本日翻訳し紹介するのは、the New Yorker のDecember 21,2020 Issueの記事です。題は”When a Virus Is the Cure”(ファージ療法の確立が期待されている!)です。抗生物質耐性菌が増えている状況下ですので、ファージ療法に期待している人が多いということが記されています。
Nicola Twilley氏による寄稿記事です。彼女は医学とか公害とかの科学的な記事を沢山投稿しています。面白い記事が多いので、また訳して紹介していきたいと思います。さて、今回訳して投稿した記事の内容は、ファージ療法に関するものでした。ファージ(バクテリオファージ)とは、細菌のみに感染するウイルスのことです。シュードモナス菌や大腸菌や腸球菌などは世の中に沢山存在しています。健康な人であれば、免疫系が反応してそれらの細菌が体内で増殖することはありません。しかし、高齢者などで免疫系が弱っているとそれらの菌に感染すると体内で菌が増殖してしまいます。そうした際には、抗生物質が投与して細菌を退治します。しかし、抗生物質に耐性を持ったシュードモナス菌などが増えていて抗生物質が効かないということがしばしばあります。そうした状況では、特定の細菌を退治するバクテリオファージを投与して細菌を殺すというファージ療法が有効となります。
今後、抗生物質耐性菌が増えると予想されていますので、ファージ療法に対する期待も高まっています。しかし、ファージ療法はあまり広まらないと私は予想します。というのは、製薬会社にとってあまり儲からないからです。まず、作るのにお金がかかります。ファージは工場で大量生産できるものではありません。下水や汚水などからウイルスを採集して、特定の細菌に効果を発揮するものがあるか調べます。そして、該当するウイルスがあれば培養して増殖させなければなりません。しかも、細菌ごとに特定のウイルス(ファージ)を見つけなくてはなりません。1つのファージが大量に市場で販売できるわけでもありません。また、抗生物質耐性菌に侵されている患者は、免疫力が弱っている方や高齢者が多いので、ファージが長期間投与される可能性は低いでしょう(早々に亡くなってしまう可能性が低くない)。ですので、ファージ療法に注力しようとする製薬会社は存在しないでしょう。製薬会社は大量生産出来て、多人数に長期間投与できる薬の開発にしか資金を投入できないのです。例えば、ファイザー社の高脂血症治療薬リピトールなんかは対象となる患者は多いですし、長期間飲んでもらえるので非常に利益に貢献しました(特許が切れてしまいましたが)。
私は、製薬会社が儲かる薬ばかり作って利益至上主義だと非難したいわけではありません。製薬会社からすれば、儲かる薬を作りたいというのは自然なことです。昔と違って1つの薬を作って申請承認を得るのにも膨大な資金が必要になります。研究開発(R&D)にお金をかけて薬の開発に取り組んでも、必ずしも成功するわけではありませんし、他社の後塵を拝することだってあります。ですので、成功したら莫大な利益をもたらす薬の開発に資金を集中的に投じますし、競争で負けないために必要なテクノロジーを持った同業他社を囲い込み(買収)しているのです。でも、私はそれで良いのだと思います。製薬会社が儲かる薬というのは、患者が多い薬ですので、それに資金が集中的に投じられることは、多くの患者が救われる可能性が高まるということを意味するからです。
では、以下に和訳全文を掲載します。