なぜeメールは私たちを惨めな気持ちにさせる?他者との繋がりを切ってはいけないという不安感が原因?

Annals of Technology

E-mail Is Making Us Miserable
eメールは私たちを惨めな気持ちにさせています

In an attempt to work more effectively, we’ve accidentally deployed an inhumane way to collaborate.
より効率的に仕事をするために、誤った手法を取り入れたことにより、誰もがイライラする状況に陥っています

By Cal Newport  February 26, 2021

①eメールは人間を惨めな状況に追いやっている

 2017 年の初めに、フランスでいわゆる「繋がらない権利」を労働者に保証する法律が施行されました。従業員が 50 人以上の企業は、従業員が終業後や週末にeメールの受信トレイを気にしなくて済むようにすることを目的として、勤務時間外のeメールの使用に関して労使で協議することが義務付けられました。当時の労働大臣ミリアム・エル・コムリは、燃え尽き症候群を減らすために必要な措置として、新しい法律の意義を強調していました。この法律には賛否両論ありますが、背景には世界中の労働者が直面している問題がありました。現代では、労働者はいつでもどこでも仕事に関するメールが届き、気が休まる暇もありません。eメールが労働者を惨めな状況に陥れています。
 eメールの影響を研究するために、カリフォルニア大学アーバイン校の研究室が、40 人の会社員を調査しました。被験者にワイヤレスの心拍数モニターを 12 日間装着しました。研究室では、心拍数の変動を記録し分析しました。心拍数を調べるのは、精神的ストレスの度合いを認識するためです。また、40人の会社員のパソコンの使用状況も監視しました。それによって、eメールをチェックすることと精神的ストレスとの関連性を調べました。その実験で研究室が発見したのは、特に驚くべきことではありませんでした。限られた時間の中でeメールの処理に費やす時間が多くなればなるほど、その時間内での精神的ストレスは高くなるということでした。また、別の実験も行われました。その実験では、被験者のパソコンのモニターの下に赤外線サーマルカメラを設置しました。それによって顔面皮膚温分布を調べて精神的ストレスの度合いを測りました。その実験で判明したのは、受信メールを纏めて一気に処理することは、巷ではeメール処理のストレスを減じる方法だと言われることが多々あるものの、必ずしもストレス緩和には寄与しないということでした。特に神経質な性格の人ほど、eメールを纏めて処理することに強くストレスを感じていました。おそらく、纏めて処理するまで溜めていたメールが気になってストレスが高るのだと推測されます。この実験で、分かったことはほかにもあって、人はストレスを強く感じている時に、より迅速にeメールに返信するということと、その際にはあまり注意深く処理していないということです。テキスト分析ソフト”Linguistic Inquiry and Word Count” で分析して明らかになったのは、そうして拙速に送信されてeメールには怒りを表現する言葉が含まれる傾向が高いということでした。2つの実験で明らかになったのは、eメールを使うことによって人々は他の者とコミュニケーションする時間を節約することが出来ますが、弊害もあるということでした。では、どうすれば良いのでしょうか?企業や組織が一丸となってeメールをやり取りする量を減らす取り組みを行うべきです。
 eメールと精神的ストレスの関連性が高いということを主張する研究者は沢山います。2019 年にスウェーデンで行われた研究では、約 5,000 人の労働者について長期的な調査が行われました。そこで明らかになったのは、常時eメールの送受信をしなければならない状況にある者の健康状態は最適な状態ではないということでした。その傾向は、年齢、性別、社会的経済的地位、健康状態、体格、仕事のストレス、周りからの支援などに関係なく全ての階層で見られました。この研究は、私たちが直感的に感じていたことをデータで裏付けるものでした。私は最近、私のブログの読者に対してeメールに関するアンケート調査を行いました。ある回答者は「eメールでやり取りすると、遅くて非常にイライラします。eメールのやり取りは人間味が感じられず時間の無駄だと思うことが多々あります・・・」と答えました。「いつももううんざりしています。ただこなしているだけです」という回答もありました。ある人は非常にeメールに煩わされているようで、「何かに取り掛かっていてもeメールが気になってしまうことがあって、集中できない時があります。とてもイライラしています。」と回答しました。
 従業員が快適に働けないのであれば、企業の業績は悪化します。また、フランスの労働大臣が警告したように、そのような従業員は燃え尽き症候群を発症してしまう可能性が高く、医療費の増加と従業員の離職率の上昇につながります。ハーバード・ビジネス・スクールの研究者が行った研究では、経営コンサルタントの集団が被験者でしたが、メンバー全員にeメールを見なくても良い時間を事前に設定することで、メンバーが長期的に留まる率が40%から58%に上昇することが分かりました。eメールによって苦しんでいる人は沢山います。全世界に 2 億 3000 万人の知識労働者がいますが、その内の 3 分の 1 以上は米国にいます。知識労働者の1人1人が受信メールのやり取りや処理に苦しんでいるとするなら、膨大な人数ですから、それが積み上がればストレスによる経済的損失は莫大なものになるでしょう。実利的な観点で見ても、その損失は看過することは できません。なんとかストレスを緩和する方法を見つけ出すべきです。
 eメールにイライラさせられることの影響は大きいにもかかわらず、これまでそのイライラを解消するための研究はほとんど為されてきませんでした。これは驚くべきことです。多くの企業や職場で、eメールによってもたらされる精神的にストレスは、受信メールの処理する要領が悪いことや、精神的に弱いことが原因だとされてきました。しかし、私は確信しているのですが、eメールを使うということは精神的なストレスを引き起こすのですが、そろそろどのようなメカニズムで精神が蝕まれるかということと、対処法についての真剣な研究が為されるべき時だと思います。