Tokyo’s Olympics Have Become the Anger Games
東京のオリンピックは怒りの祭典になってしまった
The Olympics are supposed to be a symbol of global togetherness, but Tokyo’s are shaping up to be the unhappiest in history.
オリンピックは世界の一体感を象徴するものであるはずですが、東京大会は歴史上最も不幸なオリンピックになりつつあります。
By Matt Alt July 22, 2021
何という偶然でしょう。7月8日に国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が東京に到着しました。ちょうど168年前の同じ日に、アメリカのマシュー・ペリーが率いるアメリカ合衆国海軍東インド艦隊の蒸気船2隻を含む艦船4隻が日本に来航しました(黒船来航)。艦隊は江戸湾入り口の浦賀沖に停泊し、一部は測量と称して江戸湾奥深くまで侵入するなどし、2世紀以上に渡って続けれらていた日本の鎖国政策を強制的に終わらました。日本ではその事件を機に社会的大変動が引き起こされ、徳川将軍が事実上の国家主権者として君臨する幕藩体制が解体され、国内の政治権力の再編が進みました。日本の国民や政治家にとって、バッハ会長が東京に現れたことは、黒船来航と同様に不吉な未来を暗示する出来事のようです。2020東京オリンピックは、1年の延期を経て、金曜日(23日)に開会式が開かれる予定です。
168年前に日本は黒船来航によって鎖国政策を止めなければならなくなりました。現在、日本では、オリンピック開催に伴い大勢のオリンピアンや随員を受け入れるために、強固な検疫体制を止めねばならない状況に陥っています。国民の間には怒りの声や諦めの声が渦巻いています。さまざまなスキャンダルが発生していますし、菅義偉首相がほとんどの市民が開催を望んでいないにもかかわらずオリンピックを強行したがっていることも国民の怒りに拍車をかけています。飲食店の営業時間の制限やアルコール販売を制限することで、新型コロナが蔓延する速度を鈍らせようとしています。しかし、それだけで安全が担保できるわけではありません。菅首相は、オリンピックを開催することは人類が新型コロナに打ち勝ったという証しになると主張していました。バッハ会長は”ゼロ・リスク”であると主張していましたが、選手村等で何十人ものオリンピアンの感染が確認されています。そうした状況ですから、国民の間には感染再拡大を懸念する声が広がっています。日本でワクチンの2回接種が完了した人は全体の20%強に過ぎないことも、国民を不安にさせています 。
さまざまな世論調査の結果を見ると、一貫して日本の国民の大多数がオリンピックは再度延期にするか、中止すべきだと考えているようです。また、菅内閣の支持率も下がり続けています。7月になってからは、新型コロナの感染者数は一貫して増え続けており、菅首相は7月12日に東京都に8月22日迄の緊急事態宣言を出さざるを得ませんでした。東京都に緊急事態宣言が出されるのは、昨春の新型コロナパンデミック以降で4度目のことです。8月22日には緊急事態宣言が解除される予定ですが、その頃にはオリンピックは終わっています。20日の火曜日には、ある閣僚が匿名を条件に朝日新聞の取材を受け、緊急事態宣言を8月22日までとしたのは、政府にとって「最悪のシナリオ」であると言いました。
他にも多くの「最悪のシナリオ」があります。今回のオリンピックは初めてほぼ無観客で行われます。マラソン、トライアスロン、自転車競技は公道を使いますが、観戦のために集まることは禁じられています。観客の居ないスタジアムでは、アスリートは当惑するでしょう。サッカー日本代表とのキャプテンしてオリンピックに参加する吉田麻也選手は言いました、「五輪をやるにあたって国民の税金がたくさん使われている。では見に来られないなら何のため、誰のための五輪か、という疑問もある。真剣にもう一度検討していただきたい。」と。多くのトップランクスポンサーも疑問に思っているようです。トヨタ自動車は月曜日(7月19日)に「いろいろなことが理解されていない五輪になりつつある」ことを理由に、国内ではテレビでオリンピック関連のCMを流さないと発表しました。また、NEC、パナソニック、富士通等の企業が開会式に幹部を派遣しないと発表しました。
私は東京の西部に住んでいます。私が住んでいる辺りでは、オリンピックの気運が盛り上がっている様には見えません。近所の公園に行くと、ベンチがオレンジ色の柵で囲われて使えないようにされています。人が集まるのを防ぐのが目的のようですが、何かの事件の犯行現場のような雰囲気を醸し出しています。オリンピックがもうすぐ始まると感じるのは、多くの街路灯に「東京2020」のバナーがぶら下がって揺れている光景を見る時だけです。バナーは熱暑の中で微かになびいていて、非常に暑く感じられます。こんな暑さの中で競技を行って大丈夫かと心配します。実際、1964年の東京オリンピックは暑さを避けて10月に開催されました。私は東京に長年住んでいますが、2013年に2020年の夏季オリンピックの開催地が東京に決まった時、多くの友人が懸念を表明していたことを覚えています。皆、危険なほど暑い時期にオリンピックを開催することを懸念していました。さらに、新型コロナという新たなリスクも増えました。そうした状況からすると、オリンピックを強行するのは正気の沙汰ではないと思います。
