世界中に押し寄せる少子化の波?このままでは子供がいなくなる!

4.子供が減る未来は?

 アメリカの保守派は 「文明の自殺( civilizational suicide ) 」の予兆に夢中になっている。1 年前、5 児の父であるタイムズ( the Times )紙のコラムニスト、ロス・ダウサット( Ross Douthat )は、韓国の事例を記事にしたが、「アメリカでも起こり得ることを示唆する警告」であると記している。アメリカの出生率は、金融危機が発生した 2008 年に低下し始めた。2022 年までに、アメリカは 1980 年代の韓国に追いついた。あるいは、下回ったかもしれない。ダウサットや多くの研究者が、アメリカと韓国には憂慮すべき類似点が多いと指摘する。結婚率が低下し、男女二極化( gender polarization )が進み、若者は生産的なセックスどころか、享楽のためのセックスさえしていない。実力主義のギスギスした社会となり、誰もがスマホの前でダラダラと過ごしている。ダウサットのこの問題に対する考えは、共和党とは違い、慎重である。既にトランプ政権の新運輸長官(訳者注:ショーン・ダフィー)は、同省に「婚姻率と出生率が全国平均より高い地域 」を優先するよう指示を出している。若い右翼活動家チャーリー・カーク( Charlie Kirk )が昨年の夏に「子供のいない人たちこそが国を破壊しているのである」と主張した。

 この主張を真に受けると、リベラル派は共和党と異なり子供が増えず人口が減少する未来を望んでいるように思える。カークの保守的な同胞は、若い進歩的活動家デイヴィッド・ホッグ( David Hogg )を例としてあげ攻撃している。彼はホッグはかつて、子供を持つより「ポルシェを所有し、ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグ( portuguese water dog )とゴールデン・ドゥードル( golden doodle )を飼うほうがずっと良い」とツイートしたことがある。「長期的に見れば、そのほうが安上がりだし、環境にも良い。子供から嫌われるとか、大学の学費を払うよう要求されることもない」。このように多くのリベラル派が、家族を持つ責任が「自己実現( self-actualization )」の足かせであり、それが快楽主義の言い訳になることが多いと考えている。それとは真逆で保守派は、家族の価値観の回復を求めている。TikTok で たくさんの「トラッドワイフ( trad wives ) 」が伝統的価値観への回帰を訴えてトレンドになっている(訳者注:トラッドワイフは、トラディショナル・ワイフ=伝統的な妻の略語)。彼女たちは、コーンフレークを一から作り、夫に牛の乳搾りなどさせない。自称 「家庭内過激派( domestic extremist )」のピーチ・キーナン( Peachy Keenan )が言うように、「パパとママのいる家庭は、文字通り未来を生み出す小さな工場なのである」。また、出生率の低迷について、もっと邪悪な説明をする者もいる。タッカー・カールソン( Tucker Carlson )はアメリカの「テストステロンレベル( collapsing testosterone levels )の急激な低下」についてドキュメンタリーを制作した。また、生卵ナショナリスト( Raw Egg Nationalist )で良く知られる極右インフルエンサーは香水に含まれる内分泌撹乱物質( endocrine disruptors )を非難した。しかし、少子化という流行病が生殖能力の低下によるものであるという証拠はない。そう考えるのは、そう考えた方が楽だからである。鉛の食器を避ける方が、子供を産みたいという社会の願望を再び活性化させるよりも簡単だからである。

 道徳の退廃が原因とする者もいるが、現実のデータと相容れない。2011 年の調査によればアメリカ人の妊娠の 45% は無計画妊娠だった。劇的な減少であったが、主に 10 代の妊娠率が驚くほど低下したことが原因である。一方、新たな潮流となりそうな乳搾りに忙しいトラッドワイフたちが子供をたくさん産んでいるわけでもない。かつては女性の職業的野心は家族の小ささに比例していたが、もはやそうではない。チュニジアやインド南部では、労働市場に占める女性の割合がごくわずかであるが、出生率は置換率を下回っている。最近の調査によれば、女性の就労率が高い国では出生率が上昇傾向にある。アメリカでは、人口統計上のあらゆるグループで出生率の低下がみられる。モルモン教徒の出生率でさえ置換率を下回っている。

 カールソンは、リベラル派は生粋のアメリカ人を移民に置き換えることを計画していると非難している。仮にそれが真実だとしても、最も賢明な戦略とは言えないだろう。多くの調査によって、出生率の高い国から新たに移民してきた人々も、一世代以内にその国の生殖習慣に染まることが明らかになっている。ヒスパニック系女性が、アメリカの近年の出生率低下の大きな部分を占めている。非常に高い出生率を維持しているのは、超正統派ユダヤ教徒( ultra-Orthodox Jews )とアナバプテスト派( Anabaptist )の 2 つのコミュニティだけである。経済学者ロビン・ハンソン( Robin Hanson )の大雑把な計算では、23 世紀のアメリカは 3 億人まで増えたアーミッシュが大多数になるという。グレート・リプレイスメント( Great Replacement )が起こりえるとしても、立派な納屋が点在する田舎ばかりになるだろう。※訳者注:グレート・リプレイスメントとは、エリート層のリプレイシスト (置換主義者) の関与により、白人系のヨーロッパ系住民の出生率の減少し、非白人系、特にイスラム世界からの大規模な移民によって統計的、文化的に置き換えられることである。)

