シリコンバレーで大人気!eスクーターがようやくニューヨーク到着!

3.シェアリングサービス提供企業によるデモンストレーション実施

2021年1月までに、ニューヨークのスクーターのシェアリング実験導入への参加申し込む意思を示す企業は7社に絞られました。その7社はブルックリン海軍工廠へ極寒の日に招待されて、市運輸局の幹部を前にしてデモンストレーションやプレゼンを実施しました。
 リンク社もデモンストレーションに参加していました。リンク社の親会社スーパーペデストリアン社の政策担当役員ポール・スティーリー・ホワイトは、極寒の吹きさらしの舗装道路で他社が並べていた電動立ち乗りスクーターをちらっと見ながら、少し弱気になっていました。
 バード社とライム社の電動キックスクーターも海軍工廠にありました。他に参加していた企業は、フォードに買収されたスピン社、スウェーデンのVoi(以下、ヴォイ社)、英国のBeryl(以下、ベラル社)、シカゴのスタートアップ企業Veo(以下、ヴェオ社)でした。ヴォイ社は、既にヨーロッパの各都市でシェアリングサービスを提供している実績がありました。ヨーロッパでは自転車に優しいインフラが整備されている都市も沢山あり、そうした都市では電動キックスクーターはニューヨークと違ってすんなり受け入れられていました。
 ホワイトは、スーパーペデストリアン社(子会社のリンク社)は2020年9月に行われたシアトルでの入札では、バード社に勝った実績があると言っていました。その時は3社が選ばれて、他の2社は、ライム社とカリフォルニアのハイブリッドスクーターを製造しているWheels(以下、ホイールズ社)でした。ホワイトは、その時のバード社の敗因は2つ有ったと分析しています。過去にスクーターが壊されたり盗難されたり廃棄されたり放置された事実があることと、ギグワーカーを沢山雇っていたことです。それに対して、ライム社は、サービスを提供した21都市全てで事業を継続出来ていますし、ギグワーカーは一切雇っていませんでした。ホワイトは、ニューヨーク市はギグワーカーを禁止しているので、今回の業者選定でもライム社はバード社よりは有利であると推測していました。バード社とライム社はいずれも、事業を開始した当初は沢山のスクーターが壊されるなどの事例があったものの、最近ではそういった問題は起きておらず、各都市で事業を継続している点を強調していました。バード社の最新スクーター「バード・ツー(Bird Two)」は、以前のスクーターに比べると大幅に壊されにくくなっています。車両の問題を通知する損傷センサーが搭載され、パンク防止タイヤやOSの暗号化が採用され、ネジの露出も最低限で盗難やいたずらを防いでいます。ライム社も同様の対応をしています。
 シェアリングのスクーターを使う為にはロックの解除が必要で、スマートフォンにアプリをダウンロードする必要があります。料金は通常、解錠に1ドルかかり、それ以降は1分あたり25セントです。これにより、短時間の利用では経済的と言えますが、余暇であちこち回るとなると高額になることもあります。スクーターや自転車のシェアリングサービスを利用する際には、利用者の移動経路、移動速度、運転スタイル、立ち寄り場所の情報が事業者に提供されます。各都市は、シェアリングサービスを提供する事業者にそれらのデータを活用することを許可しています。それらのデータは、集約して秘匿化して活用されています。そうした情報は、地下鉄やバスの乗客から
収集できるデータよりもはるかに詳細です。実際、ダブリン市がSee.Sense社に委託して調査を実施したことがあります。See.Sense社は、自転車にセンサーを取り付けての分析を得意としています。その分析によれば、女性は男性より角を曲がる時、大回りになるということでした。女性の方が道路の縁側を通るからでした。See.Sense社の分析担当アイリーン・マッカリースが言うには、女性は少しでも安全に走行したいために縁の方を通っているので、もっと自転車等が安心して走行できるようにインフラを整備するべきだということでした。
 ホワイト(50歳)とスーパーペデストリアン社の同僚のグラハム・ガランス(36歳)は、寒かったので厚手のグローブを付けるなど重装備でフェイスマスクを被って目だけ出ていました。市運輸局の面々に対して、リンク社の黄色いスクーターのデモンストレーションを行いました。2人が特に説明したのは、リンク社の”geofencing(ジオフェンシング)”というテクノロジーについて重点的に説明しました。それは、位置情報を使った仕組みの一つで、GPSやWi-Fiなどを使用し、特定の場所やその周辺に仮想的な境界(ジオフェンス)を設け、対象がその境界内に入ったとき、又は境界から出た時に、アプリやソフトウェアで所定のアクションを実行することです。リンク社は、自社の沢山のスクーターから収集するデータも活用していました。その技術によって、eスクーターが歩道や進入禁止エリアに入りそうになると自動的に動力が落ちるようになっています。また、その技術によって、利用者に指定された場所にスクーターを返すように要求するので、歩道にスクータが乱雑に散らばるという事態も回避できます。以前のようにスクーターが川に投げ込まれる心配も無くなります。
 ニューヨークの実験導入の選定対象で残っていた7社は、いずれもジオフェンシングのような技術を採用していました。しかし、各社のシステムは全く同じではなく、それぞれ特色がありました。他社はクラウドコンピューティングを活用していまたが、スクーターが境界に差し掛かっても認識するのに最大30秒の遅延が発生する可能性がありました。リンク社の方式は、スクーターに組み込まれている3つのマイクロコンピューターですべての位置を把握し境界等を認識していました。ですので、リンク社のジオフェンシングシステムは遅延が発生せず、その点では優れていました。
 カランスは海軍工廠でのデモンストレーションで、リンク社のスクーターがパイロンで区画したエリアに近づくとジオフェンシング技術によって止まるのを上手く実演できたので感激したと言っていました。彼は、もっと暖かい時期に温かい場所でデモンストレーションすべきだったと言っていました。酷寒のニューヨークでスクーターに乗るという行為は、スクーターは寒い日の移動手段には向いていないことを証明するものでしかありません。スクーターに乗る時は手をポケットから出さなくてはなりませんし、風に逆らって進まなければなりませんでした。寒い日にラストマイルの問題を解決する手段は、どう考えても徒歩しかありません。何といったって無料ですからね。
 ホワイトは私に言いました、「それでも、私たち2人はクソ寒い中で一生懸命デモンストレーションを頑張りました。まあ、弱者が強者に勝つためには頑張るしかありませんからね」と。