イラン戦争の長期化で高まる中国の影響力!!アメリカの凋落と、漁夫の利を得る中国の戦略を読み解く。

The Lede

How the Iran War Is Shifting Power Toward China
イラン戦争はいかにして権力を中国へとシフトさせているのか

As the U.S.’s credibility and military capacity are tested abroad, China has gained leverage by staying out of the fight and learning from it.
米国の信頼性と軍事力が海外で試される中、中国は紛争に介入せず、そこから学ぶことで優位性を獲得してきた。

By Ishaan Tharoor May 6, 2026

 先週、ドイツのフリードリヒ・メルツ( Friedrich Merz )首相は、イラン戦争に関して悲観的な見解を示した。ペルシャ湾では膠着状態が 2 カ月以上も続いている。現在、停戦が成立しているものの、いつ崩壊してもおかしくない状況である。アメリカはイランの港湾と船舶を封鎖し、イランはアメリカの船舶への攻撃を試みている。ホルムズ海峡を巡って交渉が続けられているが、ドナルド・トランプ大統領が攻撃再開を検討していると報じられている。「イランが予想以上に粘り強いことと、アメリカが交渉において真に説得力のある戦略を持っていないことが明らかになりつつある…..(中略)….イランの指導部によってアメリカ全体が屈辱を受けている」とメルツは述べた。彼が以前は慎重ながらもイランの政権交代をも支持していたことを考慮すると、大転換である。トランプは反射的に対応した。数十年にわたりドイツに駐留しているアメリカ軍を撤退させると表明した。この一件は、ヨーロッパや中東で繰り返されてきたパターンに当てはまる。トラ​​ンプは新たな脅迫を行い、些細な侮辱にも報復し、同盟国や自身の決定がもたらす広範な影響をほとんど顧みない。彼の行動はアメリカ国内にも影響を与えている。ピュー・リサーチ・センター( Pew Research Center )が先日行ったこの問題に関する世論調査で明らかになったのだが、自国が他国の利益をほとんど無視していると感じている者の割合は過去 20 年間で最高となった。

 これは中国共産党にとって歓迎すべきニュースである。長年、中国共産党は自国を責任ある大国として位置づけようと試みてきたが、その成果は中程度にとどまっていた。しかし、現在、トランプ政権は自国に帝国主義のレッテルを貼る作業に勤しんでいる。中国共産党は、専門用語を多用した声明を次々と発表し、アメリカの「覇権主義( hegemony )」を警告し、トランプ政権の「冷戦思考( Cold War mentality )」を非難している。国際秩序の真の守護者として中国を位置づけようとしている。これまで国際秩序の構築にもっとも貢献してきたのは間違いなくアメリカであったが、もはや遠い過去のこととなった。2023 年に習近平( Xi Jinping )国家主席は、文明・文化間の摩擦を回避し共存を目指すと訴える、壮大だがいささか意味不明な「グローバル文明イニシアチブ( Global Civilization Initiative:略号 GCI )を発表した。これは、西側諸国が主導する民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値に対抗する、中国独自の価値観に基づく国際秩序の構築を目指す動きである。中国の近隣諸国にとって、こうした空虚な構想は、中国の覇権主義的な姿勢に対する懸念を和らげるものではないだろう。一方、いわゆるグローバル・サウス( Global South )の小国のほとんどでは、すでに中国の影響力が社会的にも政治的にも浸透している。しかし、イラン戦争やトランプの国際舞台での混乱を招く言動(ソーシャルメディアでの支離滅裂な発言を含む)が、中国が地政学的な役割を再定義するのに役立っている。そう語るのは、ジョンズ・ホプキンス大学( Johns Hopkins University )の政治経済学教授、ユエン・ユエン・アン( Yuen Yuen Ang )である。「ウクライナ戦争では、中国はロシアと同盟関係にあることから西側諸国から強い警戒と不信感を持たれるという厳しい外交的立場に置かれた」と彼女は語る。「イラン戦争は中国に経済的なメリットこそもたらさないが、外交的には一定のメリットがあるという側面が存在する。これにより、中国はこれまで孤立していた同盟関係から抜け出し、中東だけでなく世界全体でより広範な立場を再定義することができる」。

 トランプ大統領の 2 期目が始まって以降、西側諸国の首脳が次々と北京を訪れた。彼らは、トランプの横暴を容認しないという意思を包み隠さず示した。カナダの作家で元外交官のマイケル・コブリグ( Michael Kovrig )は、こうした訪問は中国にとって政治的に大きな意味を持つし、良い宣伝になったと指摘する。4 月中旬に習近平国家主席はスペインのペドロ・サンチェス( Pedro Sánchez )首相と会談しイラン戦争についても言及した。アメリカのイラン戦争を非難し、「中国とスペインはともに歴史の正しい側に立っている。弱肉強食の世界への逆行には断固として反対する」と表明した。