東京に暮らしている人の多くは、元々そんなにオリンピックを開催したいわけではありませんでした。2000年代になって、タカ派的な発言にもかかわらず大衆的人気を保っていた極右の石原慎太郎前東京都知事がオリンピックの誘致活動を始めました。多くの批評家が前都知事の民族主義的なアピールを非難していました。当時、各開催候補地で行われた世論調査によれば、オリンピックの開催に賛成する人の割合は東京が最低でした。2012年に開催権を獲得するために東京都が最後の追い込みをかけている時期に行った世論調査でも賛成は47%でした。招致を争っていたマドリードの78%と比べると寂しい数値でした。
何とかして東京は2013年に招致合戦で勝利しました。それでも、開催地東京はオリンピック気運で盛り上がるという感じではありませんでした。当初、政府はコンパクトなオリンピックにすると謳っていました。まあ、元々そんな謳い文句を信じている者はほとんどいませんでしたが、2015年に政府(安倍政権)が新しい国立競技場の建設費が20億ドルを越えそうだと公表した際には、国民は呆れかえりました。その計画どおり建設されていれば、歴史上最も費用が掛かったスポーツ施設になっていたでしょう。激しく批判されたので、安倍政権は費用削減を余儀なくされましたが、オリンピック開催にかかる総費用は154億ドルに膨れ上がり、当初見積もり額の2倍以上になりました。パンデミックの影響で、東京都民の血税が注がれた豪華施設は、無用の長物となってしまっています。私は、最近、千駄ヶ谷駅の近くにある新国立競技場を訪れました。近隣は人影も少なく不気味な静寂に包まれていました。その静寂を破るのは、警戒のために走行しているパトカーと、新競技場から漏れ聴こえる録音した温かみに欠けるテスト音声だけでした。それが、開会式を数日後に控えた日の状況でした。私は、巨大な楕円形の構築物を見上げました。記号学者ロラン・バルトが1970年に記した著作”Empire of Signs(邦題:表徴の帝国)”を思い出しました。バルトは、東京は西欧の都市とは全く異なっていると記していました。彼は、大都会東京の中心に皇居という、何もない森だけの”terra incognita(空虚な空間)”が広がっていることに着目し、ヨーロッパの都市の中心には聖堂や広場が設けられていることと対照的であると論じていました。しかし、現在の状況を鑑みると、”terra incognita(空虚な空間)”という語は、皇居よりも人気のない豪華で贅を尽くしたスタジアムを表すのにピッタリの表現です。その観客席には人っ子一人居ないのです。
オリンピックを開催する都市において、オリンピック開催に対してあまり好感を持っていない人や明確に反感を持っている人が沢山いることは珍しいことではありません。しかし、通常は、いざ競技が始まるとそうした反感は薄まり熱狂に取って代わられることが多いのも事実です。2002年にソルトレイクシティで冬季オリンピックが開催された際には、当初市民の関心は低かったのですが、最終的には非常に盛り上がり、今日でも地元の人たちはオリンピックを開催したことを誇りを持って記憶しています。非常に盛り上がった1964年開催の東京オリンピックでさえ、反対する人が少なからずいました。1959年に東京オリンピックに関する世論調査が初めて行われてのですが、支持する人も反対の人も拮抗していました。しかし、現在では、1964年の東京オリンピックは日本の復興と経済大国として地位を世界に知らしめた重要なイベントだったと認識されています。新型コロナの影響が無かったならば、2020年の東京オリンピックも前回の東京オリンピック同様に成功し評価されたかもしれません。しかし、新型コロナ禍に襲われてしまったため、何もかも前回の東京オリンピックと比べるのは不可能な状況です。オリンピックでは毎回問題となる事項があります。国民の反対や予算超過や物流への影響等です。しかし、東京オリンピック大会組織委員会は、それらに加えて前例のない新型コロナの蔓延という課題にも対処しなければなりません。今回の東京オリンピックは、歴史上はじめて疫病の蔓延下で行われる世界規模のスポーツイベントです。
さて、東京オリンピックに関して連日のようにトラブルが報じられています。比較的小さなトラブルもあって、IOCのバッハ会長が「最も大事なのはジャパニーズ・ピープル」と発言すべき所で「チャイニーズ・ピープル」と言ってしまったことなどが該当します。もっと厄介なトラブルも頻発しています。開会式で使う楽曲の制作を依頼されていたコーネリアス(小山田圭吾)なるミュージシャンが月曜日(19日)に辞任しました。以前に音楽誌のインタビューで学生時代にクラスメート(障害者を含む)に対していじめや性的虐待を行っていたことを自慢していたことが明らかになったのが原因でした。あまりにもトラブルが続いているので、大会組織委員会が故意に不安を煽って混乱を引き起こしているのではないか思えるほどです。ひょっとしたら、それは大会組織委員会が開会式直前になってオリンピックを中止するための布石なのではないかと疑っている人もいるようです。私の知人の日本人ジャーナリストは、関係者の辞任が続く状況を”終わらない悪夢”のようだと評していました。
金曜日(23日)に開会式が行われるわけですが、悲しいことに新型コロナがオリンピックに暗い影を投げかけています。東京都の新型コロナ感染者数は急激に増えています。水曜日(21日)の感染者数は1,832人でワクチン接種が始まる前の1月以降で最多となりました。今回の東京オリンピックは、歴史上最も国民の不評を買ったオリンピックとして人々の記憶に残るかもしれませんが、意外に成功して国民の団結心が強まる可能性が全く無いわけではありません。まあ成功するとしても、それは大会組織委員会の手腕によるものでは無いでしょう。新型コロナという脅威を前にすることで、東京都民の結束が過去にオリンピックが開催されたどの都市よりも強くなる可能性があります。新型コロナに立ち向かう為であれば、オリンピック支持派も反対派も立場や思想の違いを乗り越えて団結できるかもしれません。
以上
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