと再契約出来ないとの噂が流れた時、それはラ・リーガ側を折れさせるために圧力をかけるためのブラフであると信じていました。しかし、メッシのチームメイトがソーシャルメディアに陰気で感傷的な惜別の挨拶を投稿し始めた時、メッシが移籍するのは事実であると認識するしかありませんでした。メッシは日曜日(8月8日)の朝、カンプノウで記者会見を行いました。周りには、彼の家族と数人のチームメイトがいました。彼は涙をこらえながら言いました、「私の人生の全てはここにあります。私はここに残りたいと心から願っていました。ここに残るということが、私たち家族が最も望んでいたことでした。私はここに留まるために最善を尽くしました。しかし、それは不可能でした。」と。

 リオネル・メッシは類い稀なサッカー選手です。普通の選手であれば、契約が切れた後にクラブを移籍するとしてもニュースにはなりませんが、メッシの場合は主要な報道機関がこぞって速報しました。彼がFCバルセロナで成し遂げたことは驚異的です。彼のプレーは魅力的で輝いていました。プレービジョンが広く、ボールタッチは繊細で秀逸でした。彼はゲームを支配し、周囲のプレーヤーをより生かす方法も心得ていました。彼は6度バロンドールを受賞しています。まぐれで受賞できるものではありません。彼はFCバルセロナで672ゴールを決めましたが、それに要した試合数は800未満でした。アシストも250以上記録しています。4度のチャンピオンズリーグ制覇を含め、クラブに35冠をもたらしました。この夏、FCバルセロナの会計士や弁護士チームが何とか再契約すべく数字をいじくり回していた頃、メッシはアルゼンチン代表チームを4度目のコパアメリカ決勝戦に導き、見事に優勝を飾りました。アルゼンチン代表として主要な大会で優勝したのは、彼にとって初のことでした。珍しいことですが、公式には、彼はコパアメリカで最高の選手(MVPはネイマールとメッシの2人が受賞)であり、同時に無所属の選手でした。

 サッカー選手が移籍するということは日常茶飯事で珍しいことではありません。それなのに、なぜメッシの移籍は騒がれるのでしょうか?なぜ世界中のサッカーファンはそんなに動揺しているのでしょうか?なぜ沢山のいい歳をした男たちがカンプノウのゲートに向かって泣いている自分の動画をSNSなどに投稿しているのでしょうか?ラテンアメリカの国々のサッカーファンは、ヨーロッパで活躍する自国出身のサッカー選手たちを熱心に応援しています。彼らの属しているクラブを応援しているわけではありません。ですから、結局のところ、そうしたクラブを応援するとしても、それらの選手が居る間だけでしょう。ネイマールがPSG(パリ・サンジェルマン)に移籍した後、非常に多くのブラジル人がリーグアンを見るようになりました。今シーズンは非常に多くのチリ人がイタリアのビッグクラブであるインテルミラノを応援しました。それは、アレクシス・サンチェスが加わったからです。ペルーでは、海外でプレーするペルー人サッカー選手の動向がくまなく監視されており、些細なことでも報道されます。それらの選手が出る試合のダイジェスト版が放送され、プレーする姿が見ることができます。

 メッシと同世代のラテンアメリカ出身の一流サッカー選手のほとんどがヨーロッパ中でクラブとクラブの間を飛び回り移籍を繰り返しています。選手が移籍する際には、彼らをラテンアメリカから応援しているファンも応援するクラブを変えます。しかし、メッシは移籍したことが1度もありませんでした。メッシと言って思い浮かぶ姿は、赤と青のバルセロナのユニフォームを来ている姿か、水色と白のアルゼンチン代表のユニフォームを来ている姿しかありません。メッシがどこかのクラブに移籍したら、PSGの可能性が高いと報じられていますが、何百万人ものファンが新たにそのクラブを応援することになるでしょう。その経済効果は1億ドルを下回ることはないでしょう。

以上