イスラエルの苦境! イスラエルはハマスを軍事作戦では圧倒しているが、プロパガンダ合戦では後塵を拝している!

News Desk

The Hamas Propaganda War
ハマスのプロパガンダ合戦

Across the Arab world, the group is successfully selling its narrative of resistance.
ハマスはアラブ世界全体にレジスタンスのナラティブを売り込むことに成功している。

By David D. Kirkpatrick and Adam Rasgon October 30, 2023

1.ハマスのプロパガンダ戦略は巧みで、効果を挙げている

 10月7日の朝、ハマスの戦闘員がガザ郊外のイスラエルの村々で傍若無人の限りを尽くし約1,400人を殺害した。ハマス戦闘員の中に、ホリット(Kibbutz Holit)でユダヤ人の子供たちの動画を撮った者がいた。ある動画では、アディダスのTシャツを着てカラシニコフを担いでいるハマス戦闘員が、肩に乗せた泣いている赤ん坊の背中をなでてあやしていた。他の動画では、別の戦闘員が迷彩服を着て、3歳くらいのイスラエル人の男の子の足に包帯を巻いてから、自分の膝の上に乗せていた。同時に、泣いている赤ん坊が乗ったベビーカーを前後に揺らしていた。それから、男の子の顔がズームアップになった。困惑気味だった。ズーム外から他の戦闘員がカタコトの英語で、「神の名において 」という意味のアラビア語を繰り返すよう指示していた。「ビスミッラーと言え(Say bismillah:”bismillah”はアラーの名のもとにの意)」と戦闘員は言っていた。男の子はつたないヘブライ語のアクセントで指示に従っていた。

 ハマスがこの男の子の動画をテレグラム・チャンネルで公開したのは、攻撃から6日後のことだった。当時、西側のニュースメディアやアラブの主要メディアは、こぞって虐殺された多くのイスラエル市民について報道していて、イスラエル政府高官がハマスをISISになぞらえて非難していた。この動画をハマスが公開したのは、そうした報道によるハマスのイメージ悪化を払拭する狙いがあったのだろう。動画の中のある場面で、覆面をした戦闘員が2人の子供を抱き上げ、カメラに向かって次のように言っている。「私たちは慈悲に満ち溢れている。私たちは、イスラエル人のように子どもを殺したりしない」。(実際には、10月7日には少なくとも6人の子供たちがロケット弾によって死亡している。イスラエルのチャンネル12はハマスによって殺害された少なくとも19人の子どもの名前を挙げている)

 もしハマスに、イスラエルや西側にハマス戦闘員を人道的に見せる意図があったとしたら、この動画は驚くほど逆効果だった。ハマスのプロパガンダ担当者は、ほとんどのシーンで戦闘員の顔をぼかし、声も変えて、人物の特定を避けている。その結果、顔のないうなり声が悪目立ちし、戦闘員はよりおどろおどろしいものに見えてしまっている。子どもたちのすぐ横にカラシニコフを置き、ベビーカーをぞんざいに押す様、イスラム教の祈りを無理やり唱えさせられる子ども、親が近くにおらず怯える子どもたち、それらはハマスの怖さを印象付けるものでしかない。(包帯を巻かれた子とベビーカーの子は兄弟であることが判明している。ネゲヴ(Negev)は3歳、エシェル(Eshel)は生後5カ月である。母親は2人と一緒にいたのだがハマスのロケット弾で死亡した。父親は一緒に居なかった。ハマスは2人をガザに連行したが、しばらくして解放した。)

 パレスチナ寄りの報道メディアの分析を専門とする元イスラエル諜報機関員のマイケル・ミルシテイン(Michael Milshtein)は、子どもにイスラム教の祈りを捧げさせた動画は、ハマスの西側に対する傲慢さを示していると指摘する。彼によると、ハマスは西側諸国の人々は誰もがバカだと思っているという。野蛮なテロリストたちが赤ん坊を抱いてあやしている動画を見せれば、西側諸国の人々がハマスの戦闘員が実は優しい人だと信じると考えており、西側の人々は簡単に騙せると考えているという。多くのイスラエル人は、10月7日の攻撃に対する自国政府の脆弱さは、ハマスに対する深い理解の欠如を示していると理解している。ミルシテインは、ハマスが例の動画を公開したことで、ハマスがイスラエルと西側諸国の人々のことをほとんど理解していないことが分かったという。イスラエルもアラブの人々を全く理解していないわけで、どちらも全く相手を理解していない。

 しかし、例の動画は、パレスチナ人やアラブ人の視聴者にとっては、それなりに響くものであった。そのことは、ハマスにとっては非常に重要なことである。その点において、例の動画は立派に目的を果たしている。アル・ジャジーラ(Al Jazeera)のエジプト向けフェイスブックページにも投稿され、140万回以上も閲覧された。7万5千人近くの視聴者が「いいね!」を押している。3千人近くがコメントを残したており、その多くは賞賛するものである。イスラム抵抗勢力の闘志たちの道徳心の高さを称賛するものが多かった。

 その3日後、また別のシュールな動画が投稿された。人質の動画で、21歳のミア・セム(Mia Shem)というイスラエル人女性が映っていた。彼女の目は朦朧としていた。彼女は、ハマスが彼女の腕の大怪我に適切に対処してくれたとして謝意を表明していた。しかし、まるでカンペ(cue cards)を読んでいるかのようだった。「彼らは私の怪我の治療をしてくれるし、薬もくれるし、とても良くしてくれる。」と、彼女は言った。セリフの棒読みだった。そもそも誰が彼女に傷を負わせたのかという件には一切言及していなかった。それ以降、ハマスはいくつも動画を投稿している。中には、人質を解放して引き渡している場面も複数ある。その中には、高齢のユダヤ系イスラエル人男性の動画もあった。その男性は、解放してくれたハマスの戦士に感謝の意を表すべく会釈していた。

 これらの動画による宣伝工作は、西側諸国の人々からすると、ちっとも響くものではないし、悪趣味にしか見えない。しかし、西側諸国が支援するパレスチナ自治政府の元顧問で長年にわたってハマスと敵対してきたガイス・アル・オマリ(Ghaith al-Omari)によれば、このような動画は多くのアラブ人には効果があるという。ハマス戦闘員はISISとは異なり、「人道的で、イスラムの戦争法を尊重している 」と多くのアラブ人が誤って理解する可能性がある。アラブ世界全体が誤って理解する可能性さえある。今や、こうした動画をハマスのメディアだけでなく、ヨルダン、エジプト、北アフリカのほとんどのアラブ世界のメディアが取り上げている。ハマスの流布するナラティブがアラブ世界では繰り返し繰り返し再生されている。恐ろしいもので、どんな間抜けな動画でも繰り返し流されると説得力が生まれる。