Dept. of Science April 5, 2021 Issue
Why Animals Don’t Get Lost
動物が迷子にならない理由
Birds do it. Bees do it. Learning about the astounding navigational feats of wild creatures can teach us a lot about where we’re going.
鳥にもミツバチにも備わっている能力、野生生物が道に迷わない能力には驚かされます。その能力を研究することは、人間のそうした能力についての理解にも役立ちます。
By Kathryn Schulz March 29, 2021
動物が持っている驚異的な能力 – ナビゲーション能力
私が今までに目撃した中で最も驚くべきことの1つは、ビリーという名のあまり人になついていなかった猫のことです。数年前、私がハドソン・バレーの小さな借家に引っ越して直ぐのことでした。ビリーは大柄で、気性が荒く、歳を取ったオス猫で、その借家を私が移り住むまで借りていたフィルという男性に飼われていました。フィルはその猫に随分と愛情を注いでいたようですが、その猫は人間に心を開くようなことは無かったようです。残念ながら、人間の愛情が猫には届かなかったということです。
フィルがその借家を引き払った日、彼は暴れるビリーを猫を運ぶケージに押し込み、そのケージをトラックの荷室に積み込んでから、引っ越し先のブルックリンのマンションへ向かいました。暴風雨の降り注ぐ中、州間高速道84号線を30分ほど南下した辺りで、ビリーがどういうわけかケージから抜け出したようでした。フィルは車を路肩に停めました。運転席から猫をおだててケージに戻すことが不可能なことが明白でしたので、彼は車を降りてトラックの後ろに回って、荷台のドアを5センチほど開けました。隙を見逃さず、ビリーは飛び出して、時速110キロで車が引っ切り無しに通る2車線を無傷で横切って、広くて草木の生い茂った中央分離帯に消えました。降り注ぐ雨の中で1時間ほどフィルも中央分離帯へ渡ろうとしましたが、渡れませんでした。フィルはビリーを見つけるのを諦め、悲嘆に暮れながら、新しい住み家に向かいました。
その数週間後のある日、朝の7時ちょっと前、私はドアを叩く音で目が覚めました。何かあったのかと思い、私は階下に急ぎました。その借家には見晴し窓があっって、庭全体を見渡すことが出来たのですが、外には誰もいないようでした。おかしいなと思いながら、寝ぼけ眼でしばらく立っていたところ、猫が後ろ脚を伸ばして立ち上がって私の視界に入ってきました。非常に痩せた薄汚れた灰色の猫でした。
私はぽかんと大口を開けていました。それから、私はドアを開けて猫に通じるわけがないのに問いかけました、「きみ、ビリー?」と。彼は歩き回り、取り乱したように、ドアに向かってニャーと鳴きました。私は台所へ行って、食べ物と水を入れたボウルを取ってきましたが、ビリーはそれには見向きもしませず、再びドアを叩きました。どうしてよいか分からなかったので、私はその猫の写真を撮り、それを大家さんに送信しました。それから、テキストメッセージで猫にしたのと同じような質問をしました。「これ、ビリー?」
90分後、フィルがやって来て玄関に立っていました。絶え間なく歩き回っていた猫が、フィルを一目見るなり、かつての飼い主の胸の中に凄い勢いで飛びつきました。フィル(身長183センチのいかした感じのバーテンダー)はすぐに泣き出しました。猫は数分間は抱かれていましたが、そこから離れて、喉を鳴らして、2時間前に私が出した餌に貪りつきました。それから、ドアのそばの日当たりの良い芝生の上で横になりました。
ビリーがどうやって戻って来たのかは、私だけでなくすべての人にとって謎です。2013年のことですが、ホリーという名の飼い猫が飼い主とデイトナビーチへの行く途中で行方不明になったのですが、2か月後に32キロ離れたウェストパームビーチの家まで帰ってきました。ホリーがどのようにして戻ってきたかは、動物行動学者もそうでない人にとっても謎です。猫、コウモリ、ゾウアザラシ、アカオノスリ、ウシカモシカ、マイマイガ、イカ、粘菌、コウテイペンギン、地球上のすべての動物は、程度の差こそあれ、ナビゲーション能力を有しています。そして、程度の差こそあれ、すべての動物行動学者は動物のそうした能力を解明できずに当惑しています。
私たちは動物が長距離移動することに関して多くの情報が得られる時代に生きているにもかかわらず、どうやって移動しているかは依然として全く謎のままです。300年前には動物が長距離を移動することに関する知識はとても貧弱でした。ある英国の動物行動学者は、コウノトリは月で越冬していると真剣に主張していました。30年前には、地球上で最大の陸生哺乳類であるアフリカゾウの群れが、雨季の度に国立公園から出てどこかに消えてしまうことが確認されていました。しかし、過去数十年の間に、動物を追跡する技術は、人工衛星、定点観測カメラ、ドローン、DNA配列解析などの活用により驚くほど向上しました。現在、オオカバマダラに取り付けられるほど軽量の位置情報を知らせるデバイスも開発されています。また、国際宇宙ステーションに設置されたそれらのデバイスを追跡するためのシステムもあります。そういう時代ですので、動物の長距離移動に関する研究には、何万人ものアマチュアの研究者もスマホやパソコンを駆使して加わっています。彼らが寄せてくる動物の位置情報はそれこそ数十億件単位で膨大です。そうした情報が得られるようになって、少しずつ動物の長距離移動に関する行動が明らかになっています。また、動物のナビゲーション能力に関して多くの本が出版されています。
それらの本から2つのことが浮かび上がります。じれったいことと、悲しいことです。前者は、動物がどこをどこまで移動しているかがかなり詳細に分かってきたにも関わらず、どのようにして行き先に辿り着いているのかはほとんど分かっていないということです。後者は、地球上で最もナビゲーション能力が低いと認識されている生き物が、他の動物が行かなければならない場所へ辿り着く可能性を確実に押し下げているということです。彼らは、多くの動物が移動するルートに干渉し、ルートを見つける能力を損なわせ、移動する目的地を破壊しています。そう、その無慈悲な生き物とは私たち人間のことです。人間以外の動物が人間にナビゲーション能力の研究という興味深い課題を与えてくれます。人間にはそうした能力はありませんが、代わりにそうした能力を分析することが出来ます。分析することで、人間はナビゲーション能力が無いのをどうやって補ってきたのかとか、どうすべきなのかということも見えてくるでしょう。