本日翻訳して紹介するのは、the New Yorker の May 17, 2021 Issueに掲載の記事です。数々の陰謀論が唱えられた奇妙な事件、1958年にソ連で起きたディアトロフ峠事件が科学的に解明されたことに関する記事です。日本でもTV番組で取り上げられた有名な迷宮入り事件の真相が解明されました。
Douglas Prestonによる寄稿記事です。題名は、”Has an Old Soviet Mystery at Last Been Solved?”(古いソ連の謎がついに解明された?)です。彼は自然や科学に関する記事を沢山書いています。さて、ディアトロフ峠事件の真相が科学的に解明されました。そのことはネットや他の雑誌等で見られた方も多いでしょう。この事件は日本でもTVで取り上げられて知っている方も多いでしょう。この記事を訳すまで知りませんでしたが、事件の起こったロシアや日本だけでなく、世界中で注目を集めていたようです。
この事件が起こったのは1958年、フルシチョフ政権下のロシアでした。スターリン時代よりはマシになったとはいえ、ソ連に住む人たちは当局を恐れていましたし、信用していませんでした。ですので、この事件に関しても当局が関わっていたとか、当局が真相を隠しているという疑惑が渦巻いていたのです。それで、沢山の陰謀説が唱えられることとなりました。
当時のソ連では典型的な対処の仕方でしたが、死因審問結果が秘匿されました。それにより、人々はさまざまな妄想を膨らませました。結果、死の原因を巡って突拍子もない説がいくつも唱えられました。当局の仕業で情報を隠しているという陰謀説が出てきたのは理解できないことはありません。しかし、UFO説、イエティ(雪男)説、CIA特殊工作員説(いや、CIAの特殊工作員が厳寒のウラルで9人を殺害して痕跡を残さず去るって優秀過ぎるだろ)、秘密兵器実験説などを唱える人がいるのですが、ふざけているとしか思えません。若い9人のエリート学生が無くなったのに、それはないだろうと思います。付け加えると、9人は無謀な冬山登山をしたわけではないことが明らかになっています。
調査が続けられた結果、75の説があったのですが、72は事実と反している点が多く除外され、3つの説だけが残りました。大規模雪崩に巻き込まれたとする説、ハリケーン(強風)に襲われたとする説、風成雪板の表層雪崩が発生したとする説です。おそらく3つ目の説が正しいと思います。調査で真相が明らかになりましたが、これでこの事件に対する関心が少なくなったわけではありません。雪崩が真相ということで、あまりにも平凡すぎるために、この説はあまり評判は良くないようです。私からすると、どう見ても科学的、合理的に事実と合致していると思え、解決したと思えるのですが。
この事件の真相を知りたがってた人たちの多くは、結局のところ「真実」を知りたがっていたのではないのです。UFOとか突拍子もない説を面白おかしく楽しみたかっただけのように思えます。そういえば、半年ほど前、New Yorker誌に陰謀論を唱える人たちに関する記事があったのを思い出しましたので、近いうちに訳して投稿したいと思います。
9人が非業の死を遂げた真相が明らかになりましたが、彼らが無謀な冬山登山をしたわけではないことも明らかになりました。彼らは、冬山登山に関して十分に経験豊富で、周到な準備をしていて、絶望的な状況でも冷静に教科書通りの合理的な判断をし、果敢に最期まで必死に行動したのです。それでも過酷な自然の前に不運にも尽きてしまったのです。発見された当時には薄着であったことから、無謀な冒険をしたと非難する人もいたのですが、故人の名誉が保たれたのは何よりも救いです。
では、以下に和訳全文を掲載します。