パウエル FRB 議長がトランプによる政治圧力に屈せず、中央銀行の独立性を守り抜いた闘いの記録を解説。後任に指名されたケビン・ウォーシュは、果たして大統領の介入を退け、市場の信頼を維持できるのか?上院公聴会での曖昧な態度から浮き彫りになった懸念と、米金融政策の危うい先行きの真実に迫る Cassidy のコラムを翻訳しました。
本日翻訳して紹介するのは、John Cassidy によるコラムです。the New Yorker の web 版に 4 月 27 日に掲載されたものです。タイトルは、” The Lessons from Jerome Powell’s Defiance of Donald Trump “(ジェローム・パウエルがドナルド・トランプに反抗したことから得られる教訓)となっています。Cassidy はスタッフライターで経済分野をカバーしています。スニペットは、” An independent Fed needs an independent leader. Is Kevin Warsh up to the job? “(独立した連邦準備制度には、独立したリーダーが必要である。ケビン・ウォーシュはその役割を担えるだろうか?)となっていました。
さて、FRB の次期議長にケビン・ウォーシュが指名されたわけですが、私には不安しかありません(市場は比較的楽観視しているようですが)。ケビン・ウォーシュの過去の言動、特に政権の交代や経済状況の変化に合わせて金融政策へのスタンスを豹変させる姿勢は、中央銀行のリーダーとして日和見主義のリスクを強く示唆しています 。
私が考えた具体的なリスクは次のとおりです。
1. 金融政策の整合性と予測可能性の喪失
中央銀行にとって最も重要な武器の 1 つは「フォワード・ガイダンス(将来の指針)」です。
- 一貫性の欠如: 日和見主義者は、その時々の政治的圧力や世論に迎合して方針を変えるため、長期的な政策の整合性が保てなくなります 。
- 市場の混乱: 投資家や企業は将来の金利予測を立てられなくなり、結果として市場に不必要なボラティリティ(変動)を招きます 。
2. 「政治的景気循環」への加担
独立した中央銀行の役割は、政治家が選挙対策のために求める「不自然な好景気」を抑制することにあります。
- 短期的な利益の優先: ウォーシュのように、トランプ大統領の好む低金利政策に同調する姿勢は、短期的には景気を浮揚させても、中長期的には過度なインフレを招く危険があります 。
- 独立性の崩壊: 議長が「人質ビデオに映っている者のよう」と評されるほど大統領の意向を伺うようでは、FRB はもはや独立機関ではなく、行政府の出先機関と化してしまいます 。
3. データ軽視と「後手に回る」リスク
日和見主義者は、客観的なデータよりも政治的なタイミングを重視します。
- 判断の誤り: ウォーシュは 2007 年の金融危機直前にリスクを軽視し、デリバティブを称賛するなど、データの解釈を誤った過去があります 。
- タイミングの逸失: 2009 年の高失業率下で利上げを求め、2018 年の低失業率下で緩和を求めるなど、経済実態と逆行する主張を繰り返す傾向は、舵取りを任せる上で大きな不安要素です 。
4. 中央銀行に対する「信認」の失墜
FRB のドル発行権と政策決定権は、世界中からの「信頼」の上に成り立っています。
- 孤高の地位の喪失: これまで FRB は、連邦政府の機能不全から切り離された「孤高の存在」として信頼されてきました 。
- ドルへの影響: 政策が特定の個人の政治的野心や保身のために歪められていると認識されれば、米ドルや米国債への信認、ひいては世界経済の安定そのものが揺らぐことになります 。
結論 Cassidy のコラムが指摘するように、パウエルが「いかなる脅迫にも屈しない」という強い信念を示したのに対し、ウォーシュの曖昧な答弁や変節の歴史は、彼が信念( conviction )ではなく状況( circumstance )で動く人物であることを強く示唆しています 。
このような日和見主義的なリーダーの下では、FRB 内部のテクノクラート(専門官僚)たちがデータに基づいた正論を唱えても、トップの政治判断によって封殺される恐れがあり、組織全体のガバナンスが機能しなくなるリスクがあります 。
私は不安を煽るつもりはまったくありません。ということで、少し安心できる見解についても記したいと思います。「地位が人を作る」という言葉があります。議長になったら、ウォーシュがそれにふさわしい行動をするようになる可能性もあります。市場はそれに賭けているようです。実際、パウエルだって当初はトランプに指名された「物分かりの良い人物」と見られていました。しかし、実際に議長の座に就くと、トランプからの猛烈なバッシングを受けても利上げを断行し、最終的には司法省の圧力にすら屈しない独立性の守護神へと変貌しました 。
実は私はウォーシュが上手くやるだろうと楽観視しています。実際、彼が指名されることが確実になってからも市場は概ね安定しています。市場というのは、いつの世でも案外正しいものなのです。彼の実力は折り紙付きです。スタンレー・ドラッケンミラーのパートナーを務めていました。生き馬の目を抜くヘッジファンドの世界でも、その実力を認められていた証拠です。個人資産は 2 億ドル超です。また、リーマン・ショック( 2008 年)の際には、当時のバーナンキ議長の側近として、ウォール街と政府の仲介役を一手に引き受けました。ベアー・スターンズの売却や、AIG の救済といった、一分一秒を争う歴史的決断の現場にいた人物です。ですから過度に警戒してリスクオフする必要はないのです。そんなことをするとパフォーマンスがマーケットアベレージを下回ってしまいますからね。
さて、話がそれましたが、以下に和訳全文を掲載します。詳細は和訳全文をご覧ください。
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