 中国が平和を希求している姿勢を見せているが、これは口先だけのものでない。なぜならば、核心的な利益を守る上で重要なことだからである。現在、中国経済は貿易に大きく依存しているため、中国共産党の戦略部門は世界的な政治的対立や紛争が少なく、経済や株式市場の見通しが立てやすい状態を最優先事項としている。トランプが混乱を引き起こしているが、習近平の野望が萎えることはない。「数十年間、中国の外交政策は経済発展のために安定を最優先してきた。トランプ 2 期目の不安定で暴力的な世界において、習近平は中国経済の舵取りに自信を深めている」と、コロンビア大学( Columbia University )の中国担当上級研究員でバイデン政権の元高官であるジュリアン・ゲウィルツ( Julian Gewirtz )は語る。中国は膨大な戦略石油備蓄を保有しているにもかかわらず、ホルムズ海峡をめぐる膠着状態が引き起こす経済混乱から免れることはできない。それでもなお、中国はアメリカよりも「苦難に耐える( eat bitterness )」能力に優れているだろう。習近平はそう考えているに違いないし、それは事実だろうとゲウィルツは主張する。中国は、苦難に耐え、戦争の混乱からいち早く立ち直る能力が備わっている。

 中国経済はイラン戦争前からすでに低迷していた。その上、ホルムズ海峡封鎖の影響により、同国の巨大な製造業や輸出部門ではコストがさらに上昇している。しかし、イラン戦争には良い面もあった。アジア諸国は、ホルムズ海峡を越えてくる化石燃料への依存度がアメリカよりもはるかに高い。将来の石油ショックに備える必要性が再認識され、再生可能エネルギーの拡大が喫緊の課題と認識されつつある。既に中国は、グリーンエネルギーのサプライチェーンの支配権を確立している。エネルギー関連のシンクタンクのエンバー( Ember )の報告書によれば、中国の太陽光発電( solar systems )、バッテリー( batteries )、電気自動車( electric vehicles )の輸出業者はいずれも 3 月に過去最高の売上を記録したという。大きな転換期が始まっている可能性がある。「 5 年足らずの間に 2 度の石油ショックに見舞われた。我が国が学ぶべき教訓は明らかである。化石燃料による安全保障の時代は終わり、クリーンエネルギーによる安全保障の時代が到来した」と、イギリスのエネルギー担当大臣エド・ミリバンド( Ed Miliband )は指摘する。イギリスはガス火力発電からの脱却すべきであるとも主張している。トランプ政権は、化石燃料から莫大な利益を享受している。そのため、再生可能エネルギーへの投資を軽視し過ぎている。世界規模の再生可能エネルギーへの大転換の舵取りを中国に任せた形になってしまっている。

 中国は、傍観しているだけでイラン戦争から利益を得ている。トランプ政権が主要な軍事アセットをアジアから中東へ移転させている。韓国大統領の反対を押し切って防空システムが中東に再配備されるのを、中国は傍観してきた。アメリカ軍はわずか数週間で、パトリオット( Patriot )、トマホーク( Tomahawk )、ステルス巡航ミサイル( stealth cruise missiles )、THAAD 迎撃ミサイル( THAAD interceptors )などの重要な兵器を大量に消費した。東アジアのアメリカの同盟国にとって、もはや「パックス・アメリカーナ( Pax Americana )」という概念は風前の灯火となっている。東アジア諸国は、中国への対抗策という観点で長期的な戦略を再構築する必要性を認識しているだろう。。

 イラン戦争は、アメリカのいくつかの脆弱性を露わにした。アメリカは、さほど強敵とは言えないイランとの戦争で苦戦している。イランの安価なドローンを使った湾岸地域への攻撃を無力化できなかった。このことで、アジアにおけるアメリカの持続的な軍事的優位性に疑問符が付いた。また、中国共産党は、アメリカの新たな戦争遂行方法を間近で見る機会を得た。特に無人・自律型兵器類の実戦使用を詳細に分析している。先月、習近平国家主席の側近である陳一新( Chen Yixin )国家安全部部長は、共産党機関紙に長文の論説を発表した。イラン戦争を分析し、情報統合( intelligence fusion )、意思決定( decision-making )、標的認識( target recognition )、戦闘支援( combat support )、認知形成( cognitive shaping )における AI の高度な活用について言及している。2022 年のロシアによるウクライナ侵攻後、アメリカがウクライナを支援したが、その時と全く同じである。中国はアメリカ軍の行動を注視し、つぶさに分析している。

