シリコンバレーで大人気!eスクーターがようやくニューヨーク到着!

8.ニューヨーク eスクーターの納入業者決定

パンデミックの影響で、世界中の都市交通システムは大きく様変わりしています。パリの市長アンヌ・イダルゴは、パンデミックは良い機会だと捉えて、自身が掲げるラ・ヴィル・デュ・カルト・デュール(自転車で15分の街の意)という構想を前倒しで実行しました。それは、誰もが車無しでも15分で仕事、学校、買い物、公園等あらゆる街の機能にアクセスできる都市を目指すというものでした。Googleマップなどのアプリを使うと、既にいくつもの移動手段が表示されるようになっています。自動車での移動、公共交通機関での移動、自転車での移動、徒歩等の経路と時間が示されます(いずれ電動キックスターターでの経路も表示されるようになるでしょう)。アプリによって、移動の目的に応じてた最適なルートを選択することが出来ますし、途中でルートを変更することも容易に出来ます。
 イダルゴは、2016年にセーヌ川右岸やリヴォリ通りの自動車の通行を禁止しました。また、パリで最も人通りの多いシャンゼリゼ通りでの自動車の使用を制限していました。2020年5月から、数百キロメートルに及ぶ通称コロナ・ピスト(コロナのレーン)という仮設仕様の自転車専用レーンを備しました。整備は突貫工事的に迅速に進められました。現在それを使っている人たちの半数以上は、それまで自転車やスクーターを使っていませんでした。パンデミックが始まってから、ロンドン市長サディク・カーンは約200マイル(320キロ)の自転車専用レーンを追加整備しています。ロンドンの自転車利用者数は200%増となりました。
  都市部での移動手段の専門家デビッド・ジッパーは、パリやロンドンの事例はニューヨークの交通手段の改革時の参考になると私に言いました。彼は、現在のパンデミックの状況は、改革を進めるための千載一遇のチャンスであり、これを逃してしまったら改革はとん挫するだろうと言っていました。
 ニューヨーク市では、先日、デブラシオ市長がブルックリン橋に新たに自転車専用レーンを設置すると発表しました。車線の一部を自転車専用レーンに変える形です。また、クイーンズボロ橋は、北側にある外側の道路を片側1車線の自転車専用レーンとし、南側の道路に歩行者専用道路を設けることも発表しました。しかし、最近オープンしたペン・ステーションの新駅舎ダニエル・パトリック・モイニハン・トレイン・ホールに16億ドルもの資金が投じられてのを見ると、ニューヨーク市運輸局や都市計画立案者には都市部の交通手段の多様化にはあまり熱心ではないように思えます。その新駅舎にはシティ・バイク社の自転車置き場以外に自転車を置くスペースは全くありません。ニューヨーク市運輸局の新総裁ハンク・ガットマンは、市内に自転車用の駐車ラックを1万台分増やすことを約束しました。
 11月に開催された民主党の市長選立候補者を選ぶための討論会では、市内の交通手段、公共交通政策が議題でした。8人の候補者が参加しましたが、2024年までに交通事故関連の死者をゼロにするという「ビジョン・ゼロ」の目標をどうやって実現していくかということに関して議論が盛り上がりました。バス専用レーンを増やすとか、地下鉄駅に配置する警察官の人数を増やすなどの意見が出ました。自転車の利用を促進するためのインフラ整備が一瞬だけ話題になりました。しかし、電動キックスターターについては全く話題になりませんでした。8人の内の1人、2020年の大統領民主党予備選の候補者であったアンドリュー・ヤンは、市長に選出されたら、市役所まで自転車で通うと公約しました。しかし、電話をかける必要がある場合には公用車に乗って通うかもしれないと言いました。
 パンデミックが発生する前から、ニューヨーク市では、自転車を利用する人が増えていました。そういった人たちの多くは、公共交通機関の利用や歩く代わりに自転車を使うようになったのです。しかし、自動車での移動を自転車での移動に切り替えた人はほとんどいません。そうした事実はニューヨーク市運輸局も認識しています。パリとロンドンでは自転車等の利用者が増えたことで、地下鉄の収支が悪化しています。パンデミックが終息したら、ニューヨーク市は2つの課題に取り組まなければなりません。1つは、自転車専用レーンを整備する等自転車やスクーターに乗る人が安心して乗れる環境を作ることです。ニューヨーク市では2019年に29名が自転車に乗っていて車やトラックとの事故で亡くなり、過去20年間で最悪となりました。もう1つは、すっかり陳腐化しつつある公共交通機関をより快適に使えるように更新していくことです。というのは、自転車やスクーターを使おうと思わない人も沢山いますし、そもそもそれらを乗りこなす能力が無い人も沢山いるからです。
 会社に通勤する人の数や買物に出かける人の数が回復基調にありますが、電車やバスに乗ったり、近所の人と車に相乗りして会社に行くという行為を忌避している人も多いようです。ですので、そういった人たちは、2輪の自転車やスクーターよりも自動車にシフトしているようです。ニューヨーク市の地下鉄の利用者数は、今でもパンデミック前の35%程です。バスも50%ほどです。しかし、大きな橋の通行量や高速道路の通行量を分析して分かったのですが、市内の主要道路の自動車通行量は既にパンデミック前と同等レベルまで回復しています。ニューヨークで長年に渡って交通機関の研究をしているサム・シュワルツには、何も対策が為されなければ2021年の秋にはニューヨーク市内の道路は悲惨な状況に陥るだろうと指摘します。それを避けるためには、自動車の利用を控えさせるような対策を実施する必要があります。
 シュワルツが言うには、もし、現在リモートワークしている労働者の75%がマンハッタンのミッドタウンのオフィスに再び通うようになったら、そうした人の20%は公共交通機関を使いたがらないでしょうから、自動車で通勤するでしょう。そうすると、マンハッタンのミッドタウンのビジネス街に向かうと自動車の数は2018年より20万9千台増えるでしょう。2018年はマンハッタンはもっとも渋滞の激しい年でした。その当時には、ミッドタウンでは自動車は1時間で5マイル(8キロ)しか進めませんでした。(そうした状況が回避されなければ、これまでも度々話題になったイーストリバーを渡って60番街からマンハッタンに乗入れる車両に対する”congestion prising(混雑課金制度)”の導入は不可避です。)ニューヨーク都市圏交通公社は追加で資金が提供されない限り、収入減を補うべく地下鉄とバスの便数を減らさざるを得ないでしょう。ニューヨークは、パリが目指すような職場にも買物にも15分で行ける街にはほど遠い状況です。現状では90分かかる街です。