The Lessons from Jerome Powell’s Defiance of Donald Trump
ジェローム・パウエルがドナルド・トランプに反抗したことから得られる教訓
An independent Fed needs an independent leader. Is Kevin Warsh up to the job?
独立した連邦準備制度には、独立したリーダーが必要である。ケビン・ウォーシュはその役割を担えるだろうか?
By John Cassidy April 27, 2026
火曜日( 4 月 28 日)の朝、FRB (連邦準備制度理事会)の理事 7 人と、地区連邦準備銀行総裁 12 人が、フォギーボトム( Foggy Bottom:ワシントン D.C. のポトマック川沿いに位置する歴史ある地区)にある FED 本部で経済情勢と金利政策についての協議を行った。1913 年に連邦議会がアメリカの中央銀行制度である連邦準備制度を設立して以来、こうした政策会合はしばしば行われてきた。戦争や記録的なインフレや猛威を振るうパンデミック時などである。しかし、今回のような状況下で開催されたのは初めてである。今回の会合は、ジェローム・パウエル( Jerome Powell )が議長を務める最後の会合となる予定である。元々、パウエルの議長の任期は来月で満了であった。ドナルド・トランプはパウエルの後任に共和党支持の銀行家ケビン・ウォーシュ( Kevin Warsh )を指名した。しかし、上院でのウォーシュ指名手続きは停滞していた。司法省がパウエルを追及したからである。連邦準備制度の改修プロジェクト費用の大幅な予算超過への対応を問題視してのことである。これは難癖でしかない。パウエル議長は後継者問題が解決するまで留任すると誓った。つい数日前までは、6 月の次の政策会合でも彼がまだ議長を務めている可能性が高いように思われた。このような膠着状態は過去に例がない。
先週金曜日( 4 月 24 日 )にトランプは態度を軟化させた。彼の長年の友人であり盟友でもあり元 FOX ニュースのコメンテーターであるジャニーン・ピロ( Jeanine Pirro )は、現在、ワシントン DC の連邦検事を務めている。ピロは、FRB 本部改修工事における予算超過を巡るパウエルの議会証言に関する調査を終了すると発表した。この問題を FRB の内部観察室に引き渡すとしている。日曜日( 4 月 26 日)にはノースカロライナ州選出の共和党上院議員トム・ティリス( Thom Tillis )が、ウォーシュの指名手続きを進めることを容認すると述べた。直前まで、ティリスはトランプ政権が権力を乱用してパウエルと FRB を攻撃しているとして抗議し、ウォーシュの指名を強硬に阻んでいた。パウエルの任期が 5 月に終了する前にウォーシュの指名が承認される道が開かれた。
ほぼ確実にパウエルの FRB 議長としての任期は 5 月で幕を閉じることになるだろう。「ジェローム・パウエルは毅然とした態度を貫いた」と、コンサルティング会社 RSM のチーフエコノミスト、ジョー・ブルースエラス( Joe Brusuelas )は Yahoo! ファイナンスに語った。「彼は大統領を睨み返し、司法省を屈服させた」。たしかにその通りである。が、パウエル率いる FRB は、政策決定に関して何とかして支配権を行使しようとする大統領に毅然と立ち向かったわけで、むしろそのことを賞賛すべきである。さて、パウエルの後任にウォーシュが就任することになるが、トランプの 2 期目の残りの任期中に FRB の独立性が担保される否かは懸念事項である。この点に関して言うと、先週の上院銀行委員会の公聴会での彼の態度は、決して信頼できるものではなかった。
対照的だがパウエルは非常に信頼できる。今年初めにピロがコスト超過を口実にパウエルを標的とする調査を開始した際、パウエルは黙って事態が収まるのを待つこともできたはずである。しかし、彼はそうせず、自身と同僚を脅迫しようとする動きを公然と非難し、「 FRB の独立性を守るために、いかなる脅迫にも屈しない」と述べた。当時、私はパウエルを賞賛した。「パウエルの姿勢は、トランプ政権に屈した法律事務所、大学、上場企業のトップたちを恥じ入らせるものである」と書いた。その評価は今も変わらないが、FRB 議長は独裁的な大統領にたった 1 人で立ち向かうことはできなかっただろう。連邦裁判所と連邦議会の協力が必要だったのである。
3 月に連邦裁判所判事は、ワシントン DC 連邦地検が大陪審から入手し FRB に送付した 2 通の召喚状を無効とした。「召喚状の唯一の目的は、パウエルに嫌がらせや圧力をかけることである。何とかしてパウエルに大統領の意向に従わせようとし、大統領の意向に従う人物に FRB 議長の座を譲るために辞任させようとしていた。その証拠はいくらでもある」と判事は記した。「その一方で、トランプ政権はパウエルが大統領の不興を買ったこと以外に犯罪を犯したという証拠を一切提示していない」。司法省は控訴したが、認められなかった。