 イラン戦争に関して、今後数日のうちに何らかの外交的突破口が開かれる可能性はゼロではない。とはいえ、戦争の余波が、北京で開催されるトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談に暗い影を落とすだろう。この会談は当初 3 月に予定されていた。イラン戦争によって延期された。その後、状況はさらに悪化している。トランプ政権は、イランと中国の双方に圧力をかけるため、中国の複数の石油精製会社と、イランとの貿易に関与する中国系海運会社等 40 社を制裁対象にした。一方、中国は新たなルールを制定し、中国を拠点とするサプライチェーンから脱出を試みる外国企業に罰則を科せるようにした。ジョー・バイデン( Joe Biden )もトランプも大統領として対中国のデリスキング( de-risking )を推進してきた。中国への過度な経済依存を減らし、地政学リスクやサプライチェーンの脆弱性を低減する戦略がデリスキングである。西側の様々な国がこの戦略を受け入れていた。しかし、トランプ政権 2 期目では、こうした国々はアメリカに対するヘッジの必要性も感じている。したがって事態はより複雑になっている。トランプ大統領の破壊的な政治とは対照的であるが、中国共産党は着々とソフトパワーを増大させつつあり、戦わずして戦果を得ているような状況にある。「アメリカの同盟国や友好国は、トランプ政権のリスクをヘッジするために努力が必要な状況である。このことは中国を利する。自国の行動に対する懸念を和らげるために中国共産党が費やす外交的資源は少なくなっている」と、独立非営利 NGO の国際危機グループ( International Crisis Group )で米中関係を研究するアリ・ワイン( Ali Wyne )は語る。

 昨年 10 月の米中首脳会談でトランプと習近平は会っている。その会談に先立って、トランプ政権は既存の関税に加えて 100% の追加関税や包括的な輸出規制など、様々な脅迫を行った。今回の会談を前に、トランプ政権ははるかに抑制的になっている。ワインの見立てでは、この違いはイラン戦争後に習の立場が強まっていることを反映している。「アメリカは中国の支援なしにイランを交渉のテーブルに戻すことはできないだろう」と彼は述べる。「また、中国が生産を支配している重要な材料であるガリウムなしには、中東のミサイル迎撃ミサイルの備蓄を補充することもできないだろう」。習はこの膠着状態を利用して中国の国力を強化し、貿易と先端分野に関してさらなる譲歩を引き出そうとしていると、ゲウィルツは語る。「中国共産党指導部にとって、訪問の延期は好都合であるし、イラン戦争に忙殺され焦っている大統領との交渉の難易度は低い。首脳会談で時間を稼ぎ、譲歩を引き出すことがさらに容易になると予想している」と彼は述べる。 「彼らはトランプが今回の訪問を勝利として印象付けようとしていることを認識している。それは彼らとって格好の交渉材料となる」。

 中国も、より融和的な姿勢を示す可能性がある。共産党指導部は、湾岸地域の緊張緩和と、封鎖の終結を望んでいる。それらは、中国だけでなくアジア全体に深刻な打撃を与えている。中国はイランを積極的には支援しないし、中東におけるアメリカの地位を奪おうとしたりしているわけではない。むしろ、中国はイランがアメリカとの交渉に踏み切るよう促している。隣国であり緊密なパートナーであるパキスタンに仲介役を担うよう働きかけている。

 イラン戦争が浮き彫りにしたのは、中国の力にも限界があるということである。中国共産党は何十年もの間、湾岸諸国からのエネルギー輸入を経済の原動力としてきたが、中東の平和維持に関しては完全にアメリカに依存してきた。現在、この地域におけるアメリカの軍事行動を妨げるものは何もない。習主席によるホルムズ海峡開放の呼びかけも無視されたている。トランプがソーシャルメディアに新たな愚行を投稿するたびに、習主席の冷静沈着なイメージは高まるかもしれないが、中国は依然としてアメリカの地政学的影響にさらされている。「この紛争から、中国の世界的リーダーシップに対する新たな評価を得ることはないだろう」と、ロンドンを拠点とする中東・中央アジア経済シンクタンク、ブルス&バザール財団( Bourse & Bazaar Foundation )の代表、エスファンディヤル・バトマンゲリジ( Esfandyar Batmanghelidj )は語る。「少なくとも、アメリカのリーダーシップに対する、より一層の、そしてより深刻な評価を得ることになるだろう」。♦

以上