アメリカ パウエル議長率いるFRBは金利を上げ続けそう?景気後退局面入りの兆候が明確に見受けられるが・・・

Our Columnists

Two Key Things to Know About This Confusing Economy
混乱するアメリカ経済について知っておくべき2つの重要なこと

Output and employment have rebounded impressively from the pandemic, but the Fed needs to heed some warning signs.
生産と雇用は新型コロナの影響から力強く回復しました。しかし、FRBはいくつかの警告サインに注意する必要があります。

By John Cassidy  January 27, 2023

 最近、私はエコノミスト以外の人々と交流することが多いのですが、アメリカ経済が今後どのように推移し、どこへ向かっているのかを考えると、混乱と不確実性が待ち受けているような気がしてなりません。多くのエコノミストも同じ様に認識しているようです。エコノミストの中には、今年の後半から景気後退が始まると予測している者がチラホラいます。とはいえ、ソフトランディングが可能だと言うエコノミストも少なからずいるようです。ムーディーズ・アナリティックス(Moody’s Analytics)のシニア・ディレクターのスコット・ホイト(Scott Hoyt)も、そうした考えを持っています。彼は、「経済成長はほぼゼロに近づくものの、マイナスに陥ることはない」として、いわゆるスローセッション(slowcession)を予想しています。

 現在、世界経済は新型コロナパンデミックの未曾有の影響から抜け出せていません。また、ヨーロッパでは1945年以降最大の戦争が起きています。多くの国で30年ぶりのインフレ率が記録されています。ですので、今後の世界経済の行く末が霞んでぼやけて見えるのは、仕方が無いことなのかもしれません。新型コロナウイルスが蔓延し始めた2020年以降、長年続いてきた経済指標の関係性が崩壊したものもあります。また、新たなトレンドもいくつか生まれています。それらは一時的なものである可能性もあります。現時点では、さまざまな経済指標を見て、旧来通りに解釈できるものもあれば、そうではないものもあり、今後を予測するのは非常に困難な状況です。しかし、際立って明白なことが2つあります。

 際立って明白なこと2つの内の1つは、この2年間でハイパーインフレによって生活コストが大きく上昇する一方で、アメリカ経済は新型コロナパンデミックから生産と雇用の両面で見事な回復を遂げたということです。木曜日(1月26日)、商務省は、昨年第3四半期のインフレ調整後のGDPが年率換算で2.9%の上昇であったと発表しました。2022年は年間で見ると2.1%の上昇で、2021年の5.9%という高い数値からは低下しましたが、それでも2001年から2020年までの平均成長率(約1.7%)を大きく上回っています。現在のアメリカ経済の成長率は、パンデミック前の平均的な数値になりつつあります。また、現在の失業率も3.5%で、半世紀ぶりの低水準であったパンデミック前の2020年2月の水準に戻りつつあります。これらの数字は、2020年に多くのエコノミストや政治家などが予想していたよりもはるかに良いものです。実際、ワシントン・ポスト紙(Washington Post)のヘザー・ロング記者(Heather Long)が記していたとおり、「2年間で生産と雇用を回復させたことは驚くべきことです」。

 今では忘れ去られがちなのですが、2020年4月〜6月にかけては、失業率が2桁に急上昇していました。その時点では、悪循環のスパイラルに陥る危険性がありました。失業率が上昇することで所得が減少し、それによって消費が弱まり(モノやサービスに対する需要が減る)、巡り巡ってさらに雇用が減るというという悪循環に陥る可能性がありました。そのような事態に陥らなかったのは、最初にロックダウンが実施された後に、部分的に経済が急速に再開されたことと、2020年と2021年に下院が可決した3つの大型景気刺激策が一因だと思われます。景気刺激策として、財政支援策が実行され、合計約4兆ドルが家計や企業や地方自治体等に提供されました。

