3.医療関係者としてワクチン接種を推奨したい
あらゆる側面からメリットとリスクを分析した上で、多くの医療専門家は、家族や隣人や同僚や友人や他のすべての人々に新型コロナのワクチンを接種して欲しいと勧めています。ワクチン接種を勧める理由は、それによって享受できるメリットがリスクに対して信じられないほど大きいと考えているからです。メリットとリスクの比率で言うと、薬局で誰でも処方箋無しで買える鎮痛剤よりも優れていますし、多くの抗生物質よりも優れていますし、ERで医師が日常的に処方するほとんどすべての薬剤よりも優れています。新型コロナ感染の重症化(入院するか死亡)を94%も防げるのです。1年前にはそんなワクチンが出来ることなど想像もできませんでした。また、英国で取られた初期のデータによれば、現在のワクチンはデルタ変異株に対しても重症化を防ぐ効果があることが判明しています。ERで医師として患者と対面した時に、悲しいことですが、治療の手立てが何も無いということを伝えなければならないことがしばしばあります。しかし、新型コロナの場合は、何の手立ても無いわけではありません。ワクチンという有効な手立てがあるのです。ワクチン接種することは、自分を守るだけでなく、自分の愛する周りの人たちを守ることにもなるということを忘れないで下さい。それは、地域を守ること、しいては全世界を守ることにも繋がるのです。現状、新型コロナ対策では、ワクチン接種ほど有効な対策は何も無いのです。
とはいっても、ワクチンにはリスクだってあるだろう?という声もあります。確かにリスクの方がメリットよりも少ないと分かっていても、少ないリスクが何なのかということが分からないと不安は無くなりません。今年(2021年)の春、欧州では2,500万回の新型コロナワクチンの接種が実施され、ワクチンに起因すると思われる血栓症例が86件報告されました。米国では、1,300万回接種され、ジョンソン&ジョンソン社製のワクチンに起因する血栓症例が42件報告されています。これは0.0003%に相当します。モデルナ社製のワクチンに至っては、これまでのところ血栓症例は2件しかありません。先月(2021年7月)末に接種が開始されたアストラゼネカ社製のワクチンは、ある研究によれば、1回目の接種後のワクチンに起因すると思われる血栓症の発生率は0.0002~0.0008%でした。一方、新型コロナに罹った場合、血栓症になるリスクはその8倍です。ですので、ワクチン接種で血栓症になるリスクは、接種しないで新型コロナに罹患して血栓症になるリスクと比べようも無いほど低いのです。
ワクチンには血栓症以外の症状を引き起こすリスクもあるわけですが、それらの症状についても同様にワクチンを接種するリスクは接種しないリスクよりも比べようも無いほど低いのです。ジョンソン&ジョンソン社製のワクチンに起因すると思われるギラン・バレー症候群(急性・多発性の根神経炎の一つで、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる)の発症例が161件報告されていますが、1,300万回以上の接種が行われていますので発生率は0.01%程です。米国では、約3億5,000万回のモデルナ社製およびファイザー社製のワクチンが接種されましたが、これまでにそれに起因すると思われる心筋炎もしくは心膜炎の症例は約700件確認されていますが、ほとんどの症例において2週間以内に回復しています。その例では、ワクチン接種者の発症率は約0.0002%です。こうした数字を見て、副作用が発生する確率は非常に少ないことを認識してもらいたいのです。3億5,000万回で700件の副作用の割合ということは、現在の米国の人口が約3億2,000万人ですから、概ね米国中を見渡して副作用を起こす者が700人いるという感じになります。米国中に散らばったその700人に手を上げてもらっても、その人たちを見つけ出すことは不可能でしょう。副作用はそれほど少ないのです。
一部の人々は、既知のリスクだけでなく、未知のリスクも心配しているようです。それで、mRNAワクチンが接種した者のDNAを変化させたらどうなるのか?ということを心配しています。将来、接種した者の健康を脅かすのではないか?ということを心配しています。mRNAワクチンは過去には無かったものですから、未知のテクノロジーであり、接種した者の体に影響を及ぼす可能性があるのではないか?ということを心配しています。結局のところ、mRNAワクチンというのはまったく新しいテクノロジーであり、FDAがファイザー社製のワクチンを完全に承認しただけで(他社のワクチンは緊急使用のみ承認されている)、将来どのような影響が出るのかは分かっていないということを言う者も少なからずいるようです。
