What Would Donald Trump Do to the Economy?
ドナルド・トランプは経済に何をもたらすだろうか?
If he takes office, a trade war, higher prices, labor shortages, a gaping deficit, and a showdown between the White House and the Fed all seem highly likely.
彼が大統領に就任すれば、貿易戦争、物価上昇、労働力不足、膨大な財政赤字、そしてホワイトハウスと FRB の対立などが起こる可能性が非常に高いだろう。
By John Cassidy October 21, 2024
ドナルド・トランプの公の発言は、しばしば「常軌を逸している( unhinged )」と評される。だが、彼が経済政策について語る時は、「自由奔放( unbound )」と表現した方がよいかもしれない。先週、デトロイト・エコノミック・クラブ( Detroit Economic Club )で 2 時間にわたって行われた演説で、彼は新しい税制案を発表した。自動車ローンの利子支払いを税控除の対象にするというもので、自動車産業とその顧客にとっては魅力的なものであった。また、アメリカに輸入される商品に高額の税金を課す計画についてはしゃぎながら語った。「関税( tariffs )は、世界で最も美しい言葉の 1 つである」と彼は訴えた。「それはアメリカを再び裕福にする」。
今年初め、トランプはほとんどの海外で生産された品目に 10% 、中国製品には 60% の関税をかけるとの公約を掲げた。彼は他にもたくさんの数字を持ち出している。デトロイトでの演説では、中国について言及し、「冷徹に接するべきで、100% と 150% の関税をかけるつもりである」と述べた。メキシコで中国企業によって製造された自動車がアメリカに入るのを阻止する決意を誇示し、「必要であれば関税を 100%、200%、1000% に上げるつもりである」と付け加えた。
トランプの発言を理解する際には、「発言を文字通りに受け止める必要はないが、真意がどこにあるかを探らねばならない」という態度で臨まなければならない。大統領選が佳境にあるが、トランプは特に貿易に関して発言をエスカレートさせている。ウォール街にはトランプ支持者も少なくないが、彼らの中には戦略的な理由でトランプが大袈裟な主張をしているのではないかと示唆する者もいる。先週、トランプの経済顧問でありヘッジファンドマネージャーのスコット・ベセント( Scott Bessent )はフィナンシャルタイムズ( the Financial Times )に、「結局のところ、彼は自由貿易主義者だというのが私の一般的な見解である」と語った。「エスカレートして、エスカレートを緩和するのである」。
トランプの発言には希望的観測や自己正当化の臭いがプンプンする。トランプは 2 期目の出馬を表明して以来、3 つの公約を支持者に掲げてきた。関税( tariffs )、減税( tax cuts )、大量強制送還( mass deportations )である。また、彼は、電気自動車の購入に最大 7,500 ドルの税額控除を提供し、環境に優しい製造業実現のために多くの財政的支援策を提供するバイデン政権のインフレ削減法( Inflation Reduction Act of 2022 )の未使用資金を取り消すと主張している。それに加えて主張しているのは、連邦準備制度理事会(FRB)が FF レートを設定する際に、FRB 本来であれば政治的影響から自由であるべきなのだが、圧力をかけるということである。選挙戦が激しくなっているが、彼はこうした政策スタンスをより強調しつつある。
トランプが大統領に返り咲いた際に実際にアメリカ経済がどうなるかを予測するのは難しい。結果はトランプが具体的にどのような施策をどんな規模で実行するかに左右されるので、それが予測を難しくしている。主要同盟国や一部の貿易相手国を例外として他の国に 10% の関税を課せば、15% もしくは 20% の関税を全ての国に課すよりもインフレへの影響は少ないであろう。100 万人の労働者を強制送還するほうが、1,000 万人を強制送還するよりも、労働市場全体に与える影響は小さいだろう(もちろん、大量の強制送還を行えば、送還された者とその家族に大きな影響を与えることは必至である)。トランプが税制に関する政策を実行できるかどうかは、他の選挙結果にも左右される。もし民主党が上下両院のいずれかを支配すれば、トランプの自由度は大幅に狭まるだろう。
ことを複雑にしている要因が他にもある。それは、トランプの政策案のいくつかが、様々な方面に影響を及ぼしていることである。関税は物価を上昇させる。消費者の購買力を低下させるだろう。大規模な強制送還は、アメリカ中で労働力不足が顕著になるだろう。この 2 つの「供給ショック( supply shocks )」によって、GDP と雇用にマイナスの影響がもたらされるだろう。短期的には、少なくとも減税は需要を押し上げ、景気刺激剤として効くだろう。だから、両案は一緒に実行することが重要である。
何人かの経済学者がそうした政策が実施された際の影響を予測している。その結果はかなり一貫している。彼らはいずれも、トランプの採用する政策の組み合わせが GDP と雇用の伸びを押し下げ、インフレ率を上昇させ、国家財政を破綻させると予測している。ムーディーズ( Moody )は、共和党が大統領選で勝利し上下両院で過半数の議席を獲得した場合の予測をしている。2017 年に実施されたトランプ減税が恒久的に延長され、大量の強制送還が実施され、すべての輸入品に 10%、中国製品に 60% の関税を課すというシナリオが実行に移される可能性が高いという。2024 年から 2028 年にかけてのインフレ調整後の GDP 成長率を年率 1.3% と予測している。ジョー・バイデンが大統領就任後の年率 2.8% よりはるかに低い。ペン・ウォートン・バジェット・モデル( Penn Wharton Budget Model:ペンシルバニア大ウォートン校のシンクタンク)のアナリストたちは、トランプの大統領選の公約をコンピューターに入力し、見通しを10 年後まで引き伸ばした。年が進むにつれて影響は小さくなるとの予測であった。しかし、 10 年後でもマイナスの影響が多かった。2034 年には GDP は基準値より 0.4% 低下する。負債は 9.3% 増加する。
