What Is Biden’s Endgame in the Debt-Ceiling Standoff?
バイデン大統領は、債務上限問題を解決できるのか?
The Administration is examining all its options to avoid a technical default should there be no agreement by the “X-Date.”
バイデン政権は、Xデーまでに合意が得られなかった場合に備えて、債務不履行を回避するためのあらゆる選択肢を検討している。
By John Cassidy May 23, 2023
月曜日(5月22日)の夜、ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領とケビン・マッカーシー(Kevin McCarthy)下院議長がホワイトハウスで会談し、連邦債務上限をめぐる交渉を再開しました。会談後、両者は希望的観測を口にしていましたが、ジャネット・イエレン(Janet Yellen)財務長官は、今日から9日後の6月1日が「Xデー(X-Date)」ですが、それまで膠着状態が続いて合意に至らない可能性も十分にあると示唆していました。6月1日には、連邦政府がすべての債務を履行できなくなる可能性があります。
両者の間に隔たりがあるのは明白です。マッカーシー側は、大幅な歳出削減に加えて、一部の福祉プログラムの勤労条件の強化等を要求していましたが、一部の報道によれば、現在、その要求をさらにエスカレートさせているようです。ポリティコ(Politico:アメリカのニュースメディア)の報道によれば、週末の時点では、共和党の交渉担当者はバイデン政権側の提案を拒否していたようです。バイデン政権側は、国内支出を今年の水準で凍結すると提案していましたが、共和党側は、補助栄養支援プログラム(Supplemental Nutrition Assistance Program:略号Snap、いわゆるフードスタンプのこと)の受給者に当初提案していたより厳格な勤労条件を要求しているようです。月曜日のホワイトハウスでの交渉の後、ポスト紙(the Post)は、マッカーシーが以前よりも要求を厳しくしたと報じていました。
共和党の強硬姿勢に、上下両院の民主党の急進的な勢力が、債務上限を回避する方法として憲法修正第14条(Fourteenth Amendment of the Constitution)の発動を準備するようバイデン政権に要求しました。もしバイデン政権がこの方法を採用すれば、財務省はXデー以降も新しい債券を売り続けることが可能になります。連邦政府はすべての支払いを続けることが可能になります。バーニー・サンダース(Bernie Sanders)、エリザベス・ウォーレン(Elizabeth Warren)、ジェフ・バークレー(Jeff Merkley)ら民主党の上院議員11人は、先週木曜日(5月18日)にバイデンに「すでに絶望の中にいる数百万人のアメリカ人の苦しみを増大させる予算に合意することはできない。」との書簡を送りました。また、憲法修正第14条の発動を主張している民主党の進歩的な勢力は、その発動を選択肢として検討することで、バイデン政権が、共和党との協議において、より大きな交渉力を発揮することができると主張しています。彼らは、共和党側は誠実に交渉していないのだからそれぐらいする必要があると主張しています。
この件に関するバイデンのコメントは、あまり歯切れがよくありません。バイデンは週末に日本で開催されたG7サミットに参加したわけですが、そこで彼が求められたのは、アメリカが債務不履行に陥らないという保証を同盟国に対して明確に示して欲しいということでした。そこで彼は発言していました、「共和党がとんでもないことをして債務不履行を引き起こそうとしていますが、それを回避するための方策として憲法修正第14条の発動も検討し始めています。それを発動することは可能であると思います。問題は、それを期限前に発動できるかどうかということだ……。ただ、発動を裁判所に申し立てる必要がある」と。
大統領の声明やバイデン政権の側近から聞いた話から推測すると、バイデン政権は、Xデーまでに合意が得られない場合、債務不履行を回避するためのあらゆる選択肢を慎重に検討しているようです。憲法修正第14条の発動もその1つですが、それ以外の選択肢もあります。特定の連邦政府の支払い(特に国債の利子と元本の支払い)を優先させること、既存の国債を利回りが高い(市場価値の高い)「プレミアム債(premium bonds)」に置き換えて歳入を増やすことなどです。バイデンは日曜日(5月21日)の記者会見で、他の選択肢については言及しませんでしたが、憲法修正第14条を期限内に発動できるか否かという問題について言及しました。しかし、本当に実行可能な選択肢であるかどうかについて、政権内でも懐疑的な意見が支配的であることも示唆していました。
