Will Historic Job Growth Bring an End to the “Vibecession”?
記録的な雇用の増加は「バイブセッション」に終止符を打つのか?
The Labor Department’s March employment report shows the U.S. economy continuing to power ahead. Yet many voters’ perceptions remain stubbornly negative.
労働省の 3 月雇用統計は、米国経済が引き続き力強く前進していることを示している。しかし、多くの有権者の認識に変化はなく否定的なままである。
By John Cassidy April 9, 2024
1.
ここ数カ月、アメリカの政治に関して誰もが不思議に思っていることがある。それは、様々な経済指標が示唆するようにアメリカ経済が強固であるという事実がいつになったら大統領選関連の世論調査に反映されるかということである。雇用と GDP の伸びは予想をはるかに上回り、インフレ率は予測を上回るスピードで低下している。しかし、バイデン大統領の経済政策に対する支持率はほとんど変わっていない。リアル・クリア・ポリティックス( Real Clear Politics )の世論調査平均によれば、月曜日( 4 月 8 日)の時点で 39.6% となっている。非常に低い。先週金曜日( 4 月 5 日)に労働省が 3 月の雇用統計を発表した。非常に強い数値が示されている。これが反映してバイデン大統領の支持率が改善する日は来るのだろうか。3 月は 30 万 3 千人の雇用が創出された。マーケットコンセンサスを大幅に上回っている。失業率は 3.9% から 3.8% に低下し投資銀行ジェフリーズ( Jefferies )の短期金融市場エコノミストのトーマス・シモンズ( Thomas Simons )は、「このデータには言葉を失う。」とコメントした。
アメリカではこの1年間で雇用者数が 290 万人も増えた。バイデンが大統領に就任して以降の 3 年間で 1,520 万人も増えている。新型コロナパンデミックが始まる前と比べると、職に就いた者が約 580 万人も増えている。インフレ率が高いと懸念している者も少なくない。とはいえ、インフレ率は 2022 年 6 月に 9.1% と天井を付けたが、足元では 3.2% まで下がっている。今回発表された雇用統計を見ると、その点でも心強いニュースがあった。1 年間の時給の上昇率は 4.1% であった。これは 2021 年 6 月以来の低い水準であり、インフレが抑制されていることを示すものである。力強い経済成長と低失業率、低インフレ率の組合せは、再選を目指すバイデン大統領にとって最強のカードである。
さまざまな有権者にとって有意な指標が出ているにもかかわらずバイデンの支持率が改善しない理由については、少なくとも 3 つの説明がある。消費者物価理論( the consumer-prices theory )、ラグ理論( the lags theory )、バイブ理論( the vibes theory )である。消費者物価理論は、インフレ率がかなり低くなったにもかかわらず、物価水準と生活費全般が高止まりしていることを強調するものである。ラグ理論は、政治家や政策立案者と違って市井に暮らす人々が景気の変化を認識するのはかなり遅く、それなりの時間差(ラグ)があるとするものである。バイブ理論は、何らかの理由で多くのアメリカ人の経済に対する認識が現実と乖離しているとするものである。多くのアメリカ人は、エコノミストのカイラ・スキャンロン( Kyla Scanlon )が作った造語 「バイブセッション( Vibecession )」から抜け出せていない。バイブセッションとは、ある国の経済と、その国の経済に対する一般大衆の否定的な認識(主に悲観的)との間の断絶を指すための造語で、vibe(雰囲気)と cession(不況)を合体させたものである。
