深刻化する宇宙ごみ問題!スペースデブリ対策はどこまで進んでる?現状と今後の課題

8.2018年6月 サリー宇宙センター 宇宙空間でのデブリ除去実験成功!

2018年の夏の間、リムーブ・デブリスは地球周回軌道上を浮遊していました。サリー宇宙センターの研究チームは、すべてのシステムが確実に稼働出来るようにするため作業をしていました。9月になって、研究チームは、リムーブ・デブリスの的となるキューブサット1個を放出し、それに向けて網を発射するよう指令を出しました。その指令の送信はリムーブ・デブリスが英国上空を通過する際に行われました。実験は地球の影に入らず明るい時に実施するため、アジアの上空にある時に行う予定でした。フェローズは何度も携帯電話をチェックしながら、落ち着きのない夜を過ごしました。第18宇宙管制隊は注意深く監視を続けていました。午前2時に、携帯にメールが入りました。リムーブ・デブリスから何かが放出されたことが確認できたという連絡でした。デュークは、その時のことをよく覚えていますが、第18宇宙管制隊から聞いたのは、確認できる物体は2つであると言うことでした。そのことが示唆するのは、的となるキューブサットは放出されたものの網は放出されなかったということです。あるいは、網は放出されたが的となるキューブサットは放出されなかったということです。
 午前6時30分、デュークは職場に急行しました。そこでは、フェローズが衛星から送信されてくるデータを精査していました。リムーブ・デブリスは1分程の動画を撮影していました。英国の上空を通過する度にデータが送信されるのですが、1回あたり数コマしか受信できませんでした。音声のない、ぼやけた白黒の映像で、宇宙空間に浮遊する物体を捉えていました。的となるキューブサットはリムーブ・デブリスから放出されました。光を反射しほのかに光るブロックのように見えました。それから、内装されていたいくつものアルミ製のチューブが、圧縮ガスが吹き込まれたことによって外に張り出しました。各チューブの間には帆のようなものが広がりました。そうした変形の目的は、的としてより狙いやすくすることでした。しかし、チューブの1つに穴が有ったことにより、帆は完全な形には開きませんでした。そのため、不規則に回転し始めました。デュークや他の研究員たちは映像に見入っていました。デュークは、状況を分析して、図式化したり、グラフや表を作ったり、時系列で記録を残す等の指示を研究員たちに出しました。その時点では、彼らは状況をあまり把握できていませんでした。
 しばらくして、網が発射されました。網のへりに沿ってエアバス社がおもりとして機能する小さなモーターをいくつも取り付けていました。網は放出されると星型に開くようになっており、まるで海底で獲物を襲う銀色のヒトデのように見えました。網はリムーブ・デブリスから離れ、単独で宇宙空間を飛行していました。網はキューブサットに当たると、へりのモーターが起動されてそれを包み込むようにして捕捉しました。2つは一緒になって大きく回転し始めました。送られてくる画像は明瞭とは言えませんでしたが、状況を何とか把握することは可能でした。フェローズは回想して次のように言っていました、「私は興奮していました。それで散歩に行ってコーヒーを飲んで落ち着いた後、それを繰り返し見るだけで1時間経ちました。」と。この実験は非常に低い高度で行われました。網とキューブサットが一体となったものが地球周回軌道上に残ることを絶対に避けたかったからです。一体となったもの(識別番号43621)は、数か月間は軌道上を漂いましたが、その後、大気圏に突入して燃え尽きました。こうして何年もかかった実験は終わりました。
 昨年、サリー大学の研究チームは、リムーブ・デブリスに、的となるパネルに銛を発射する指令を出しました。銛の威力が強すぎたので、パネルは折れてしまいました。しかし、狙ったところに正確に命中していましたし、銛はパネルに刺さったままになっていました。ですので全く破片は飛び散らず、デブリは1個も発生しませんでした。デュークによれば、実験を行う前に研究員たちは、銛を使う方法の方がエンビサットのような大きな物体を捕捉するのに適していると判断していました。銛を使う方法は、標的となる物体を壊してしまう可能性があることが短所でしたが、仕組みが複雑でないというのが長所でした(私は以前エアバス社の研究施設で次世代型の銛を使った実験を見ましたが、クジラを捕らえられるくらい大きな銛を使っていました)。網を使う方法は操作がはるかに複雑でしたが、デュークの見解では、実験が成功したことによって、より魅力的な選択肢に思われました。彼は、これまでの実験を振り返って、どちらの方法が優れているかは現時点では分からないと考えています。まだまだ研究と実験を繰り返さないと実用化は難しいでしょう。