実録!米空軍の無人戦闘機開発はここまで進んだ!んー、こんな現状では実戦投入はまだまだ先になりそう?

Dept. of Technology January 24, 2022 Issue

The Rise of A.I. Fighter Pilots
AI戦闘機パイロットの台頭

Artificial intelligence is being taught to fly warplanes. Can the technology be trusted?
人工知能による自律型戦闘機の開発が進む。人工知能をどこまで信頼して良いの?

By Sue Halpern January 17, 2022

1.米空軍は無人戦闘機の開発を目指している

 昨年5月の雲ひとつない朝、1人のパイロットがナイアガラ・フォールズ国際空港を飛び立って、オンタリオ湖上空の米空軍機以外の飛行制限空域に向かっていました。その飛行機には米空軍の徽章が付いていましたが、チェコスロバキア製のジェット機L-39アルバトロスを民間防衛事業者が購入して改造したものでした。コックピットの前方には、機体の性能を記録するセンサーやコンピューター等が設置されていました。パイロットは2時間、オンタリオ湖の上空周辺を反時計回りに飛行しました。国防総省の研究機関であるDARPA(米国国防省国防高等研究計画局)と契約しているエンジニアたちが地上にいて、その飛行機の針路を決め、旋回させたり挙動を制御していました。それは前例のない試みでした。人間が操縦しなくても飛行し空中戦ができる飛行機を開発していたのです。

 その演習飛行は、DARPAが主導しているACE(Air Combat Evolution)プログラムの一環でしたが、まだ初期段階でした。米国防総省が人工知能を戦争で活用するために進めているプロジェクトは600以上あります。これはその1つでした。今年、米国防総省は人工知能関連技術に10億ドル近くを費やす計画です。米海軍は数ヶ月間海に留まることのできる無人艦を建造中ですし、米陸軍はロボット戦闘車両群を開発中です。また、人工知能を活用することで、物資の供給や兵站、情報収集などの能力を改善することなども目指しています。また、ウェアラブル機器やロボットスーツやセンサー等の開発や機能強化も人工知能の活用によって強化する予定です。戦場のインターネット化が進められています。

 飛行機を飛ばす術においては、既にアルゴリズムは人間よりも長けています。世界初の自動操縦システムは、ジャイロスコープ(物体の角度や角速度あるいは角加速度を検出する装置)を飛行機の2つの主翼と尾翼に付けたものでした。それが開発されたのは、ライト兄弟が人類初の飛行に成功してから僅か10年後のことでした。また、現在でも、一度人間が稼働させれば、後は自律的に作動する軍事技術がたくさん存在しています。たとえば、水中地雷探知機やレーザー誘導爆弾などです。しかし、戦争において空中戦ほど複雑なものはないので、現在でも自律的に空中戦を戦うことができる戦闘機は開発されていません。DARPA用のL-39の改造に取り組んでいるカルスパン社の航空機開発担当副社長ポール・シファーレは言いました、「空中戦は、航空機メーカーが機体の性能を最も如実に示すことが出来るフィールドです。」と。

 人工知能を搭載した戦闘機は、いずれ人間のパイロットよりも急激に旋回できるようになり、より大きなリスクを負い、より上手く銃撃できるようになるでしょう。しかし、ACEプログラムの目的は、パイロットの役割を変えることであり、パイロットを完全に排除することではありません。DARPAの構想では、人工知能はパイロットと協力して飛行機を操縦し、パイロットは人工知能が行っていることを監視して必要であれば介入します。あくまで主導権はパイロットに残るのです。DARPAの”Strategic Technology Office”(戦略技術室)は、自律制御機能を備えた戦闘機に乗ったパイロットが部隊長となり、複数の無人戦闘機からなる部隊を指揮することを想定しているようです。

 新アメリカ安全保障センター(CNAS)のシニアフェローであるステイシー・ペティジョンは、ACEプログラムは、米国軍をより小さく、より安価なユニットに分解するという幅広い取り組みの一部であると言いました。具体的に言うと、少数の有人航空機と非常に低コストのネットワーク接続された多くの無人機で戦闘することを目指しています。DARPAはこれを “モザイク戦争 “と呼んでます。空中戦になった場合には、ペティジョンによれば、小さな無人自律型戦闘機をいくつも予想外の方法で組み合わせることによって、複雑な攻撃が可能となり敵を圧倒することができるのです。また、どれか1機が撃墜されたとしても、それほど大きな問題とならず戦闘継続が可能です。

 L-39は20回オンタリオ湖上空を飛行し、そのたびごとに関係者は、さまざまな条件下で自律的飛行を可能するために必要なデータの収集に努めました。自動運転車と同じように、自律型戦闘機もセンサーを使って外界と地図上の情報の不一致を識別します。しかし、空中戦のアルゴリズムは、位置情報とともに敵機も認識しなければなりません。戦闘機が飛行する際には、さまざまな高度をいろんな角度で飛行します。暑い日と寒い日では全く異なりますし、予備燃料タンクを積んでいるか否か、ミサイルを積んでいるか否かで全く戦闘機の挙動は異なります。

 ACEプログラムでアドバイザーを務める電気技師のフィル・チューは言いました、「飛行機は、飛行中はほとんどまっすぐ水平に飛んでいます。しかし、戦闘機の空中戦では話が別です。30度のバンク角(機体の左右軸と地面とがなす角)で飛行している際に20度の上昇をする、あるいは、40度のバンク角で飛行していて10度の上昇をするためには、どの程度操縦桿を引けばよいかを即座に考えなければならないのです。」と。また、自動車の自動運転と違って飛行は3次元ですから、速度も考慮しないといけないのです。「ゆっくり飛んでいて、操縦桿を一方向に動かせば、それなりに機体の向きは変わり旋回できるでしょう。もし、すごく速く飛んでいて、同じように操縦桿を動かしたら、まったく違う反応が返ってくるでしょう。」とチューは言いました。

 もしACEプログラムが計画通りに進めば、2024年には4機の人工機能搭載L-39がオンタリオ湖上空で実際の空中戦に参加することになります。この目標を達成するために、DARPAは36の研究所や民間企業に協力を要請しています。それぞれが2つの研究課題のいずれかに取り組んでいます。1つは、自律的に戦闘機を飛ばして空中戦を戦わせることです。もう1つは、パイロットに人工知能を十分に信頼させることです。オバマ政権時代に国防副長官を務め、国防総省に次世代技術の取り込みを促したロバート・ワークは言いました、「信頼できなければ、人間は人工知能を監視し続けなければなりません。それで、人工知能に任せることができなくなり、なんでも自分でしなくてはならなくなってしまいます。」と。

 ACEプロジェクトが必ず成功するという保証はありません。DARPAには沢山のプロジェクトがありますが、ほとんどは期限が設けられていて、3〜5年が多いようです。カルスパン社のシファーレは言いました、「テクノロジーの進化の過程は、這う段階、歩く段階、走る段階と順に進んでいくのが典型的なのですが、我々はようやく歩く段階に到達したところでしょう。」と。しかし、それほど遠くない将来に、人工知能が制御して自律的に飛行するソ連時代のチェコスロバキア製戦闘機L-39が、米空軍の精鋭のパイロットが操縦する戦闘機と伍して戦えるようになる日が来るでしょう。