なぜeメールは私たちを惨めな気持ちにさせる?他者との繋がりを切ってはいけないという不安感が原因?

③eメールがもたらす弊害への対応策はあるの?

 書き言葉による他者との交流の欠点を認識することでストレスを軽減できるかもしれません。そうした研究があちこちで行われていますので、いずれストレスの少ない働き方にするにはどうすればよいのかということが明らかになるかもしれません。ここ数年、私はプロジェクト管理システムの導入を推奨してきました。それを使えば、各人がどんなタスクに取り組んでいて、そのタスクがどこまで進んでいるかが一目でわかるようになります。そうしたシステムに加えて、部署内で確認のために定期的に短時間のミーティングを行うことで、部署内でのメールのやり取りを大幅に減らすことができます。eメールのやり取りを何回もする方が簡単で誰でも出来ることなので、そうしたシステムを導入することは効果が無いと思われがちです。しかし、多くの人がeメールの受信トレイにメールが溜ってしまって悲惨な心理状態にある点を考慮すると、プロジェクト共有システムと短時間のミーティングを組み合わせる方法は理にかなっているのではないでしょうか。
 スピードや利便性を優先するのではなく、コミュニケーションの不具合を最小化する方法を優先して検討すると、他にもよい方策が沢山あるのではないでしょうか。たとえば、ソフトウェア開発会社のBasecamp(以下、ベースキャンプ社)は、ほとんどの従業員がリモートワークを続けていますが、ルールがあって、社内の特定の分野の専門家に技術的な相談をしたい場合には、すぐにeメールを送信することは許されておらず、その専門家が次に出勤状態になるまで待たなければなりません。2018 年に出版されたベースキャンプ社の職場環境に関する本の中で、共同創始者(デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンとジェイソン・フリード)が記していましたが、そうしたルールを導入すると専門家に質問するのを待たなければならない従業員がイライラしてしまうのではないかということを心配していました。どう考えたって、思い立ったらすぐにeメールを送信する旧来のやり方の方が楽に思えたからです。しかし、それは杞憂でした。eメールをすぐに送信しないことで従業員にストレスが溜まることはなかったのです。一方で社内専門家は四六時中eメールの着信が届く状態から解放され、彼らの効率が大きく改善できたのです。 
 私が見てきた中でユニークな取り組みは他にもありました。従業員1人1人にeメールアドレスを割り当てるという旧来からのやり方を変えるという手法が上手くいっているのを見たことがあります。そこでは、eメールアドレスは顧客企業ごとに払いだされたり、特定分野ごとに払い出され、複数の従業員が関わってそのeメールアドレスを管理していました。その手法を導入すれば、対処が必要なメールを無視してしまうのではないかという不安に苛まれることを排除することができます。
 新たなテクノロジーが表面的には便利さをもたらすように見えても、人間の根本的な性質とうまく調和していない場合には、導入しても悲惨な結果になるという教訓的な逸話は歴史を遡るといくらでもあります。eメールはそうしたものの最たるものの1つです。eメールは確かに便利で、即座に他者と連絡を取り合うことができます。他者と会って話すよりハードルは低く、コストもほとんどかかりません。しかし、人間はネットワーク ルーターとは違うのです。寝ている時以外はいつでもメールを送受信できるわけですが、そんなことを続けていくべきなのでしょうか?素晴らしいテクノロジーというのは、人々のイライラを解消して幸福度が増すようなもので、それを導入することで意図した効果が期待できるものです。今さら、eメールの利用を一切やめてしまうことなどできないでしょうが、今のままの利用方法では間違いなく人々は悲惨な状況にさせられ続けるでしょう。

以上