しかし、結局のところ、mRNAは特に新しい未知のテクノロジーではありません。1990年代から、多くの科学者たちがその開発に鎬を削ってきました。そして、mRNAの根幹を為す基本技術は驚くほど単純で優れたものです。ほとんどの既存のワクチンは、防御する対象となるウイルスを多少なりとも何らかの形で内包しています。ポリオワクチン等には、人間の細胞内で自己複製できないように不活化したウイルスが含まれていますし、はしかワクチン等では、生きた弱毒化したウイルスが使われていて、それは人間の細胞内で自己複製することが出来るものの、感染が拡がらず人間の免疫応答を引き起こすトリガーとなるように設計されています。mRNAワクチンは、防御する対象となるウイルスをまったく含まないという点で、それらのワクチンとは大きく異なります。その代わりに、mRNAワクチンには、人間の細胞に一連の指示を出す物質が含まれています。その指示を伝える役目を果たすのがメッセンジャーRNAで、人間の体内の全ての細胞はメッセンジャーRNAのコードを読み込んで、それに従ってアミノ酸の鎖を編みタンパク質を作り出します。それがスパイクタンパク質で、つまり、mRNAワクチンを接種すると細胞にスパイクタンパク質を作るよう指示が出されるということです。スパイクタンパク質は新型コロナウイルスの一部でウイルスの表面のあちこちに散らばって突き出ています。mRNAワクチンには、ウイルスのスパイクタンパク質以外の部分は全く含まれていません。接種によって、人間の細胞はスパイクタンパク質を外敵として認識できるようになり、免疫系にそれを攻撃するよう指示が流れます。それで実際に本物のウイルスが侵入してきた際には、免疫系は反応して戦う準備が出来ています。mRNAが作るよう指示を出したスパイクタンパク質と同じものと遭遇すると、免疫系が反応してそれを破壊します。そういったことはすべて、DNAが格納されている細胞核の外側で起こることです。ですので、人間の細胞のDNAが書き換えられることなど無いのです。これは非常に素晴らしい技術です。mRNAワクチンが将来接種した者の健康を脅かす可能性があるという説に科学的根拠はありません。mRNAワクチンを接種すれば効果があろうがなかろうが、いずれ効果が無くなるだけです。長期的に遺伝子に影響を及ぼすようなことはありえません。
mRNAワクチンが安全であるならば、どうしてFDA(米食品医薬品局)はまだ全てのmRNAワクチンを完全に承認していないのでしょうか?それは、十分な安全性データが無いためでも、副作用に関して懸念があるためではありません。スクリプス臨床研究所創設者兼所長のエリック・J.トポルはニューヨークタイムズ紙の記事に記しています、「医学の歴史の中で、生物学的製剤(ワクチン、モノクローナル抗体製剤など)の安全性と有効性がこれほどまでに精査されたのは、新型コロナ用のワクチンが初めてです。」と。FDAはまだ全てのmRNAワクチンを完全に承認していない理由は、薬等の完全な承認には膨大な事務処理と多くの現地調査が必要になるためです。FDAは、mRNAワクチンによる副作用の発生は非常に稀であることを既に認識していますが、初回のワクチン臨床試験に参加した全ての治験者の6か月分のデータや記録を確認し評価なければならないのです。「緊急使用許可を出すのとは比べ物にならないくらい、膨大なデータを確認する必要があるのです。データは数万ページ、時には数十万ページにもなるのです。」と、FDAの承認プロセスを監督するピーター・マークスは述べています。それに加えて、FDAは、ワクチンが製造される施設の視察調査を実施する必要があります。対象となる施設は、世界中のさまざまな国に散らばっています。それは非常に骨の折れるプロセスであり、安全性の担保が全てに優先しますので、非常に時間がかかってしまうものなのです。非常に皮肉なことですが、承認されるワクチンへの信頼性を高めるために設計された承認プロセスが、その信じられないほどの厳格さ故に、ワクチンの完全承認を遅らせています。それで、完全承認されていないワクチンだからと不安がる人が少なからず出てしまっているのです。
ワクチンが接種開始となってから何ヶ月も経った今、デルタ変異種が猛威を振るっている最中で、ワクチン忌避者が今さら考えを変えることはないだろうと誰もが思いがちです。しかし、そんなことはありません。ワクチンは安全だと訴えるだけでなく、なぜ安全なのかということも教えてあげなければなりません。最近、私は家族の何人かに電話でそうしたことを説明し、ワクチン接種を受けることを検討するように促しました。電話の際には、皆検討するとだけ言っていました。でも数日後、彼らはテキストメッセージでワクチンを接種しようと思っていると送信してきました。
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