もしバイデン政権が憲法修正第14条を発動するとなれば、国債を発行して支払いを続ける法的な根拠となるのは第4節でしょう。そこには、「法律で認められたアメリカ合衆国の公的債務の有効性は、疑われてはならない。」と記されています。ハーバード大学法学部の名誉教授のローレンス・トライブ(Laurence Tribe)を含む一部の法律専門家は、この文言は、連邦政府が常に債務を全額返済することを憲法が保証するものであると主張しています。しかし、それには問題があります。トライブも認めているのですが、もしバイデン政権がこの選択肢を採用して債務上限問題を回避しようとすれば、予算編成の権限は行政府ではなく議会に割り当てられているため、確実に共和党から訴えられるでしょうし、長期の法廷闘争に引きずり込まれる可能性もあります。また、憲法第1条第8項の条文を見ると、「アメリカ合衆国の信用に基づいて金を借りる権限」は行政府ではなく議会にあると記されています。トライブによれば、この選択肢を採用した場合、法的な論争が長期化するのはほぼ確実で、金融市場の動揺を招く恐れがあるそうです。また、法廷闘争を乗り切れる可能性も低いでしょう。
法廷闘争となった場合、重大な懸念が1つあります。それは、法廷闘争となると最終的に最高裁まで行き着くわけですが、そこは保守派が支配していているので、バイデン政権に不利な判決が下される可能性が高いということです。また、バイデン大統領が言及していたのですが、この法廷闘争は数週間あるいはそれ以上長引くだろうという懸念もあります。その間も財務省は連邦政府の必要な資金を調達すべく国債を発行しなければならないわけですが、投資家は法廷闘争がどう決着するか見通せないわけで、新たに発行される国債は買い控えられるかもしれません。そのような状況になれば、アメリカの金融市場は非常に不安定になり、経済全般に悪影響が及ぶ可能性があります。イエレン財務長官は今月(5月)初めに、ABCニュース(ABC News)から、憲法修正第14条の発動などの心許ないいくつかの選択肢について尋ねられた際、「簡単に全てを解決するような選択肢は1つもありません。どの選択肢にも粗があります。」と答えました。
イエレン事務長官は、債務上限問題に関する合意が為されずにXデーを迎えれば、バイデン政権には悪い選択肢しか残らないと主張しています。それに異論を唱えることはほぼ不可能な状況です。そもそも憲法修正第14条は免罪符(get-out-of-jail-free card)ではないのです。合意できずにXデーを迎えれば、アメリカは未知の領域に入ることとなり、様々な困難が待ち受けているということは間違いありません。合意できずにXデーを迎えるようなことがあれば、憲法修正第14条を発動するか、もしくは他の緊急手段を発動しなければならなくなります。なぜならば、バイデン大統領は、繰り返し公約で「いかなる状況でも連邦政府の債務不履行は発生させない」と述べているからです。
現在、バイデン政権は、Xデーの前に合意に達することに最優先で取り組んでいます。最終的には、共和党が折れて合意できるという期待を抱いているようです。月曜日(5月22日)のホワイトハウスでの会談後、バイデン大統領が言っていたのは、「超党派の合意に向けて誠実に前進することが唯一の方法である」ことを2人で再確認したということでした。合意することが一番良いことであることは疑いの余地がありません。しかし、債務上限問題のXデーが近づきつつあるわけですが、下院共和党は債務不履行が引き起こす脅威を冷酷に利用しています。自分たちの行動で問題を引き起こすことも辞さない構えです。それによって影響力を誇示しようと試みているようです。共和党のこのような姿勢に対して、バイデン政権は持っている影響力をなりふり構わず行使することが重要です。そういう意味では、民主党急進派の主張は的を得ています。昨年、民主党は両院を支配していた時に債務上限を引き上げませんでした。それは悪手で、民主党は最強の手札を手放したようなものです。また、憲法修正第14条を発動するという選択肢がもたらすデメリットを強調したことも、間違いなくバイデン政権の交渉の立場をさらに悪いものにしています。この点は、火曜日(5月16日)にワシントン・ポストのコラムニスト、ポール・ウォルドマン(Paul Waldman)とグレッグ・サージェント(Greg Sargent)も指摘していました。
今のところ、これといって大きな役割を果たしていないのですが、近い内にウォール街(Wall Street)が騒ぎ出すのではないでしょうか。現時点では、株式市場も債券市場も、米国債の保険料が大幅に上昇したにもかかわらず、債務上限問題に関してはかなり冷静に反応しています。しかし、6月1日の期限が迫りつつある中で合意が得られない状況が続くようであれば、この状況は大きく変わるかもしれません。そうならないように気を引き締めてほしいものです。♦
以上
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