5.コンテナ紛失事故が増えたのは、人類の経済活動拡大が原因
漂流物を研究することは海流の研究において大変有用なことなのです。海に流出したコンテナの中身は、細長い帯状に海面上を漂うことが多いようです。エベスメイヤーは、太平洋上を帯状になって漂う漂流物を”太平洋ゴミベルト”(Great Pacific Garbage Patch)と名付けました。海運業界関係者の多くは、コンテナの損失で発生する漂流物の影響は比較的小さい問題だと指摘しています。というのは、海に沈んだコンテナの数は、膨大な数のコンテナのほんの一部に過ぎないからです。たしかにコンテナが無くなる確率は非常に小さく、ビジネス的な視点で見ると大きな問題では無いのかもしれません。しかし、マナティーやカニやウミツバメやサンゴはもちろんのこと、人類にとっても決して小さな問題ではありません。コンテナやその中身が海に堆積することによる影響は、計り知れないものがあると思われます。
コンテナ輸送船からの落下物に国際海事機関が危険物(爆発物、放射性物質、有毒ガス、アスベスト、自然発火しやすいものなど)と定義しているものが含まれている場合、船舶会社は関係当局に報告する義務があります。それは非常に有用なことなのですが、実際には効果は限定的です。なぜならば、船舶会社は一度報告すればそれ以上の責任は負わないことが多いということもありますし、危険物という定義に当てはまらないものでも海洋や沿岸環境に壊滅的な影響を与えるものが非常に多いからです。トキオ・エクスプレス号は、原油流出事故を起こしたエクソン・バルディーズ号(Exxon Valdez)と違って国際海事機関が定義する危険物を流出させてはいないのですが、500万個のプラスチック片を海にバラまいており、環境に及ぼす影響は決して小さくありません。ハエたたきや洗剤のボトルやクリスマスの飾りやそれらの包装容器なども同様です。それらはのほとんどがプラスチックか、プラスチックよりも環境負荷の高い発泡スチロールでできています。それらは波にさらわれれて劣化し小石ほどの大きさに砕け、除去するのが非常に困難になります。、鳥類や水生動物の一部はそれをエサと誤認識して飲み込んでしまうようです。
輸送用コンテナというのは、単なる箱であり、その中に物を入れることを意図して作られたものです。輸送用コンテナ自体には、何の罪も無いのです。コンテナの損失事故が示唆しているのは、現代の人類の活動が環境に多大な負荷をかけているということなのです。快適さを求め、旺盛に消費して、世界中で交易が盛んになることで、驚くほど環境に負荷がかかっているのです。薄型テレビ、黄色いトラのキャラクターのおもちゃの電話(ガーフィールド・テレフォン)など、流失したコンテナの中身は千差万別なのですが、認識しなければならないのは、人類は過剰な消費をしているということです。本当に問題なのは、私たちが過剰に製造し、過剰に出荷し、過剰に消費し、膨大な量の商品を廃棄しているということなのです。コンテナ損失事故で、その内のごく一部が海洋を漂っただけでも、環境に重大な影響を与えています。トキオ・エクスプレス号がランズ・エンド沖でコンテナを落とした6週間後、16海里(29.6キロ)離れたスキリー諸島沖で別のコンテナ輸送船が座礁し、数十個のコンテナが海に投げ出されました。その後、現地の住民やビーチコマーが、投げ出されたコンテナの中身を海岸から除去するために拾わなければなりませんでした。貝殻や小石やコーンウォール・ドラゴンに混じって、レジ袋がたくさん流れ着いていました。それは、アイスランドの食品スーパー用のもので、船から落ちたのは100万枚でした。その袋には、「環境保護にご協力下さい(Help protect the environment)」という文字が書かれていました。♦
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