Who Is the Real Kevin Warsh?
ケビン・ウォーシュの本当の姿とは?
Before the new Fed chairman got the job, he intimated that the central bank could cut interest rates, but last week he assumed the role of an inflation hawk.
就任前の新 FRB 議長は中央銀行が利下げを行う可能性を示唆していた。しかし、先週、インフレ退治の役割を担う決意を表明した。
By John Cassidy June 23, 2026
連邦準備制度理事会( FRB )議長に就任した共和党の金融家、ケビン・ウォーシュ( Kevin Warsh )の経済観は、よく言えば、かなり柔軟に見える。昨夏、彼は FRB が新型コロナパンデミック後にインフレ率を急騰させたことについて「過去 45 年間で最大のマクロ経済政策上の過ちを犯した」と指摘した。この発言はウォーシュをインフレ抑制派として印象づけた。しかし、昨年末にジェローム・パウエル( Jerome Powell )の後任の FRB 議長候補として名前が挙がった際、ウォーシュは AI が生産性の大幅な向上をもたらし、「構造的なデフレ効果」をもたらす可能性があると主張した。これは明らかに、FRB が安全に利下げできるようになったことを示唆していた。ドナルド・トランプ大統領がまさに求めていた政策転換であった。
パウエル議長の後任を選ぶ際、トランプ大統領は「大幅な金利引き下げを志向する人物」を選ぶと主張していた。最終的にはウォーシュが指名された。先週、金利政策を決定する政策決定機関である連邦公開市場委員会( FOMC )の会合で彼は初めて議長を務めた。委員会は、19 人の委員のうち 9 人が今年後半に少なくとも 1 回の利上げが適切だと考えていることを明らかにした。これは、トランプ大統領が望んだような借入コストの引き下げとは程遠いものである。8 人の委員は FF レートが現在の 3.5~3.75% の範囲内にとどまると予測した。利下げの可能性を示唆したのはわずか 1 人だった。ウォーシュ自身は予測を公表しなかった。しかし、会合後の記者会見で、彼は強気の姿勢を示し、FRB が 5 年以上インフレ目標を達成していないことを指摘し、「 FOMC は物価安定を実現する」と宣言した。先物市場では、多くのトレーダーが 9 月の利上げの可能性を織り込んだ。
先月、インフレ率は 4.2% に急上昇し、3 年以上ぶりの高水準となった。イランとの無益な戦争がエネルギー価格を押し上げたことが主要因である。このような状況下で FRB が政策スタンスを見直すのは全く理にかなっている。しかし、ウォーシュのタカ派への転換はウォール街の多くの人々の予想をはるかに超えている。「彼は AI が生産性と経済成長を促進し、インフレを抑制していると信じていると語っていた。だから、FF レート引下げを支持するハト派だと考えられていた」と、金融コンサルティング会社ヤーデニ・リサーチ( Yardeni Reserch )の社長エド・ヤーデニ( Ed Yardeni )は書いている。マーケットは新しい議長がどういう人物なのか必死に読み解こうとしている。ウォーシュが初めての会合で中央銀行の独立性を重視する姿勢を誇示しようとしたように見えたのだが、これは何か計算された賭けなのだろうか、それとも実際には現政権の意向に沿うのだろうか。今回の会合は、トランプが G7 サミットのためにヨーロッパに滞在していた時に行われた。記者から FRB の利上げの可能性について質問されると、トランプは「信じがたい。利上げはアメリカの経済成長を阻害するだけである」と答えた。そして、「しかし、今は FRB に非常に優秀な人物がいる。だから、私は彼の意向に従う」と付け加えた。
これはトランプらしからぬほど冷静な発言である。2019 年の大統領 1 期目のことであるが、FRB が自分の望むほど速く利下げを行わなかったことを「愚か者( boneheads )」と批判した。当時の FF レートは 2〜2.25% だったが、トランプがパウエル議長に求めたのは、借入コストをゼロ、もしくはマイナスにまで引き下げることであった。昨年春に彼が大統領に復帰してからは、中央銀行への攻撃は言葉による侮辱にとどまらなかった。パウエル議長と親しい FRB 理事のリサ・クック( Lisa Cook )を解任しようとし、長年のトランプの政治的盟友であるコロンビア特別区連邦検事のジャニーン・ピロ( Jeanine Pirro )は、フォギーボトムにある FRB 本部の改修プロジェクトにおけるパウエル議長の対応について刑事捜査を開始した。
連邦地裁は FRB の独立性に対するこれらの捏造された攻撃をいずれも阻止した。これらの攻撃は、トランプ自身の意向が阻まれたことへの怒りと、金利設定に対する一方的な姿勢を反映したものだった。先週の彼の控えめな反応は、彼が自らの選択によって引き起こしたイラン戦争が中央銀行と彼の側近であるウォーシュを窮地に追い込んだことを認識していることを示唆している。さて、彼の根本的な見解が変わったと考える理由はないわけだが、同時に、パウエル議長が去った FRB に利下げをするのが当然であると要求するだろうと疑う理由もない。
