Wall Street’s Pandemic Bonanza
ウォール街の新型コロナによる焼け太り
Most Americans have missed out on the asset-price boom created by the policy response to the pandemic. Not so the big banks.
ほとんどのアメリカ人は、新型コロナの景気刺激策によって生み出された資産バブルの恩恵に浴していません。大手金融機関だけが潤っています。
By John Cassidy January 18, 2022
米国で初めて新型コロナの感染者が確認されてから2年が経過しました。新型コロナ禍の米国で最大の経済的な利益を得た者が誰であったかが次第に明らかになってきました。リモートワークが普及したことに伴い、アマゾンやマイクロソフトなどのテックジャイアント企業は非常に潤っています。また、なぜだか分かりませんが、ウォール街の大手金融機関も同様に潤っているようです。先週の金曜日(1月14日)に、米国最大の銀行であるJPモルガン・チェースが2021年の税引き後利益が483億ドルであったと発表しました。500億ドルには達しませんでしたが、同行の新型コロナ発生前の2019年のそれは360億ドルでしたので、約35%も増えた計算になります。過去最高も更新しました。
新型コロナのパンデミックの猛威にさらされ、行員のほとんどに自宅勤務を命じ、2020年第1四半期には利益が前年同期比で70%近くも激減したのですが、見事な復活を遂げたのです。さすがに、同行の楽天的なジェイミー・ダイモン会長でさえもこうなることは予想していなかったでしょう。ダイモンは2020年4月に株主へ宛てた書簡で、「将来を正確に予測することはできないが、少なくとも、2008年のリーマンショック時と同等の影響が出て、業績が下振れすると想定さます。」と記していました。金曜日(1月14日)に同行のジェレミー・バーナム最高財務責任者は21年12月期の決算報告をしましたが、「非常に不安定な経済環境下においても、収益と利益ともに着実に確保した安定性に注目していただきたい。」と、誇らしげに語っていました。「安定性 」という語を使って、非常に控えめな表現でしたが、その言葉とは裏腹にJPモルガン・チェースの業績はかつてないほど好調です。現在、ウォール街でそうした例は珍しいことではなく、ほとんどの金融機関の数値が良いようです。
火曜日(1月18日)には、ゴールドマン・サックスが2021年の税引き後利益が216億ドルとなり、過去最高を記録したと発表しました。ブルームバーグ・ニュースの報道によると、同社は21年の非常に強い決算数値を受けて、最上位1%の幹部に2種類の賞与を支給する準備をしているようです。1つは、通常の年間賞与です。その額は、成績上位の者ともなると数百万ドルとなることもあるようです。もう1つのボーナスは、上乗せして支給される特別賞与のようです。ブルームバーグ・ニュースは、その賞与は1回限りのものであるが、ウォール街の巨人が新型コロナのパンデミックを乗り越えて大成功したことを示すものだと論じていました。1回限りの上乗せ賞与が支給されるのは新型コロナのおかげと言ってもよさそうです。もっと正確に言うと、新型コロナとFRB(連邦準備制度理事会)の政策のおかげです。
現在のウォール街の華々しい成績は、FRBと議会が新型コロナの痛みを軽減するために導入した景気刺激策の産物といっても過言ではないでしょう。2020年の2月中旬から3月中旬にかけて新型コロナの患者が急増した際には、ダウ平均株価はおよそ1万ポイントも下落しました。1カ月ほどで株価が約3分の2の水準にまで下落したのです。即座にFRBは緊急措置を発動すると表明し、金利を引き下げ、金融資産を大規模購入し、さまざまな緊急融資策を実施しました。それを受けて、株式市場は反発しました。株式市場が崩壊しなかったのは、偶然ではありません。崩壊させないためにあらゆる手段がとられ、それが奏功したということなのです。FRB は毎月1,000 億ドル以上を債券市場に投入しました。それで市場を安定させ、投資家の心理が冷えるのを防ぎました。先月(2021年12月)にジェローム・パウエルFRB議長がインフレ退治に乗り出すために金融政策を変更する可能性があることを示唆するまで、株式市場はほぼ一本調子で上昇してきました。
