Jerome Powell and the Fed Are Still Struggling to Understand a Crazy Economy Hit by the Pandemic and War
ジェローム・パウエル率いるFRBは、今後の景気を予測するのに苦戦しています。新型コロナとウクライナ紛争の影響を正確に予測することは不可能?
The models that economists have long relied on to analyze inflation have broken down since the coronavirus pandemic began.
新型コロナのパンデミックが始まって以降は、インフレ分析の際に長年頼ってきた経済モデル、とりわけ高インフレと低失業率を結びつけるフィリップス曲線を、判断の根幹に据えることができなくなった。
By John Cassidy July 25, 2022
現在、インフレが収束するか否かということに注目が集まっています。今週は、さまざまな指標の発表が目白押しです。火曜日と水曜日には、パウエル議長率いる米連邦準備制度理事会(FRB)が2日間にわたって金融政策決定会合を開きます。FFレートを0.75ポイント引き上げると予想されています。木曜日には、商務省が4月から6月の3ヶ月間のGDPの速報値を発表します。多くのエコノミストは、インフレ調整後の成長率が年率換算で0%から1%の範囲で、かろうじてプラスになると予想しています。アトランタ連銀が発表したGDPNow(アトランタ連銀が商務省の発表前に出しているGDP成長率の推定値)の数値は、さまざまな経済データを織り込んだものですが、マイナス1.6%の成長率となっています。つまり、マイナス成長に転じたと予測しています。
仮にGDP成長率がマイナスとなれば、2四半期連続のマイナスとなり、報道各社は景気後退に陥ったという見出しのニュースを散々流すに違いありません。アメリカにおいては、一般的にはGNPが2四半期連続してマイナスになると景気後退に陥ったと定義されるわけですが、そのような見出しは、誤解を招きかねません。パウエル議長やFRBの理事たちも、私たちのような経済の専門家でない者と同様に、新型コロナパンデミックとロシアとウクライナの紛争の影響を丸被りの異常な状態の経済を理解するのに悪戦苦闘しています。さまざまな経済指標を見ると、景気の強さを示す兆候も、逆に弱さを示す兆候も見られ、理解するのは容易ではありません。労働省によると、6月の雇用者数は372万人で、市場予想を上回りました。また、小売支出も市場予想を上回りました。しかしながら、第2四半期のGDPはマイナスになったようです。でも、そうなったのは、新型コロナパンデミックに起因する企業在庫(企業が製造したがまだ販売していないもの)の異常な増減の影響が大きかったのです。ですので、次の四半期でプラスに転じる可能性は低くありません。しかし、そうした要因をすべて考慮しても、今年に入ってから景気が著しく減速していることも事実です。それを踏まえて今後を予測すると景気後退に陥る可能性も十分にあります。では、なぜFRBは、景気後退の可能性が見受けられる状況であるのに金利を上げようとしているのでしょうか?どうして、金利を上げて景気を悪化させるような政策をとろうとしているのでしょうか?
もちろん、その理由はインフレにあります。6月のインフレ率は9.1%まで上昇し、過去40年で最も高い数値となりました。昨年から始まった世界的な物価の高騰を予測できなかったため、世界中の中央銀行が競うようにして金利を大幅に引き上げています。先月、FRBはFFレートを0.75ポイント引き上げました。今月初めには、カナダ中銀が、政策金利を1.0ポイント引き上げました。先週は、欧州中央銀行(ECB)が0.5ポイントの引き上げを実施していました。
インフレが既にピークに達したかもしれないという兆候があるにもかかわらず、各国の中銀が利上げを行いました。この1ヶ月で、原油価格は、ロシアがウクライナに侵攻する直前とほぼ同じレベルまで下落しました。ガソリン価格も大きく下がっています。AAA(アメリカ自動車協会)の調査によると、6月にはアメリカのガソリンの平均価格が初めて1ガロン5ドルを上回りました。しかし、現在は、4.35ドルまで下がっています。
今週、金融政策決定会合に臨むパウエル議長は、そうした兆候を好ましいものだと思っているようで、軌道修正には時期尚早だと判断していて、これまで通り利上げを実施すると予測されています。最近の原油価格の下落にもかかわらず、パウエル議長はインフレが制御不能になることを極度に恐れています。そうした懸念は、他の国の中銀のトップが共通して抱いているものです。そもそも、FRBやECB(欧州中央銀行)のような独立した中銀が設立された目的は、そうした事態に陥ることを防ぐことにあります。バーゼルにある国際決済銀行(Bank for International Settlements)は中央銀行のための中央銀行のような存在ですが、先月、6月26日に公表した年次経済報告書の中で「インフレ心理が広がているが、それが定着する転換点に至る可能性がある。」と言及し、警告を発していました。パウエル議長は、このメッセージを受けて、インフレ率が長期にわたって顕著に低下するまで利上げを続けることを決意したようです。彼は、数週間前にポルトガルで開催されたEBCの討論会で、「リスクは、消費者の物価上昇期待をあおる持続的な高インフレとなることです。高インフレに対処できず、持続を許してしまうことが最悪の痛みになる。」と警告しました。
FRB議長はそのようなタカ派的な発言をしていたわけですが、同時に、景気後退は避けられないわけではないとも主張していました。先月の金融政策決定会合後の記者会見で、彼は、アメリカ経済は 「非常に力強く、金融引き締め政策に対応できる状態にある 」と述べていました。しかし、FRBや他の国の中央銀行は、昨年のインフレ率の急上昇を予測できませんでした。非常にお粗末でした。そのお粗末ぶりを目にした後ですから、FRB等が現時点で今後の見通しを語っても全く信用できません。どこをどう信用したら良いのでしょうか?正直なところ、信用できるところなど全く無いのです。
パウエルの名誉の為に言及したいのですが、FRBが中央銀行として直面している課題が非常に困難であることを公に認めたことは非常に評価できます。ポルトガルで開催された討論会で、パウエルが指摘していたのは、インフレ分析の際に長年頼ってきた経済モデル、とりわけ高インフレと低失業率を結びつけるフィリップス曲線が、新型コロナウイルスの流行が始まって以降は、判断の根幹に据えることができなくなったということでした。パウエルは言いました、「我々は今、インフレについていかに理解していないかをよく理解していると思う。」と。
残念ながら、理解できていないのは、インフレのことだけではありません。6月のFRBの議事録を見ると、FRBの幹部は景気後退に陥る危険性がどれくらいあるか測りかねていたようです。議事録には記されていました、「参加者の多くが、今後2年間の経済成長についての不確実性が高まっていると判断している。参加者2名が、最近、国内総生産(gross domestic product)と国内総所得(gross domestic income)が経済成長率に関して相反するシグナルを発しており、景気判断をするのが難しい状況にあると指摘した。」と。それはFRB特有の言い回しです。おそらく、「今、我々は行き詰っている。」と言いたかったのだと思われます。
このような混乱と不確実性に直面し、パウエル議長らFRGの幹部たちは、9月後半まで次の金融政策決定会合の開催が無いことに安堵していることでしょう。9月後半の時点になれば、インフレ率がどうなったかということと、経済成長がプラスになったのかマイナスになったのかということが明らかになります。おそらく、FRBの幹部たちは、早くその結果を知りたいと思っているでしょう。というのは、利上げのスピードを緩めるか、あるいは利上げ自体を止めるのか決断を下さなければならないからです。過去2年半に起こったことを振り返ると、FRBは予想を外し続けてきたわけですから、予想と全く異なった状況になる可能性もあるということを認識しておく必要があります。♦
以上
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