トランプが法廷闘争で屈辱を味わうのはこれが初めてではない。昨年 8 月にトランプはパウエル議長の同僚であるリサ・クック( Lisa Cook )理事に即時辞任を要求し、解任を通知した。理由は、住宅ローン詐欺の疑惑だった。トランプの政治的盟友である連邦住宅金融庁( Federal Housing Finance Agency )長官のビル・パルテ( Bill Pulte )が主導した疑惑告発が発端であった。連邦地裁は、大統領の解任命令を一時差し止める判断を下した。異議を申し立てる機会が与えられていないことを指摘し、大統領の判断は正当な理由の要件を満たしていない可能性が高いとした。2 審の連邦控訴裁判所は、解任を差し止めた地裁の判断を支持した。トランプ政権はこの判断を不服として連邦最高裁に上告した。しかし、最高裁はまだ判決を下していない。しかし、今年 1 月の口頭審理で、リベラル派の判事も保守派の判事も政府の主張に懐疑的な見方を示した。ブレット・カバノー( Brett Kavanaugh )判事は、「大統領にクック理事を解任する権利があるという見解を受け入れることは、FRB の独立性を弱める、あるいは破壊する」と指摘した。
共和党が多数を占める連邦議会は、大統領を監視・チェックするという重要な役割を果たしていない。屈服することが常態化している。この件でのティリスの言動は、トランプに完全に屈服している他の共和党議員と一線を画している。共和党がわずか 2 議席差で過半数を占める銀行委員会において、ティリスは司法省のパウエル議長と FRB に対する捜査が中止されない限り、ウォーシュの指名手続きを阻止すると誓っていた。先週、彼はこの姿勢を改めて表明し、この捜査は「でっち上げ( bogus )」であると非難した。ティリスは再選を目指さないことを明言している。そのため、トランプはいつもの威圧的な戦術、つまり対立候補を支持すると脅すという手段を使うことができなかった。
今回ばかりは、権力分立が設計通りに機能したように見える。しかし、トランプへの反発が功を奏したのは、2 つの要素に依存していたことに留意すべきである。パウエル議長のリーダーシップとティリス上院議員の男気である。これらは常に存在しているわけではない。トランプの残りの任期中、FRB の独立性が守られるか否かは、中間選挙の結果とウォーシュの意思に左右されるだろう。ウォーシュは長年切望してきたポストに指名してくれたトランプと対峙する形になるわけだが、直近ではトランプが切望する超低金利政策に迎合しているように見える。ちなみに、昨年のことであるが、ウォーシュはフォックス・ビジネス( Fox Business )に「金利はもっと低くあるべき」と語っている。
ウォーシュの強みは、FRB での経験があることである。彼は 2006 〜2011 年まで FRB の理事を務めた。「彼がこの職務を非常に真剣に受け止めてくれると確信している。彼は FRB のことを真剣に考えている」と、オバマ政権で経済アドバイザーとして中心的役割を果たし、現在はシカゴ連銀総裁のオースタン・グールズビー( Austan Goolsbee )はフィナンシャル・タイムズ( Financial Times )紙に語った。今月初めのことであるが、JP モルガン・チェースの CEO ジェイミー・ダイモン( Jamie Dimon )は、ウォーシュを FRB 議長の「偉大な候補者」と評した。
ウォーシュの経歴が示唆することがある。彼は、スタンフォード大学からハーバード・ロー・スクール、モルガン・スタンレーの投資銀行部門を経て、ジョージ・W・ブッシュ政権の経済政策特別補佐官を務め、2006 年に史上最年少で FRB 理事に就任した。35 歳まで着々とキャリアを積み上げてきた彼は、人脈作りと自己啓発に長けている。2011 年に FRB を退任後、億万長者スタン・ドラッケンミラー( Stan Druckenmiller )率いるヘッジファンドで働いた。ウォール・ストリート・ジャーナル( Wall Street Journal )紙が資産開示書類に基づいて推定した資産総額は 2 億ドルを超える。これは、彼が FRB 議長になることを何ら妨げるものではない。パウエルも FRB 議長になる前に富を築いていた。しかし、問題は彼の判断力と独立性にある。先週の公聴会でネバダ州選出の民主党上院議員キャサリン・コルテス・マスト( Catherine Cortez Masto )が指摘したのだが、金融危機が起こった前年の 2007 年にウォーシュはサブプライムローンがもたらすシステミックリスクを軽視していたという。また、ウォーシュは、デリバティブ市場の拡大を称賛していた。