Why Donald Trump Picked J. D. Vance for Vice-President
ドナルド・トランプがJD・ヴァンスを副大統領に選んだ理由
The Ohio senator is an attack dog for the former President, but he is also something more emergent and interesting: he is the fuse that Trump lit.
オハイオ州選出の上院議員は前大統領の攻撃犬だが、さらに新しく興味深い存在でもある。つまり、トランプが点火した導火線なのだ。
By Benjamin Wallace-Wells July 15, 2024
先週の土曜日( 7 月 13 日)、政治的意図も動機もはっきりしないペンシルベニア州の 20 歳の男がドナルド・トランプを殺そうとした。 2 時間後、オハイオ州選出の共和党上院議員 J・D・バンス( J. D. Vance )は、反応してソーシャルメディアに投稿した。 「今日の事件は起こるべくして起こったものである。バイデン陣営の大前提は、ドナルド・トランプ大統領は権威主義的ファシストであり、何としても阻止しなければならないというものである。そのレトリックがトランプ大統領暗殺未遂を引き起こしたのである」。
ワシントンの論理に従えば、月曜日( 7 月 15 日)にバンスがトランプの伴走者に選ばれたことは理にかなっている。バンスは指名候補の最終候補者 3 人の中で最も保守的で、最も率直に忠誠を誓っている。世論調査でも人気が高かったし、副大統領候補にふさわしい資質を持っている。しかし、バンスは、温和な改革保守主義から、強硬なポピュリズムへと急速に変遷した人物でもある。常に反エリート主義を掲げてきた。彼はトランプの番犬であると同時に、突然注目を集めるようになった興味深い存在でもある。つまり、トランプに焚付けられた人物でもある。
39 歳のバンスが初めて選挙に出馬してから 2 年しか経っていない。彼は共和党内で頭角を現したわけだが、その急激さはバラク・オバマに匹敵するほどである。彼の言説は非常に鋭い。たぐい稀な能力が備わっている。自分の人生の経験を説得力のある物語に変換するのが巧みである。母親が薬物依存に苦しんでいたため、バンスはオハイオ州アパラチア地方で祖父母に育てられた。イラクで海兵隊員として従軍した後、オハイオ州立大学、イェール大学ロースクールに進学した。そこで「 Battle Hymn of the Tiger Mother(邦題:タイガーチェア)」の著者であるエイミー・チュア( Amy Chua )から、自分の経験を回顧録としてまとめるよう勧められた。彼が 2016 年に出版した 「 Hillbilly Elegy(邦題:ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち)」は大ベストセラーになった。ニューヨーク・タイムズ紙はトランプの勝利を説明する 6 冊の本の内の 1 冊に選んだ。2016 年の大統領選期間中、バンスは元ルームメイトに「トランプはニクソンのような皮肉屋のクソ野郎で、それほど悪くはないだろうし、役に立つかもしれないと思うか、アメリカのヒトラーになる可能性もある。」というメッセージを送っている。
「ヒルビリー・エレジー」の人物描写の一部は当時でも平面的に思えたが、バンスが描く貧困から富豪に上り詰めるストーリーと、オハイオ州南西部などの地域で豊かな生活の基盤となっていた社会秩序が経済崩壊によって悪化したと主張する分析のタイムリーさによって大ベストセラーとなった。2020 年には映画化され公開された。監督はロン・ハワード( Ron Hawoard )であった。当時、バンスはシリコンバレーでベンチャーキャピタリストとして働き、ピーター・ティール( Peter Thiel )の庇護を得るまでになっていた。
それからの 4 年間で彼は並外れた変遷を遂げた。著名でカテゴリーにとらわれない若い保守派知識人から、右翼の急先鋒として副大統領候補にまで上り詰めた。バンス自身の変化の幅も大きいが、共和党内部でも大きな変化があった。アメリカで二極化が鮮明となり政治が硬直化する中で、バンスは頭角を現したのである。先月、彼は、タイムズ紙のロス・ドゥーサット( Ross Douthat )と対談した。彼が主張したのは、右寄りの主張をするようになったのは、トランプ政権末期の頃にリベラリズムに変化を感じ取ったからだということである。「 2019 年と 2020 年のリベラリズムについて私が考え続けたことは、リベラルな人たちは皆、カール・シュミット( Carl Schmit )の著書を読んでいるということである。シュミットが重視するのはで法はなく、権力だけである。」とバンスは語った。「そして、ここでのゴールは権力の座に返り咲くことである。実際、トランプが連邦最高裁判所陪席判事にブレット・カバノー( Brett Kavanaugh )を指名した件でもそうだったし、ブラック・ライブズ・マターの瞬間でもそうであった」。バンスが 2022 年の上院議員選挙に出馬した時、彼は選挙広報でリベラル・エリートへの反感を強調していた。「我々は人種差別主義者なのか?」と彼は有権者に問いかけた。「メキシコからの違法移民の流入を防ぎたいだけだ。なのに、報道機関の多くは、トランプが壁を作ることを支持している者を人種差別主義者と呼ぶ。彼らは我々を非難しているが、我々は間違っていない」。
