グラフの重要性って過小評価されてない?正しいグラフが作られるか否かが、生死を分ける時もある!

A Critic at Large June 21, 2021 Issue

When Graphs Are a Matter of Life and Death
正しいグラフが作られるか否かが、生死を分ける時もある!

Pie charts and scatter plots seem like ordinary tools, but they revolutionized the way we solve problems.
円グラフと散布図などのグラフを普段何気なく使っていますが、それらは人間が問題を解決する手法に革命をもたらしました

By Hannah Fry June 14, 2021

序.正しい状況判断のためには正しいグラフが必要

 ジョン・カーター(レーシングチームのオーナー)が決断するための時間は1時間しかありません。今シーズンの最も重要なレースの出走時間が迫っています。そのレースは全国ネットで生放送されますし、上位になれば高額な賞金を得られます。もし、彼のチームが優勝した場合には、高額なスポンサー契約を獲得できるでしょうし、チームの抜本的な改革を進めるための資金を得られるでしょう。

 出走するという決断を躊躇する理由が1つだけあります。それは、過去24戦の内、7戦でカーター・レーシングのレーシングカーはエンジンブローを起こしていたということです。出走したとしても、エンジンブローを起こす場面が生中継されてしまったらスポンサーに悪い印象を与える可能性がありますし、何よりドライバーの安全を脅かしかねません。しかし、出走を取りやめるという決断を下すのも困難な状況です。というのは、既に支払ったエントリー料が無駄になって今シーズンの収支が赤字になることが確定しますし、栄光を掴むチャンスをみすみす逃すことになる決断を下すのは難しいことです。まさしく、彼のチームのスタッフのバーンズが残した格言「出走しなければ、レースで栄光を掴むことは無い。」が当てはまる状況でした。

 あるエンジン担当メカニックは、エンジンブローの原因について思い当たる節がありました。彼の推測は、気温が低い時にエンジンヘッド部分のガスケット(気密性や液密性を保たせるためのシール材)に不具合が出るというものでした。カーターが出走するか否かを決断するのを助けるために、エンジンブローがどういう状況で発生するかを示すグラフが作成されました。それはエンジンヘッドのガスケットの不具合について示すグラフで、外気温別に発生した回数がプロットされていました。そのグラフを見て分かるのは、不具合が発生していたのは、外気温が華氏55度(摂氏13度)から華氏75度(摂氏24度)の間であるということと、その温度帯の両端付近で発生頻度が高く、その真ん中あたりでは低いということでした(グラフは笑った時に口角が上がった口元のような形を示していた)。

 レースが始まる時間が迫っていましたが、天気予報では華氏40度(摂氏4度)で非常に寒くなると予想されていました。これまで、そんな低温下でレースが行われたことはありませんでした。カーターは、レーシングカーを出走させるべきなのでしょうか?それとも取り止めるべきなのでしょうか?