サブプライムローン市場の崩壊と関連デリバティブ(証券化商品)が不良債権化し、ベアー・スターンズ( Bear Stearns )とリーマン・ブラザーズ( Lehman Brothers )が破綻した際、FRB が前例のない規模の銀行救済策を実施するにあたり、ウォーシュはベン・バーナンキ( Ben Bernanke )議長とウォール街との仲介役を務めた。その後、連邦議会は規制を強化し、大手銀行は抱えるリスク資産に対して、より多くの資本を積むことが義務付けられた。トランプ政権 2 期目においてこの施策は緩和されつつある。銀行の自己資本比率規制を含む金融規制を緩める方向性を主導しているのはウォーシュである。昨年 11 月のウォール・ストリート・ジャーナル紙のオプエド欄で、ウォーシュはトランプの規制緩和政策を賞賛している。「ロナルド・レーガン大統領以来の非常に意義深い政策である」。
ウォーシュが自身の見解を述べているのか、それとも政治的な立場を踏まえての見解なのかは分からない。金融政策の分野で積極的な調査・提言活動を行うシンクタンクのエンプロイ・アメリカ( Employ America )の事務局長スカンダ・アマナス( Skanda Amarnath )は、ウォーシュの経歴を痛烈に批判している。「ウォーシュの金融政策に関する見解は、過去 20 年間、時の政権に迎合して変遷している。現在は、トランプ大統領の嗜好に寄り添うことを優先している」と指摘する。2009 年 9 月にはバラク・オバマ政権下で失業率が 10% 近くに達したが、ウォーシュは金利を長期間低く抑えすぎることに警鐘を鳴らした。トランプの大統領 1 期目の 2018 年 12 月には、失業率が 3.9%と低く 、しかも FRB はすでに小幅な利上げを行っていたにも関わらず、ウォーシュは FRB の金融引き締め政策の終了を求めた。
ウォーシュは、注目すべきアイデアをいくつか提案している。FRB のコミュニケーション手法や政策決定プロセスの大幅な改革などに加えて、財務省と協力してバランスシートの規模を縮小するとしている。FRB のバランスシートは、量的緩和を継続して実施してきたため 6.7 兆ドルにまで膨れ上がっている。 紙幣を印刷しまくって国債や住宅ローン債券を購入してきた。金融政策には複雑な側面があり、ハト派もいればタカ派もいる。しかし、ウォーシュに関する最大の懸念は、もっと単純なことにある。つまり彼に信念があるのか否かが問われているのである。先週の公聴会で、彼は繰り返し独立性を誓ったが、トランプが 2020 年の選挙で敗北したかという点については言及を避けた。リサ・クック( Lisa Cook )を解任するというトランプ政権のあからさまな攻撃についてもコメントを避けている。トランプの経済政策の中で肯定しがたい施策を 1 つ挙げるという問いへの回答も拒んだ。ウォーシュの発言からは、本人の意思や独立心が感じ取れない。犯人に脅されて人質ビデオに映っている者と大して変わらない。
自分の意向に沿う人物を FRB 議長に就任させられることとなり、トランプは安堵しているだろう。先週のことであるが、ウォーシュがすぐに利下げを行わなければ失望する、と彼は語った。しかし、こんな状況下でも楽観的な者も少なくない。彼らの推測は、たとえウォーシュがトランプに従順であろうとも、FRB の協調的な意思決定プロセスが優先されるはずというものである。ウォーシュの議長指名が承認され、パウエルが 2028 年まで任期が残っている理事の座を降りると、FRB 理事のうち 4 名がトランプが任命した者となる。他に 3 名の理事がいる。連邦公開市場委員会の他の構成メンバーは、5 名の地区連邦準備銀行総裁である。同委員会ではこの 12 名の多数決で政策が決定される。近年では、彼らのほとんどは経済学の博士号( Ph.D. )を保有し、データを重視する中道派のテクノクラートである。
このことは安心材料のように思えるわけだが、FRB 内部の対立に対する市場の反応が考慮されていない。現在の FRB は透明性を重視している。そのため、内部での意見の相違が、投票結果の開示や幹部による声明で明らかになることが多い。数十年にわたって世界中の投資家はアメリカの統治システムは機能不全に陥っていると認識しているが、FRB は孤高の存在と認識されてきた。政治的な圧力から独立した機関として、データに基づいて金融政策を迅速に決定してきた。この評判が損なわれれば、その影響は計り知れないものとなる。ウォール街は、ウォーシュが様々な圧力に上手く対処し、トランプの介入に抵抗し、投資家の信頼を維持すると予測している。そうなることを祈っている。それに賭けている。おそらく賭けは当たるだろう。しかし、公聴会での彼の曖昧な答弁を聞いた限りでは、この賭けは決して確度の高いものとは言えない。♦
以上
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