4.プロパガンダ合戦で後塵を拝したイスラエルは苦境に陥っている
アラブ世界の世論がハマス支持に傾くにつれ、アラブ世界各国の指導者たちはハマスを非難することに消極的になっていった。アラブ連盟(the Arab League)が10月11日に発した声明では、両陣営による民間人の殺害と攻撃を非難していた。イスラエルだけでなく、ハマスも非難していたことは、アラブ世界の多くの人たちを驚かせた。しかし、10月24日開催されたこの紛争に関する国連安保理会合では、この公平さは消え失せていた。アラブ諸国の外相が入れ替わり立ち替わり、イスラエルの空爆で死者が出ていることを非難した。何故か、彼らは全員、この紛争のきっかけとなったハマスの残忍な攻撃については言及しなかった。
先日、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス(Mahmoud Abbas)議長は、ベネズエラ大統領と電話で会談した。同自治政府が運営する通信社がそれを報じた。最初の報道では、アッバス議長がハマスの行動と政策はパレスチナ自治区の住民の声を代表するものではないと述べたと報じられた。しかし、その後すぐに、その通信社のニュースサイトからその報道は削除された。パレスチナ自治政府の幹部に確認したところによると、アッバス議長が削除を要求したのだという。
かつてパレスチナの指導者であった故ヤシール・アラファト(Yassir Arafat)の甥で、パレスチナ自治政府の元外相のナセル・アル=クドワ(Nasser al-Qudwa)は、長年にわたってハマスに非難を浴びせてきた。しかし、私と電話で話をした際に、彼は、もはやハマスを公然と批判することはできないと言った。「現在の状況下では、ハマスを非難する気にはなれない。」と、彼は言った。「ガザの住民の頭上に爆弾が降り注いでいる中で、ハマスを非難する気にはなれない」。
ハマスは自分たちのイメージを広めようとしている。それは、不当な占領に反旗を翻し、果敢に抵抗して決死の覚悟で闘っているというものである。現在、それが、パレスチナ人や他のアラブ人に受け入れられつつある。そのことは、この紛争の解決策を見いだすことをより難しくしている。イスラエルの指導者層は、ハマスを殲滅すると宣言している。しかし、具体的な内容は明らかにしていない。現時点では、イスラエルが攻撃を繰り返すごとにハマスへの支持が増えている。こんな状況下でもイスラエルは攻撃を継続するのだろうか?目標を達成するまで攻撃を継続できるのだろうか?
アラブ世論を研究するメリーランド大学(the University of Maryland)の政治学者シブリー・テルハミ(Shibley Telhami)は、イスラエルとアメリカがハマス殲滅を口にするのは、ハマスの思うつぼだと指摘する。彼によれば、アラブ世界の人々は”ハマス殲滅”と聞くと、ガザ地区の住民が殲滅されるようなイメージを思い浮かべるという。アメリカ政府は、イスラエルの報復を支持している。その指示は揺るぎないものである。しかし、ハマスの宣伝工作が一定の効果を挙げており、アメリカ政府のそうした姿勢に世界中から批判が集まっている。テルハミは言った、「ジョー・バイデンは、イラク戦争時のジョージ・W・ブッシュと同じような状況に陥っている。中東やグローバル・サウスと言われる国々からの賛同を全く得られていない。残念ながら、現在の状況が続く限り、どう足掻いてもそれは不可能である。」と。♦
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