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人々が景気をどのように感じ、どのように評価したかということが問題となっているわけだが、彼らはどのような報道を耳にしてきたのだろうか。ワシントン DC のブルッキングス研究所( the Brookings Institution )の 2 人のエコノミスト、ベン・ハリス( Ben Harris )とアーロン・ソジャーナー( Aaron Sojourner )は 1 月にサンフランシスコ連銀が作成した「経済ニュース心理指数( Index of Economic News Sentiment )」のデータを調査した論文を発表した。その論文によれば、2018 年の年初から経済関連ニュースはよりネガティブになり、過去 3 年間でネガティブな傾向がより顕著になっているという。月曜日( 3 月 8 日)にソジャーナーに話を聞いた時、彼はこの論文は「報道記者や編集者が景気について事実に反するネガティブな報道ばかりをしていることを明らかにするものである」と語った。たしかに、ときどきネガティブな報道があるというレベルではなかった。常に組織的にネガティブな報道ばかり流されるという状況であった。
この論文は確かに興味深いもので示唆に富むものであったが、この話にはもうひとつひねりがある。先日、ハリスとソジャーナーはブログを更新し、アメリカ経済が予想以上に力強く成長した 2023 年末まで例の論文の分析期間を延ばした結果を投稿した。それによれば、過去 2 四半期は状況が真逆となり、アメリカの景気に関する報道の内容は 2 人が計算し推測するよりも若干ポジティブだったという。つまり、ニュース報道のセンチメントは、昨年末のアメリカ経済のすこぶる良い展開を反映していたのである。これは、ここ数カ月で消費者センチメントが回復した理由の 1 つである。
しかし、バイデン大統領の経済運営に対する支持率がほとんど変化していない理由は分からないままである。ラグ(時間差)が問題なのかもしれない。スタンフォード大学の 2 人の経済学者、ニール・マホーニー( Neale Mahoney )とライアン・カミングス( Ryan Cummings )の研究によると、インフレが消費者心理に与える影響は持続的で、以前のインフレ率上昇による悪影響は年間約 50% の割合でしか減衰しないことが明らかになった。おそらく、インフレ率が低下して大統領の経済政策支持率に反映するのにも同様にラグ(時間差)があると推測される。(最近、バイデンとトランプのどちらを支持するかという直接対決の支持率調査の数字に変化が見られる。各種世論調査でバイデンがトランプを僅差でリードしていたのだが、リアル・クリア・ポリティクスの世論調査では、現在、両者の支持率は拮抗している)
最近ではアメリカ経済に関するニュースの論調もいくぶん変わってきている。それでも、多くの国民の認識はまだ大きくは変わっていない。ソジャーナーは、確かにそう考えている。彼は、トランプ大統領時代の 2016 〜 17 年にかけて大統領経済諮問委員会( the White House Council of Economic Advisers )のメンバーであった。雇用情勢の分析が専門であるが、直近の雇用のトレンドを見る上で、雇用が非常に安定している点に注目すべきであると指摘している。巷では、労働者が解雇されるリスクが小さくなっているという。彼が指摘したところによると、新型コロナのパンデミックが起きる前の解雇率は最も低い月で 1.1% であったが、バイデンが大統領に就任した 2021 年 1 月以降は常に 1.1% 以下であるという。これは、雇用状況の大幅な改善を意味している。「メディアが垂れ流しているアメリカ経済に対する陰鬱な報道ばかりを耳にしていると、そうした事実を認識することはできないだろう。」とソジャーナーは言った。「アメリカ経済の実態はメディアが報道するものとは異なっている」。♦
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