他のいくつかのシナリオの分析も為されたが、いずれも結果はさらに悪くなる可能性が示された。トランプは、世界的な貿易戦争を引き起こす危険性に気づいていないようである。ムーディーズによれば、仮にトランプが公約で口にした最も小さな輸入関税(一律 10% で中国に 60% )を課したとしても、全体の実効関税率は現在の 3% が 19% 弱まで上昇するという。これは、多くの経済史家が大恐慌を深刻化させたと指摘する外国による報復措置につながった 1930 年のスムート・ホーリー関税法( Smoot-Hawley Tariff Act )が議会で可決されて以来の高い実効税率である。トランプはデトロイトでの演説で、この比較を一蹴した。彼は、アメリカの関税は 1932 年まで導入されていなかったという誤った主張を繰り広げている。
多くの経済学者がトランプの主張は真実ではないと警告している。先日、ピーターソン国際経済研究所( the Peterson Institute for International Economics )に所属する 3 人の経済学者が、アメリカ経済について数理モデルを用いて 2 つの政策シナリオを検証した。1 つは最も過激なシナリオである。一律 10% と中国に 60% の関税を課し、諸外国が報復関税を課し、830 万人の労働者が強制送還され、トランプが FRB の独立性を損なわせて、FRB が緩和的政策を実施し、それらによって金融資本のアメリカからの逃避が促進される。このシナリオでは、2026 年までにインフレ率は基準値に対して 7% 以上上昇すると予測されている。これは新型コロナパンデミック後の 2021 年から 2022年にかけての大幅な上昇と同じレベルである。供給と雇用への影響も劇的である。もう 1 つのシナリオは、もっとも穏健なものである。連邦議会が 2017 年のトランプ減税法を延長するか、それに匹敵する規模の減税策を導入した場合、 2024 年から 2028 年にかけて GDP は年間約 2% 成長すると予測されている。トランプの 3 つの施策(関税、強制送還、FRB への介入)は、この成長をすべて相殺するほどのダメージを与え、実際には経済縮小を引き起こすだろう。この分析によれば、「トランプ第 2 次政権の 4 年間が終わる 2028 年には、アメリカ経済は 2024 年よりも 1% 以上縮小する」という。
このような予測は、何が起こるかを示しているわけではなく、何が起こる可能性があるかを示すものとして捉えるべきである。経済予測は科学ではなく、危うい芸術である。2016 年には多くの経済学者がトランプ大統領の危険性について警告した。しかし、新型コロナが発生するまでアメリカ経済は健全なペースで拡大し続け、インフレ率も低かった。しかし、今は 2016 年ではない。過去 8 年間いろんな出来事があったわけで、アメリカ経済は無謀な政策に対して以前より脆弱になっている。
例えば、財政赤字は対 GDP 比で倍増している。債務は対 GDP 比で 73% から 97% に上昇し、国家財政の長期的な持続可能性に疑念が生じ始めている。トランプの提案が実施されれば、さらに膨大な額の負債が増えるだろう。ワシントン DC に拠点を置く非営利の公共政策団体「責任ある連邦予算委員会( Committee for a Responsible Federal Budget )」によると、トランプが公約に掲げる政策の実施には 10 年間で最大 15 兆ドル必要であるという(控えめに見積もって約 7.5 兆円)。トランプは、関税と強力な経済成長がこの巨額な費用を埋め合わせるのに十分な歳入を生み出すと主張している。しかし、それは魔法のような考え方である。
現在と 2016 年のもう 1 つの違いは、FRB が以前よりもインフレを懸念していることである。トランプが公約に掲げる関税強化と減税はいずれもインフレを引き起こす可能性高い。そのため、ホワイトハウスと中央銀行の間で恫喝が起こる可能性が非常に高い。今年初め、トランプはジェローム・パウエル( Jerome Powell )FRB 議長が 2026 年 5 月までの任期を全うすることを認めると述べた。もし FRB がトランプが望むほど急速に金利を下げなかったり、あるいは金利引き上げを検討したりした場合、トランプは考えを変えてパウエル議長を解任しようとするかもしれない。トランプとパウエルが対立すれば、現在の平穏な状況が続くことを祈っている金融市場は間違いなく動揺するだろう(過去 8 年間で、S&P500 は 175% 上昇し、ナスダックは 300% 以上上昇している)。トランプは最終的に引き下がるかもしれない。しかし、それは誰にも予測できない。
2024 年と 2016 年を区別するもう 1 つの違いは、トランプがさらに過激になっていることである。関税と強制送還に関してより過激な主張をしているだけでなく、政府機関を使って敵とみなす人々を標的にするようになっている。特定の統治機関を無視し、その解体を主張し、法の支配を踏みにじろうしている。減税や関税引き上げとは異なり、この種の行動は経済モデルに取り込んで定量化することはできない。それゆえ影響を定量的に分析することもできないわけだが、繁栄するアメリカ経済の法的基盤および制度を脆弱化させるだろう。
11 月 5 日にトランプが勝利した場合の正確な経済予測をすることは不可能である。とはいえ、十分に予測可能なこともいくつかある。貿易戦争が勃発し、物価が上昇し、労働力が不足し、財政赤字が拡大し、国家財政の長期的な持続可能性に対する懸念が高まり、低炭素経済への移行の取り組みが後退し、法の支配が弱体化するだろう。これらは全て憂慮すべきものであるが、いずれもすぐに実現する可能性は低くない。♦
以上
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