Annals of Sound August 8, 2022 Issue
What Should a Nine-Thousand-Pound Electric Vehicle Sound Like?
9,000 ポンドの電気自動車のサウンドはどのようなものであるべきか?
E.V.s are virtually silent, so acoustic designers are creating alerts for them. A symphony—or a cacophony—of car noise could be coming to city streets.
電気自動車は無音です。音響デザイナーは 電気自動車の警報音を開発しています。電気自動車が発する合成音が混ざり合った不協和音で街は騒々しくなるかも。
By John Seabrook August 1, 2022
1.
私はブルックリンに住んでいて、自宅の2階の寝室で寝ています。その寝室は通りに面しています。長年そこで寝ていますので、私の耳は街の生活音には慣れました。ですので、眠りについてしまえば、自動車の騒音も気になりません。夜中でも車は結構走っており、エンジンの唸る音だけでなく、道路のスピードハンプを乗り越える際にトラックのスプリングが発するキーキー音などが聞こえてきます。深夜でもUberの配達員が宅配をしていて、チャイムを鳴らす音もひっきりなしに聞こえてきます。
消防車やパトカーやマフラーに穴をあけて爆音を発するハーレーダビッドソンの音はかなり大きいですし、不幸なカップルの痴話喧嘩も結構な声量で聞こえてきます。時には、幽霊に向かって金切り声をあげている迷子の声も聞こえてきます。しかし、いずれも私を苦しませることはありません。慣れてしまったようです。しかし、アメリカに来た最初の夜に私は、今と違って夜の喧騒には慣れていませんでした。映画「いとこのビニー」(My cousin Vinny:1992年に公開されたアメリカのコメディ映画)でジョー・ペシ演じる主役の新米弁護士のビニーは、二ューヨークからアラバマの片田舎に来たのですが、眠ろうとして動物の鳴き声等が聞こえてなかなか寝付けませんでした。それと同様に、当時の私も外の音が気になってなかなか眠れませんでした。私もビニーも全く同じことを呟いていました。「あれは何の音なんだ?」
視覚、嗅覚、味覚は、夜中に寝ている時には稼働しなくなります。それらとは対象的なのですが、聴覚は24時間365日稼働しています。人類の祖先は、捕食者がまわりをうろついている屋外で寝ていましたから、それは生存する為に非常に役に立ちました。けれども、現代の都市に暮らしている人にとっては、まわりに捕食者がいるわけでもないので、寝る時も聴覚が稼働していることが有用かと言われると、そうでもありません。ですが、聴覚は夜中に寝ている際も休まず稼働し続けています。人間の脳は良くできていて、都市にあふれているホワイトノイズ(ノイズ(雑音)の一種で、様々な周波数の音を同じ強さでミックスして再生したノイズ。 具体的には換気扇やテレビの砂嵐のような「サーッ」「シーッ」「ゴーッ」のような雑音を指す。)を無視します。一方で、生存の為に重要なことですが、異常な音への警戒は怠りません。都市で暮らしている人間の脳は、すべての音を警戒しているわけではありません。フィルターをかけることによって、多くの音を無視しています。
人間の脳のそうした働きは、神経生物学の研究者の間では有名で、その現象は「新奇性(novelty)」や「適応(adaptation)」という観点で説明されています。エンジンやエアコンの音など、聞き慣れた規則的な音では、人間は目を覚ましません。しかし、初めて聞く尋常でない音を聞いた場合は、そうした音以外には反応しないのに、人間は目を覚まします。ワシントン大学の心理学者エレン・コビーの研究チームは、2005年に論文を発表しました。それによると、脳は、無視してよい音と警戒すべき音を無意識のうちに識別しているのです。それをしているのは、脳にある「新奇性検出ニューロン」です。
しかし、尋常でない音を聞いて警戒するという脳の反応が、同じ音に対して何度も繰り返され、しかもその後何も起こらないということが続く場合があります。そうした場合、やがて、脳はその音に対して反応しなくても問題ないと認識するようになります。これが「適応」です。最近、私の住んでいるところから数ブロック先の交差点に設置された新しい歩行者用信号機が設置されました。旧来のものとは異なるビープ音を発するのですが、初めて聞いた頃に、私は耳障りに感じました。しかし、今では全く気にならなくなりました。また、トラックが後退する際に発するピーピー音のような、より警戒心を抱かせる音は、他の音と識別がつきやすいように意図して作り込まれたものです。都市で耳をすますと多くの種々雑多な音が聞こえます。それらは、合わさって1つのものになるという感じではなく、混じり合うことなくそれぞれが競い合っているように聞こえてきます。結局のところ、人間の脳は、一番大きく聞こえる音に対して一番興味を持ちます。