3 つの理論それぞれに、それを裏付ける根拠が存在している。過去 1 年間で食料品価格はそれほど上昇していないのだが、多くの食料品や他の品目(中古車等)は、バイデンが大統領選に勝利した 2020 年と比べるとかなり高止まりしている。過去 1 年間の賃金上昇率は物価上昇率よりも高いのだが、それ以前の物価上昇を相殺できるほどでもない。こうした事実は消費者物価理論を裏付けるものである。ラグ理論を裏付けるのは、直近の各種指標を見ると、バイデンの支持率の改善は見られないものの、経済に関するセンチメントが広範に改善している兆候がみられることである。先月、ミシガン大学消費者信頼感指数( Michigan’s index of consumer sentiment )は 1 年前より 28.1% 上昇した。同大学が調査する消費者期待指数( index of consumer expectations )は、調査回答者の将来に対する感情を反映するものであるが、さらに上昇している。消費者心理の改善は、いずれ大統領の舵取りを含む経済政策全般に対する人々の評価に影響を与えるはずである。そう考えるのが妥当である。
しかし、実際には時が経てばすんなりとバイデン大統領の支持率が改善するわけでもなさそうである。先週発表されたウォール・ストリート・ジャーナル紙( Wall Street Journal )が 7 つの激戦州を対象とした世論調査の結果は興味深いものであった。それはバイブ理論を裏付けるものであった。回答者の 3 分の 2 弱がアメリカ経済の強さを「悪い( Poor )」または「あまり良くない( Not so good )」と評価し、56% が過去 2 年で景気が「悪くなった( gotten worse )」と答えた。いずれも直近の経済統計とは一致していない。多くの回答者が純粋に食料品価格や家賃の高さだけで景気判断を下していると推測される。ある意味、この推測は正しいと思われる。しかし、その推測は、7 州すべてで回答者の過半数が過去 1 年間のインフレについて実際とは違う方向に進んでいると認識している事実を説明するものではない。消費者物価指数を見ると、インフレ率は現在 3.2% で 1 年前の水準を 2.0% 近く下回って十分に低いのである。
また、この調査の回答者の 47% が、過去 1 年間に自分の投資や資産運用が間違った方向に進んだと答えている。ジャーナル紙の世論調査のための聞き取りが終了した翌日の 3 月 25 日(月)までの 12 カ月間で、投資等の運用結果のベンチマークとなる S&P500 種株価指数は 30% 以上も上昇している。もしかしたら、回答者の多くが株式市場には投資していなかったのかもしれない。しかし、預貯金の金利もこの 1 年で大幅に上昇し、もう 1 つの重要な投資資産である不動産の価格も上昇している。ジャーナル紙のコラムニスト、グレッグ・イップ( Greg Ip )は、世論調査で明らかになった認識と現実のギャップについて、「経済に関しては、バイブ(雰囲気)と事実がせめぎ合い、バイブが勝っている」と書いている。
現実と認識の差が大きいわけだがその根底には、激しい党派対立とフィルターバブル現象( filter bubbles:アルゴリズムがインターネット利用者の検索履歴やクリック履歴などを分析して、利用者の思想や行動特性に合わせた情報を作為的に表示する現象)がある。保守的なメディアや保守的なソーシャル・メディアのインフルエンサーを主たる情報源にしている有権者は、新型コロナ収束後の景気回復の力強さを示すニュースをほとんど耳にしていないと考えられる。しかし、ジャーナル紙の世論調査結果は公正なものと考えられるわけで、おそらくアメリカ経済に対して否定的な感情を持っているのは共和党支持者だけではないと考えられる。先週発表されたユーガブ( YouGov )による最新の世論調査によれば、自称無党派層の 59% が景気が悪化していると回答している。雇用、GDP 、インフレ率、賃金に関する最近の数値からすると、それは事実ではない。
ジャーナル紙の世論調査では、回答者の大半がアメリカ全体の景気は「良くない( poor )」または「あまり良くない( not-so-good shape )」と答えたのに対し、居住する州の状況は「非常に良い( excellent )」もしくは「良い( good )」と答えた者が過半数を占めた。たとえばジョージア州では、アメリカ全体の景気が「すこぶる良い( excellent )」もしくは「良い( good )」と回答したのはわずか 32% だった。一方、59% がジョージア州の景気は「非常に良い」と回答した。アリゾナ、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルバニア、ウィスコンシン州でも同様の傾向がみられた。こうした傾向は他の世論調査でも見られる。米連邦準備制度理事会( FRB )が長年にわたって行ってきた家計の幸福度を評価する調査では、新型コロナパンデミックとその余波が続く間で、アメリカ全体の景気に対する評価は、自身が居住する地域の景気に対する評価よりも急激に悪化したことが示されている。