 新型コロナのパンデミックによって世界規模でサプライチェーンが混乱したり、さまざまな混乱が引き起こされましたが、バイデン政権のパンデミック対策は、とりわけ2021年3月に民主党が下院で成立させたアメリカン・レスキュー・プラン法(American Rescue Plan Act)は、上手く機能したと言えます。しかしながら、それによって2021年から2022年にかけてインフレ率が急上昇したと非難する者も少なくありません。バイデン政権の施策が、どの程度インフレ率の急上昇に寄与したかは、さまざま議論があるところです。しかしながら、バイデン政権の景気刺激策が生産と雇用の長期低迷を防ぐことに成功したことは間違いありません。万が一、生産と雇用が落ち込んでいたら、公衆衛生上の危機に加えて、金融危機が引き起こされる可能性もあったのです。巷には失業者が溢れ、負債を抱えて債務不履行に陥る企業が続出したでしょう。たとえバイデン政権の景気刺激策に一時的なインフレを引き起こしたという罪があったとしても、私の評価では、功の方が大きかったと思います。一時的なインフレは、もっと大きな災いを避けるためには払わなければならなかった代償だと言えます。

 際立って明白なこと2つの内のもう1つは、昨年末の GDP 成長率が予想を上回ったにもかかわらず、今では景気の急減速を示唆する多くの兆候が見受けられるということです。FRB が金利引上策に固執すれば、景気後退がもたらされる可能性が高いでしょう。できれば避けたいものです。GDPの成長率はインフレ調整後の年率換算で2.9%だったわけですが、今回のGDPレポートには心配な兆候がいくつか見受けられました。企業の在庫が積み上がっています。第4四半期のGDP成長率の約半分は、これに起因していますし、また、5分の1は海外との貿易によるものです。国内最終消費(Final domestic sales:アメリカ人が実際に購入した物やサービス)は、年率換算で僅かに0.8%しか増加していないのです。

 注意しなければならないのは、商務省が発表するGDPの数値は過去のものであるという点です。発表された数字は、必ずしも物事の今後の方向性を示しているわけではありません。金曜日(1月27日)に発表された商務省の別のレポートによると、12月の個人消費は前月に比べて僅かに減少していて、第4四半期末に向けて経済成長が弱まっていたことを示唆しています。今週初め(1月23日)には、全米産業審議会(Conference Board:501の非営利事業会員および研究グループ組織)が、景気先行指数を発表しました。それは、商務省のGDPのレポートとは対照的なものでした。景気先行指数は、企業の新規受注額、消費者信頼感指数、建築許可件数、金利幅(interest-rate spreads)など、将来の見通しを示唆するデータから算出されるものです。全米産業審議会の経済担当シニアディレクターのアタマン・オジルディリム(Ataman Ozyildirim)は、この発表に付随する声明で、「景気先行指数が12月に再び急落し、アメリカ経済が近いうちにリセッション(景気後退)入りすることを示唆している。」と指摘しました。また、「アメリか経済は、2023年の第4四半期に再び回復する前に、今後数四半期でマイナスに転じる可能性が高い。」と付け加えました。

 さて、全米産業審議会(Conference Board)が発表する景気先行指数が必ずしも正しいわけではありません。新型コロナパンデミックの影響下で繰り返し学んだことは、種々の経済予測はそれほど当てにならないということです。昨夏以降はエネルギー価格が大幅に下落していますし、バイデン政権の景気刺激策の下支え効果も残っています。また、昨年、超党派でインフラ投資法案とインフレ抑制法案を成立させたことによる支出が今年もあるわけですから、今年のアメリカの景気が多くの悲観論者が予測しているほど悪くならない可能性もあります。しかし、その可能性を信じて何もしないというのは、愚策でしかありません。今こそ、ジェローム・パウエル(Jerome Powell)議長率いるFRBは、事態を好転させるべく行動を起こすべきです。

 2022年の初めから、FRBはインフレ率を抑えることにほぼ専念してきました。既にインフレ率の抑え込みに成功したと誇って良い状況になっています。金曜日(1月27日)に発表された商務省のレポートによれば、FRBが最も注視している指標であるインフレ率は、11月の5.5%、8月の6.3%から、先月(12月)は5.0%にまで低下しました。インフレ率が着実に低下しているわけですから、FRBはもう1つの重要な任務に労力を振り向ける余裕が出てきたのではないでしょうか。今年最初の金融政策決定会合が来週開催されるわけですが(訳者注:2月1日予定)、FRBは雇用の最大化にもっと注力すべきです。

以上