原子力発電所は安全なのか?それほど安全ではなくない?おそらく、原子力発電のシェアは下がっていくでしょう!

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 ウェロックの本では、原子力発電が地球温暖化防止のために本当に必要なものなのかどうかという、より踏み込んだ問題には触れていません。ウェロックがそれに言及しなかったことは理のあることだと思います。彼は、原子力委員会の公式歴史家であったわけですから、それは彼の業務の範疇を超えているからです。しかし、その問題は、多くの人たちが気にかけていたものです。原子力発電の復活を支持する人たちの間では、1970年代から80年代にかけて原子力発電を批判していた人たちが、差し迫った気候変動のリスクを過小評価していたのは重大な誤りだったという主張がなされています。原子力発電を再び普及させようと考えている人は少なくないようですが、そうした人たちは、スリーマイル島原発事故後に導入された安全規制が行き過ぎだったのではないかという主張をしています。また、そうした厳しい規制によるコスト増で原発建設の減少につながったのではないかといった主張もしてています。

 当時、私はその問題について研究したり記事を書いていました。ですので、当時の状況については正しく認識しています。どういった状況だったかというと、私は、原子力発電所のリスクについて研究していたのですが、その研究は1970年にハーバード大学のプロジェクトとして行ったものでしたが、地球温暖化の問題を決して過小評価していたたわけではありません。むしろ、化石燃料を燃やすことによる大気汚染や地球温暖化の脅威を十分に認識していました。原子力発電のリスクを研究しだしたのは、気球温暖化の問題に対処するために電力源としてそれが最適ではないかと思ったからでした。私はヘンリー・ケンドール(Henry Kendall )とたくさんの論文を書きました。私たちは、化石燃料を燃やし続けることによるリスクと、原子力発電のリスクを比較分析しました。もちろん、必ずしも公共政策が費用と便益を注意深く比較検討した上で決められるわけではありません。政府によって何か政策が決められる際には、少なからず企業等によるロビー活動の影響を受けます。対照的に、一般市民や独立した専門家の意見は全く影響を与えません。そうして、原子力発電所建設が推進されたのです。しかし、その推進もやがて頓挫しました。経済的側面によって、ブレーキがかかったのです。つまるところ、原子力発電所建設の推進が滞ったのは、経済的にペイしないことが原因だったのです。リスクを指摘した専門家や環境活動家の影響を受けたわけではなかったのです。結局、原子力発電所の建設と運転にかかる費用を、電力会社が負担できなくなっただけのことなのです。費用が消費者から得られる収入よりもはるかに大きくなっただけなのです。

 1970年代になると、コン・エド社などは、原子力発電所を作っても儲からないということを認識するようになりました。原子力発電所を建設することは、苦しみしかもたらさなくなりました。原子力発電所の設計が完成しないまま建設に着手することが多かったため、コストが大幅に超過し、工期も遅延しました。その代償は決して小さくありませんでした。発電所を建設する業者も特にスキルが高かったわけではないので、工事のやり直しが多々発生しました。実は、アメリカの原子力発電業界が事実上立ち行かなくなってしまったのは、1974年の夏のことでした。当時は金利が2ケタに近づいていたので、電力会社はこぞって原子力発電所建設の発注を止めました。契約済みで着工前のものも全てキャンセルされました。さらに建設中の原子力発電所さえも白紙に戻されました。その結果、多くの電力会社で多額の損失が発生し、総額は数千億ドルにおよびました。原子力発電業界では、前例のない規模で連鎖倒産が起きました。その後34年間、アメリカでは新規の原子力発電所の建設は行われませんでした。

 ここ数十年間では、原子力発電所の建設が行われた件数はごくわずかです。数少ない中の1つであるジョージア州のボグル原子力発電所のように、数十億ドル規模の損失が出たところもありした。国際原子力機関(IAEA)は、世界中の原子力発電所を調査しデータを公表していました。そのデータによると、原子力発電は絶望的な状況にあるようでした。そもそもコストコントロールが上手くできていなかった原子力発電所で十分な利益が出るはずはなかったのです。先日、国際原子力機関が論文を公表したのですが、それによれば2050年には原子力発電が電力に占める割合は信じられないほど低くなるそうです。世界規模で見た場合には、原子力発電所が全電力に占める割合は一桁台まで落ち込む可能性が高いと予測されています。一方、発電単価が低いとされる風力発電や太陽光発電の技術革新が着実に行われています。

 原子力発電所に関する研究が何十年も続けられていて、それで明らかになったのは、潜在的な危険をはらんでいる施設を安全に運転させることは容易ではないということです。費用が掛かりすぎて利益が出ないことも明らかになりました。そうした状況が続いていますし、急には変わらないでしょう。ロシアのウクライナ侵攻の余波で、ロシアの天然ガスの供給量が減少するという事態に直面しているヨーロッパの電力会社は、ヨーロッパで最大の発電量を誇るフランスの原子力発電所から電力が融通されることを神頼み的に期待していました。しかし、どうも期待通りにはならないようです。というのは、先日、フランスの多数の原子力発電所で相次いで冷却システム内の配管で応力腐食によるクラックが発見されたからです。12基の原子炉が停止中となっています。それらの修理にどれだけの時間がかかるかは誰にも分かりません。何年もかかる可能性もあります。一方、この夏にはヨーロッパを猛暑と干ばつが襲いましたが、その影響で河川の水量が十分ではなくなったために、冷却材が不足するという理由で稼働を止めなければならない原子炉もいくつかありました。そのため、事実上、フランスの原子力発電所の能力は半分ほどしか発揮できていません。原子力発電が最も必要とされる時に、その機能が失われているという事実は、原子力発電は世界のエネルギー安全保障のキーではないことを暗示しているようです。♦

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