イスラエルの苦境! イスラエルはハマスを軍事作戦では圧倒しているが、プロパガンダ合戦では後塵を拝している!

3.ハマスの宣伝工作は、アラブ世界の人々には響いている

 サウジアラビアが多額の出資をするアル・アラビア(Al Arabia)やアラブ首長国連邦が多額の出資をするスカイ・ニュース・アラビア(Sky News Arabia)は、当初、ハマスの喧伝するストーリーを無視していた。というのは、サウジアラビアとアラブ首長国連邦はハマスとそれに同調する勢力を嫌っていたからである。アラブ首長国連邦は2020年にイスラエルと正式な外交関係を結んでいる。サウジアラビアも同様のことを期待しているのは明らかである。当初、アル・アラビヤとスカイ・ニュース・アラビアは、ハマスの攻撃については批判的な報道をしていた。10月8日には、スカイ・ニュース・アラビアの記者ナディーム・コテイチ(Nadim Koteich)は、ハマスの攻撃を2001年9月11日のアルカイダによるアメリカへのテロになぞらえて非難していた。おそらく、イスラエルの報復を正当化する意図があったのだろう。コテイチは、ハマスの攻撃はアラブとイスラエルの和平交渉に水を差すクーデターであると指摘していた。

 しかし、ガザ地区のアラブ人死者数が増え、アラブの世論がハマス寄りに傾きつつある。アル・アラビアとスカイ・ニュース・アラビアはそうした視聴者の感情を無視することができなくなっているように見える。両局のニュースでは、ハマスの攻撃を取り上げることは無くなった。その代わりに、イスラエルのガザ攻撃を取り上げる頻度が増えている。また、両局がアル・ジャジーラの映像を流す頻度も増えている。ガザの惨状やそこで殺された人たちの映像を大々的に流すようになっている。10月26日にアル・アラビヤが流したニュースでは、「ガザ周辺で多くの住民が瓦礫の下に埋まっている、そのほとんどが女性と子供である」と報じていた。その時の映像には、テロップが付いていた。テロップの文言は「ガザ保健省の発表によれば、イスラエル軍による空爆でパレスチナ人481人が死亡した」というもので、それが繰り返し流された。

 アル・アラビアとスカイ・ニュース・アラビアは、パレスチナ人死者に言及する時、比較的中立的である 犠牲者 (victims)という語を好んで使っている。しかし、先日、ガザ南部のカン・ユーニス(Khan Younis)からの中継でアル・アラビヤの記者アフマド・ハーブ(Ahmad Harb)が、11人の死者のことを殉教者(martyrs)と表現した。通常、パレスチナでその語は、戦闘で死亡した人を表すのに使われる。ハーブはスタッフからイヤホン越しに指示を受け、すぐに訂正して、犠牲者 (victims)と言い直した。10月24日に、その場面の動画がアラブ世界の各国のソーシャルメディア上で拡散された。それで、アル・アラビアが現地にいる記者の言動をチェックしているような印象が広まった。現地の記者がハマス寄りの報道をすることを、同局が嫌っているような印象も広まった。

 イスラエルの軍事的優位性は日に日に強まっている。ガザ地区保健省の発表によれば、イスラエル軍の攻撃によって8千人以上が死亡したという。しかしながら、プロパガンダ合戦の勝者はイスラエルではなく、ハマスである。それは、イスラエル側、パレスチナ側、欧米の専門家の分析の一致するところである。

 ヨルダン川西岸のビルジート大学(Birzeit University)の政治学者でパレスチナ自治政府の元高官であるガッサン・カティブ(Ghassan Khatib)は、直近で行った世論調査の結果を発表する予定だと語った。それは、ヨルダン川西岸のパレスチナ人の間でハマス支持が急激に高まっていることを示しているという。「ハマスの人気が高まっているのは、イスラエルの圧政に抵抗しているイメージがあるからであり、イスラエルの残忍な報復のせいでもある。」と彼は言う。アメリカ人とイスラエル人は、現在の戦争が10月7日に始まったと思い込んでいる。しかし、カティブによれば、アラブ人、特にパレスチナ人は、それ以前からずっと、それこそ数十年にわたって土地を奪われて苦しめられていると感じているという。また、パレスチナ人はハマスの攻撃をイスラエルへの報復であると見なしているという。ヨルダン川西岸におけるイスラエルの入植地の拡大やパレスチナ人に対する攻撃の増加などイスラエルの横暴さが数十年にわたって徐々に拡大している。だから、報復するのは当然だという理屈である。彼は指摘した、「パレスチナ人にとって、ハマスがやったことはイスラエルが何年も何年も毎日続けてきたことに対する報復だというメッセージは、筋が通っている。」と。