2022 年 4 月に私はオハイオ州を訪れた。バンスが上院予備選を戦っていたが、非常に混戦だった。彼は至る所で反トランプ主義者につきまとわれた。「私は重要なことから目を背ける他の候補者とは違う。」と彼は言った。そして、最初はトランプが好きではなかったことや、この億万長者が「完全に隠されていたこの国の腐敗を明らかにした」ことを徐々に理解できるようになったという話をした。当時、バンスは、特に討論会等での議論が得意だったわけではない。今年の大統領選では、その能力が上がったかどうかが試されることとなるだろう。彼の話を聞いた聴衆の多くは、彼が常にトランプ支持者だったわけではないことを知って、いささか警戒感を強めていた。私は、聴衆が彼に不信感を抱いていたことを伝えた。バンスはうなずきながら、そうした状況であることを完全に理解していると言った。それでも彼は、労働者階級の代弁者として自らを位置づけることに成功していた。選挙戦で最も興味をそそる候補者でもあった。彼の選挙戦略は間違っていなかった。トランプが彼を支持するようになり、バンスは予備選で勝利して共和党候補となり、その後の中間選挙で勝利した。バンスは、おそらく現在の共和党で出世するために何が必要であるかを認識できていたのだろう。それで、トランプに対する性的暴行の告発を声高に非難していたのである。
バンスは 1 月 6 日の議事堂襲撃事件後もトランプを支持し続けている。そうした者は共和党議員団の中にたくさんいる。彼らは全面的かつ盲目的にトランプを支持する傾向があり、彼らのキャリアと評判は前大統領と切っても切れない関係になっている。共和党員の多くは熱烈なトランプ支持者である。バンスが台頭できたのは、トランプ人気を上手く取り込めたことにある。同世代の他の共和党上院議員、アーカンソー州選出のトム・コットン( Tom Cotton )、ミズーリ州選出ジョシュ・ホーリー( Josh Hawley )、フロリダ州選出マルコ・ルビオ( Marco Rubio )と同様、バンスは共和党が過去の自由市場絶対主義から脱却する必要性をしばしば強調している。シンクタンクのアメリカン・コンパス( American Compass )が 2023 年に主催したイベントで、彼は「1980 年代と 1990 年代に流行った新自由主義を見直さない限り、共和党が過半数を維持する道はない」と語った。彼は関税引き上げを支持し、共和党に組合票の獲得に努めるよう促している。「私の祖母の政治信条は、左派の社会民主主義と右派の個人主義のハイブリッドであった。どちらにも長所があることを認識していた。」と、バンスは 2 月にニュー・ステイツマン( the New Statesman:ロンドンのニュース誌)のソラブ・アフマリ( Sohrab Ahmari )に語った。しかし、実際にはバンスには左派的な思考など全く無い。アフマリが皮肉っぽく言ったのだが、バンスが労働組合票の獲得に貢献する可能性はほとんど無い。それでも、今回、バンスが副大統領候補に指名されたことは、トランプの共和党エリート層との関わり方が変わったことを示している。2016 年に自分と毛色の異なるペンスを指名したのとは対照的である。トランプは、分断を深化させ、経済面ではナショナリズムを推し進める姿勢を明確にしている。トランプは、共和党エリート層を変えつつある。共和党全体を大きく変容させつつある。
ペンス前副大統領の任期は、議事堂襲撃事件後に終わった。トランプ支持者からさんざん非難された。トランプ政権時に閣僚を務めた共和党議員の多くは後悔している。今回、バンスが副大統領候補になったわけだが、このことがトランプ再選に寄与するのか、それとも役立たずのお荷物となってしまうのかは現時点ではわからない。しかし、今回の大統領選では年齢が大きな争点となっており、バンスの若さはトランプ陣営にはささやかだが貴重なアピールポイントとなるだろう。バンスがすべきことは、自身がトランプ主義の正統な後継者であるということを説得力を持って示すことである。♦
以上
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