Annals of Science October 11, 2021 Issue
Can Nuclear Fusion Put the Brakes on Climate Change?
核融合は気候変動にブレーキをかけることができるか?
Amid an escalating crisis, the power source offers a dream—or a pipe dream—of limitless clean energy.
危機が深刻化する中、核融合発電は実用化されて無限のクリーンエネルギーを供給できるのか?それともはかない夢でしかないのか?またはパイプの夢を提供します。
1.なかなか実用化されない核融合発電
コップ一杯の水を元にして、全く炭素を排出しないで一般家庭が使用する1年分の電力を生み出す方法の開発についての研究が進んでいることを知っていますか?なおかつ、その技術がまもなく実現可能だと言ったら信じてもらえるでしょうか?誰も信じてくれないかもしれませんね。しかし、現在、世界中で多くの物理学者が核融合発電の研究に取り組んでいて、実際に実用化に近い状態まで来ているのです。その技術の確立の為には、いくつかのハードルが残っています。まず、物質を超高温の状態にする必要があります。太陽の中心よりも高い温度まで加熱する方法を見つけなければなりません。そこまで高温になると、原子は荷電粒子を含んだ気体、いわゆるプラズマになります。物理学者たちは、既にそれはクリアしています。また、プラズマを閉じ込めておける容器も開発する必要がありました。それもクリアしています。どういった方法でクリアしたかというと、強力な磁場で容器を構築したのです。しかし、ある科学者が指摘していましたが、プラズマを磁場で作った容器に閉じ込めるというのは、ゼリーをより糸で包むようなもので非常に難易度が高いもので、やはり、強力な磁場で作った容器では漏出があるので、さらに独創的な解決策を考案して容器を作る必要があるかもしれません。何度も何度も試行錯誤して、それもクリアしました。何十年にも渡る核融合の研究で、超高温のプラズマを閉じ込めるトカマク型プラズマ磁場閉じ込め方式が開発されました。トカマクはドーナツ形で特殊な形状のコイルがあり、電力を流すことにより磁力線が作り出され螺旋運動をすることで、プラズマはドーナツ状の真空容器内に閉じ込められるのです(訳者注:全く理解できないのだが、要するに電流を流して磁場を利用してプラズマをドーナツ型に閉じ込めているということのようです)。また、小規模な実験用の核融合装置が既にいくつも作られています。36年間、プロヴァンス(フランス南東部)で、本格実験用の核融合装置の研究開発が続けられています。本当にあと少しのところまで来ているのです。ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」に登場する白の女王がアリスに言うセリフに「未来から過去へ向かって生きているから、未来のことを覚えている。」というのがあるのですが、核融合の研究もまさしくそんな状況です(ゴールはイメージ出来ているのだが、なかなか到達でできない)。
気象危機が加速している中で、核融合技術は画期的なものなのですが、あまり期待を集めていません。太陽光発電は、毎年よりエネルギー効率が改善し、価格も安くなりつつあります。しかし、出力が一定では無いため、送電のためには天然ガス火力発電所の電力をベースロード電源として使わなければなりません。風力発電についても同じことが言えます。また、原子力発電には、非常によく知られている欠点(リスク)があります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等が定めた計画によれば、太陽光発電等のクリーンエネルギーの割合が増えることになっており、二酸化炭素排出量が大きく減る見込みとなっています。しかし、その計画の詳細をみると、クリーンエネルギーと言われるものが各々拡大したとしても、目標とする二酸化炭素排出量の削減は達成できないでしょう。達成できる可能性があるとしたら、核融合技術が確立された場合しか無いように思えます。ところで、核融合技術の確立を当てにするのは間違いなのでしょうか?核融合技術というのは決して実現できないはかない夢のでしょうか?
理論的には、核融合には原料が不足するという問題は存在しません。地球には、核融合の原料は十分すぎるほど存在しています。核融合の一次原料となるのは重水素とリチウムですが、海水中に200万年分が存在しています。核融合は、需要に合わせて出力を調整出来るので、他の発電方法とことなりバッテリーの大幅な進化は不要です。原子力発電所のように危険ではありませんし、コスト的にはとても優れています。しかし、核融合は現時点ではグリーン・ニューディール政策(再生可能エネルギーや環境関連技術への積極的な投資で、雇用創出と景気浮揚を図る米国などの政策)の範疇には入っていないのです。ということで、核融合の実用化の研究で一番問題なのは、この分野への投資が足りていないということと、安全性に疑念を持たれているということです。
1976年、米国エネルギー研究開発局が1本の論文を発表したのですが、そこに記されていたのは、核融合が実用化する時期は、この分野への投資額の大きさによって左右されるだろうということでした。その論文の最も楽観的なシナリオでは、毎年約90億ドル(現在の貨幣価値で)の投資資金が流れ込めば、1990年までに核融合発電が実用化されるというものでした。その論文ではさまざまなパターンの見通しが記されており、核融合分野への投資資金の規模が年間10億ドルまで減ると、核融合発電は永遠に実現しないと記されていました。英国の物理学者スティーブン・カウリーは私に言いました、「年間10億ドルというのは、現在の実際のこの分野への投資額とほぼ一致していますね。まるで、核融合を実現させない為に投資しているようなものです。」と