ウォーシュは、ジョージ・W・ブッシュ( George W. Bush )政権時の国家経済会議( National Economic Council )のメンバーで、2006 年から 2011 年まで連邦準備制度理事会( FRB )理事を務めた。手腕に長けた人物として広く知られている。先週の彼の発言は、かつての自身のインフレ対策の輝かしい実績を人々に思い出させようとしただけの可能性もある。というのは、FRB 議長候補となった際にトランプ大統領との面接で利下げを主張したと広く伝えられていて、その評判が傷ついていたからである。FRB 議長になる者は、大統領に甘いとか言いなりだと思われたくないものである。彼が就任して早々に自分の立場を明確にしておくのは理にかなっている。ウォーシュは本当にインフレ対策に熱心な人物なのかもしれない。FRB の使命を物価安定に焦点を絞った政策に戻すことと認識しているのかもしれない。記者会見で、ウォーシュは自由市場経済学者で保守派の象徴でもあるミルトン・フリードマン( Milton Friedman )に言及した。彼はスタンフォード大学でフリードマンの講義を受けていた。フリードマンの有名な格言「インフレーションは、いかなる場所でも、いかなる時代でも、本質的に貨幣的な現象である」を引用した。これまでウォーシュは、持続的な物価上昇の発生は究極的には FRB の選択によるものだと主張してきた。記者会見で彼はその主張を改めて述べ、「まさにその通りである」と付け加えた。
ウォーシュを原則に基づいたインフレファイター( inflation fighter )とする説には問題点がある。それは、彼の見解が一貫性を欠いていることである。ここ 1 年ほどの彼の発言からも明らかであるし、さらに遡ってもそうである。多くの評論家が指摘しているのだが、彼は大統領が民主党出身である時はタカ派的な傾向があり、共和党出身である時、特にトランプ政権下では、その傾向がかなり弱まっている。ポール・ボルカー( Paul Volcker )のような人物ではないのである。
あくまで私の個人的な見解であるものの、より可能性が高いと思うのだが、ウォーシュは確率に賭けているのではないだろうか。トランプに指名される 10 年以上前から、彼は経済の動向に賭けて巨万の富を築いた経験豊富なヘッジファンドマネージャー、スタンレー・ドラッケンミラー( Stanley Druckenmiller )のパートナー兼アドバイザーを務めていた。トランプ政権がイランと暫定的な和平合意に達して以来、原油価格は下落している。ウォーシュは、夏の終わりまでにガソリンやエネルギー価格がさらに大きく下落すると見込んでいるのかもしれない。そうなれば、総合インフレ率( headline inflation rate )も低下し、FRB が利上げを迫られる圧力は緩和されるだろう。それはウォーシュにとっては逃げ道となる。記者会見で、彼は今後の予想については明言を避けた。彼は FRB が政策意図に関するいわゆるフォワードガイダンスを発表することに長年批判的だったからである。彼は 7 月末の次回の FOMC 会合について、「 6 週間後に再び会合を開く。 その時に改めて議論する」と述べるにとどめた。
不安定な和平合意が維持されれば(週末にホルムズ海峡が再び閉鎖されたことは、その点では全く心強いものではない)、ウォーシュは幸運に恵まれるかもしれない。エネルギー部門以外のインフレの潜在的な要因を見ると、特に労働市場は穏やかに見える(過去 1 年間、企業のコストの大部分を占める賃金は、物価上昇よりも緩やかに上昇している)。さらに、直近の AI 関連の企業投資の急増以前から、労働者の生産性上昇は加速しており、これは企業のコストと価格を抑制するのに役立つ可能性がある。一方で、期待されるインフレの急激な低下は、決して保証されているわけではない。戦争によって引き起こされる混乱は、原油価格をより長期にわたって高止まりさせる可能性がある。最悪の場合、紛争が再開され、再び大きな原油価格高騰を引き起こす可能性がある。インフレの脅威は、AI 投資ブームにも起因しており、メモリチップなどの特定の部品の不足と価格の大幅な上昇につながっている。先週、アップルの CEO ティム・クック( Tim Cook )は、生産コストの急激な上昇を指摘している。同社が製品価格の値上げを余儀なくされていると述べた。
株式市場に多くの投資家が群がって活況を呈している。彼らは、ウォーシュ議長と同僚たちが最終的には利上げを阻止すると賭けているのだろう。万が一 9 月に利上げしたら、FRB 議長とトランプ大統領の蜜月関係は壊れてしまうだろう。中間選挙のわずか数週間前に該当するため、トランプが激怒する可能性が高い。2020 年 12 月にビル・バー( Bill Barr )司法長官がバイデンが勝利した 2020 年の大統領選で広範な不正投票の証拠はないと公言した時と同じようなことが起こるだろう。トランプは激怒して皿投げ事件を起こした。この事件は、元ホワイトハウス補佐官のキャシディ・ハッチンソン( Cassidy Hutchinson )が暴露したものである。
ウォーシュは、トランプ政権の財務長官スコット・ベセント( Scott Bessent )と毎週朝食を共にしている。そうした事態は避けたいと切望しているはずである。しばらくの間はそれが可能だろう。しかし、いずれ曖昧な回答を続け、一般的な原則表明をするだけでは済まなくなるだろう。そして、FRB の広報戦略の変更やバランスシートの縮小といった、彼が提唱してきた様々な改革を検討するためには特別委員会を開催しなければならなくなるだろう。FRB 議長の職務には、難しいものも含め様々な決定を下し、大統領を含む関係者にそれを説明することが含まれる。いずれ近いうちにケビン・ウォーシュが自分の意見をさらけ出さなければならなくなる時が来る。♦
以上