ウォール街の企業にとって、活況な金融市場はロケット燃料のようなものです。顧客企業が低金利下で安価に資金を調達できたので、買収案件が増えてJPモルガン・チェースの投資銀行部門の2021年の収益は前年比約40%増となりした。また、市場の影響を受けやすい資産運用の手数料収入も16%増加しました。JPモルガン・チェースのダイモン会長は新型コロナの初期に貸し倒れが増えることを心配していたのですが、それが予想より大幅に少なかったことも、同社の業績を押し上げた要因の1つです。2020年と2021年に議会は家計と企業の資金繰りを支援するために数兆ドルを投じました。それによって、米国では負債の返済に行き詰まる企業や個人は非常に少なくなりました。最近、JPモルガン・チェースや他の銀行などが、貸出金の焦げ付きに備えて積み増していた引当金を取り崩しました。金融機関の決算では、そのようなオペレーションをすると利益に直接反映して、数値を押し上げます。
金融市場の活況によって利益を得たのは、ウォール街のトレーダーやディーラーだけではありません。新型コロナのパンデミック開始以降、株を持っている人ならほぼ誰でも、資産価値を大きく増やすことができているでしょう。しかし、問題は、米国のほとんどの家庭は株式市場にそれほど投資をしていないということです。そうなっている原因は、金融資産の分配は驚くほど不平等だからです。株式の保有額は驚くほど偏っているのです。FRBの発表によると、2021年第3四半期時点で、上位1%の家計が(直接または投資信託を通じて)21兆6000億ドルの株式を保有し、次の9%(2~10%)が14兆1000億ドルを保有し、下位50%の家計はわずか3兆ドルしか保有してないのです。
より正確に言うと、偏っているのは株式の保有だけではありません。新型コロナ発生以降価格が急上昇している不動産等の他の資産の保有も偏っているのです。金融資産に比べれば、非金融資産の保有の偏りは大きくないのですが、資産全般という視点で見ると偏りは小さくないのです。FRBの推計によると、あらゆる形態の資産を合わせると、昨年第3四半期時点で、上位1%の世帯が43兆9000億ドルの資産を保有し、下位50%の世帯は3兆4000億ドルしか保有していないのです。
要するに、新型コロナ関連の景気刺激策によって資産価格が急上昇したが、大部分の米国人はその恩恵を享受できていない、ごく限られた層の者だけが大きな恩恵を被り、恩恵の大部分は最上位の富裕層に集中したということなのです。では、恩恵を隅々まで行き渡らせる方法はあるのでしょうか?ウォール街の企業が享受した利益の多くは不当利得に見えなくもありません。ですので、その利益に対して利得税を課し、増えた税収を連邦政府の追加経済対策や財政赤字の削減に充てることが1つの選択肢になると思われます。第一次大戦中も第二次世界大戦中も、軍需産業などの一部の企業が過剰な利益を上げているとして、議会が同じようなスキームの法人税を課したことがあります。その時と現在の状況は似ていると言えますので、検討してもらいたいものです。もう1つの選択肢があります。あまり覚えている人はいないかもしれませんが、昨秋、バイデン大統領が提案した大型歳出法案、いわゆる「ビルド・バック・ベター」(より良い再建)法案に関する議論の中で、与党民主党のロン・ワイデン上院議員が超富裕層に対して年ごとに富裕税を課すという提案をしていました。それを、1年だけ実施するというのが選択肢となるのではないでしょうか。その税は、この国で最も裕福な一握りの超富裕層が新型コロナ下で得た棚ぼたの利益の一部に課税するものです。選択肢としては悪くないと思います。
もちろん、それらの選択肢を提案して議会を通過させることは、大変困難なことでしょう。でも、不可能でもないような気がします。というのは、先月、民主党ジョー・マンチン上院議員がビルド・バック・ベター法案に反対した際に、ある種の富裕税が導入されれば、それと引き換えに同法案の賛成に転じる可能性があると言及していたからです。バイデン政権にとっては、Build Back Better法案の成立は悲願ですから、マンチンを賛成に回らせるために富裕税導入を検討する可能性が全く無いわけではありません。バイデン大統領は、それをしないのであれば、ウォール街で起こっていることにもっと注意を払って対処すべきです。
以上
- 1
- 2