 韓国では少子化問題に関して両極端な意見があり対立している。ハーバード大学を卒業した 39 歳のイ・ジュンソク( Lee Jun-seok )は、J・D・バンスに例えられる人物で、同世代で最も人気のある保守政治家である。私は彼に会った。金曜の夜遅くだった。ビールと焼酎を飲みに行ったが、酔った客たちが入れ代わり立ち代わりやってきて彼に深々と頭を下げたり、自撮り写真を撮ったりした。私たちの会話は 5 分ごとに中断された。2022 年の韓国大統領選で、イは不満を抱く若い男性たちを動員して保守派候補の支持を集め、男女平等政策を司る女性家族部を廃止すると約束した。一部のオブザーバーが「インセル選挙( incel election )」と呼ぶ中での彼の勝利は、昨年のトランプの勝利を予感させるものだった(訳者注:インセルとは、女性蔑視を行うインターネットコミュニティ、もしくは、そのメンバー)。イは語った、「多くの女性は 35 歳になると、すべてを手に入れられると言ったフェミニストたちに騙されたと愚痴をこぼし始める。その時点で同じ社会経済的地位の人と出会うことは文字通り不可能なので、自分を卑下するしかない。今、私たちの半分は未婚で、私もその 1 人である」。私が彼のアメリカ版とも言われている人物について尋ねると、彼は言った。「J・D・バンスは人をステレオタイプ化するような言い方はすべきではなかった。もっとも、現実には子供のいない猫おばさん( childless cat ladies )は、韓国の方がアメリカよりも多い」。(訳者注:バンスは 2024 年の大統領選で「子供のいない猫おばさんたちがみじめな人生を送っている」と発言していた)

 韓国人がなぜ生殖活動をしないのかは、謎である。ある出生促進論者( pro-natalist )が私に語ったのだが、韓国の文化にはすでに「基盤( base )」がある。ポルノグラフィーとセックスワークは違法であるし、中絶が非犯罪化されたのはほんの数年前のことである。韓国で生まれる赤ちゃんの内、婚外子の割合はごくわずかである。韓国人男性は家事をあまりしない。家事をする男性はしばしば「ポンポンナム( pongpongnam )」の烙印を押される。これは、食器用洗剤にちなんだもので「泡だらけの男」という意味である。父親が育児休暇をとることは比較的まれで、育児休暇を取る男性は「ラテパパ( latte papas )」と呼ばれ、まるで休暇中にバカンスに出掛けているような見方をされる。いずれ退職することを見越して、女性には低レベルの専門的タスクが割り当てられることが多い。多くの女性はそれに悩まされている。報道機関「コリア・プロ( Korea Pro )」のキム・ジョンミン( Kim Jeongmin )編集長が私に語ったのだが、「人事面接では、多くの女性がキャリアを重視しているため結婚の予定がないことを示さなければならないというプレッシャーを感じている」。

 人口激減危機の原因は女性にあるという主張が溢れている状況によって、ジェンダー間の摩擦はジェンダー間の戦争にエスカレートした。2016 年、韓国政府は「出産マップ( birth map )」を発表したが、あるブロガーは「彼らは妊娠可能な女性を家畜の数を数えるように数えている」と述べた。保守派の国会議員の 1 人は、女性の骨盤底( pelvic floors )を強化するのに役立つと考えた斬新なダンスの動きを披露するために、ダンサーを募集した。現在、多くの若い女性が「 4B 運動」に耽溺している。4B はいずれも韓国語で「B」で始まる単語で、「結婚しない( bihon )」「子供を産まない( bichulsan )」「恋愛しない( biyeonae )」「セックスしない( bisekseu )」を意味している。男性との友情を育むことを諦める女性も多い。ソウルの著名な女子大 2 年の 19 歳のイェホ( Yeho )は、高校時代の男子クラスメートの日常的な女性蔑視について語った。ポルノ動画で覚えたセリフを習慣的に暗唱したり、違法にポルノミームを流布したりしていた。

 彼女はデートや子供に興味がないという。彼女は私に言った、「子供はうまく育たないかもしれないし、インセルのコミュニティーに入るかもしれない。それに、子供は良い人生に必須の要素ではない」。彼女の母親の世代の女性は、自分たちが期待されていた犠牲を後悔することが多く、キャリアを優先するよう娘を育てた。イェホの大学には、匿名の Reddit のようなフォーラムがある。彼女によると、基本的なルールは「男性や人間関係について良い気持ちになる余地を与えるには、暗い面を無視するか最小限に抑えることである。異性間の恋愛に関する投稿には警告が自動的に発せられる」という。ある女性は「デートについて投稿するのはやめてもらえませんか。それはとても恥ずかしい。あなたの乗るペニスは、まったく特別ではありません、本当に」。