The End of Children
子どもの終焉
Birth rates are crashing around the world. Should we be worried?
世界中で出生率が急激に低下している。心配すべきことなのか?
By Gideon Lewis-Kraus February 24, 2025
1.まもなく世界の人口は減少に転じる
社会は時として唐突に崩壊するものである。とはいえ、多くの悲観的な予言者は、彼らの最も暗い予言が全体として時期尚早であったことを心に留めておくべきかもしれない。1968 年に鱗翅目学者ポール・エーリッヒ( Paul Ehrlich )と妻アン( Anne Ehrlich )は、「人口爆弾( The Population Bomb )」なるベストセラーを出版した。何世紀もの間、多くの経済学者が世界の食糧供給が増え続ける人口に追いつくことは不可能だと懸念してきた。当時、人類の運命は暗いのもであるという雰囲気が支配的であった。「全人類を養うための闘いに勝利するのは不可能である」とエーリッヒは書いている。「 1970 年代に世界を大飢饉が襲い、何億もの人々が餓死する」。これが当時の常識だった。エーリッヒが本を出した 10 年前にサイエンス( Science )誌に掲載された少し軽薄な論文では、2026 年 11 月に世界の人口は無限大に近づくと推定されていた。エーリッヒは中絶の合法化、避妊研究への投資、性教育など、いくつかまともな対応策を提案した。しかし、水道水に殺菌剤を混入する等のとんでもないアイデアも披露していた。彼は、アメリカ人はそのような極端な手段に抗議するかもしれないと考えていた。しかし、海外の人口爆発に苦しんでいる国々には選択の余地はないと考えていた。食糧援助をする際には、援助を受ける発展途上国側が自制心を発揮して人口爆発を回避できることを条件とするのが筋だと主張した。彼はインドを例に挙げたが、無節制な性交を容認する国々は、自力で何とかするしかないと主張した。
「人口爆弾」は局所的な不安を世界的なパニックに変えた。インドはその後わずか 2 年足らずで、何百万人もの国民に強制不妊手術を施した。中国は、悪名高い一人っ子政策( one-child policy )に至る一連の政策を展開し、懲罰的な罰金、強制的な避妊リング( Intrauterine device:略号 IUD )挿入、望まない中絶などの政策を総動員した。強制的な人口抑制策が次々と具現化されたわけだが、エールリッヒを責めることはできない。しかし、彼が警告を発した時期は、いささか的外れな時期であったと言わざるを得ない。というのは「人口爆弾」が出版された頃には人口増加率はすでにピークをつけていたからである。何十万年もの間、人類は増え続けてきた。1 つの時代が終わろうとしていた。
「合計特殊出生率( total fertility rate )」とは、平均的な女性 1 人が産む子供の数を大まかに推定したものである。多くの国で「置換率( replacement rate )」は2.1 ほどである。これは母親 1 人当たり約 2.1 人の赤ちゃんを産めば、人口が安定することを意味する ( 0.1 は、出産年齢までに死亡する女性がいることや出生児の男女比が男の方が多いこと等を反映している)。この閾値を超えると、理論的には指数関数的に人口が増え、下回ると指数関数的な人口減が起こる。1960 年の小国シンガポールの出生率はほぼ 6 であった。1985 年には 1.6 まで下がった。2 世代で人口が半減する恐れがあった。経済学者のニコラス・エバースタット( Nicholas Eberstadt )が語った、「 20 年間、シンガポールの指導者層は『制御されていない出生率は恐ろしく危険な結果をもたらすので、出生率を下げる必要がある』と言い続けてきた。しかし、その数字が下がった瞬間から『やっぱり、上げないといけない』と言うようになった」。シンガポール政府は「(余裕があれば)3 人以上子供を産もう」という宣伝キャンペーンを開始した。シンガポール人の気質は一斉に盛り上がりやすいのだが、スローガンのキャッチーさにもかかわらず、ほとんどの国民は非協力的だった。あっという間に、多産の弊害に怯える状況から超少子化状態に陥った。2007 年、日本の合計特殊出生率が 1.3 にまで低下した時、保守派の閣僚(訳者注:当時の厚労相の柳沢伯夫)が女性を「産む機械( birth-giving machines )」と呼んだ。この発言は、彼の妻を含め、誰からも特に好意的に受け止められなかった。
今日、少子化はほぼ全世界的な現象である。アルバニア( Albania )、エルサルバドル( El Salvador )、ネパール( Nepal )は、いずれも豊かな国ではないが、出生率が今や人口置換率を下回っている。イラン( Iran )の出生率は 30 年前の半分である。「ヨーロッパの人口減少の冬( Europe’s demographic winter )」という新聞の見出しをよく目にする。イタリアのジョルジア・メローニ( Giorgia Meloni )首相は、自国は「消滅する運命にある」と述べている。ある日本のエコノミストは、自国の最後の子供が生まれる日のカウントダウンを行う概念的な時計を動かしている。現在の表示は 2720 年 1 月 5 日である。
確かめるにはまだ数年かかるだろうが、2023 年には初めて世界全体の出生率が置換率を下回る可能性がある。中央アジアやアフリカのサハラ以南など、依然として出生率が高い地域もいくつかあるが、そこでも概して出生率は低下している。被害妄想も広がっている。過去 1 年間で、中央アフリカ共和国の何百人もの男性が、自分の性器がなくなったという妄想を抱いていると報告されている。出生率が 7% から 4% に低下したナイジェリアでは、広く読まれているタブロイド紙が、フランス諜報機関員の気狂い的な陰謀を非難し、「フランスの諜報機関員が子供を産みたくないヨーロッパ人の絶滅を阻止するため、秘密裏にナノテクノロジーの革新を利用してアフリカ人男性からペニスを盗んでいる」と主張している。
この現象は奇妙に混乱させる力を発揮するが、つい最近までアメリカ人はそれに気づいていなかった。しかし、過去 20 年間で、アメリカの出生率は約 20% 低下し、1.6 となった。右派は人口減少を気候変動よりも大きな脅威と捉えている。イーロン・マスク( Elon Musk )は「文明が直面する最大の危機( the biggest danger civilization faces by far )」と表現し、ひっそりと独自の方法で埋め合わせをしようとしている。彼は、少なくとも遺伝上の子供を 13 人もうけているし、友人たちや従業員たちやディナーパーティーで一度会った人たちに精子を提供することを申し出たと報じられている。なお、彼はこれを否定している。マスクの戦略に懐疑的な人がいるかもしれないが、チンギス・ハーン( Genghis Khan )に 1 千人以上の子孫がいたという伝説を思い出していただければ、あながち嘘ではないと理解してもらえるはずである。バンス( J. D. Vance )副大統領は、この「破滅的な問題( catastrophic problem )」を「子供のいない左派」のせいだと非難している。リベラル派は、この問題を、共和党によるリプロダクティブ・ライツ( reproductive rights:性と生殖に関する健康と権利)に対する攻撃に便宜を図ったことに対する脅迫であるとして無視することが多い。それは一理ある。さらに踏み込んで、人口減少は環境的に持続可能なもので好ましい主張する人もいる。
自信をもってこの状況を説明する人は、おそらく間違っている。生殖能力は、おそらく個人が下す最も重要な決断と、私たちの集団的運命に関する答えのない疑問を結びつけるものであり、生殖能力は必然的に、性別、お金、政治、文化、進化など、あらゆるものと関連性がある。エバースタットは私に言った、「これを説明できる者は、ノーベル経済学賞ではなく文学賞に値する」。
世界の人口は、今後約半世紀にわたって増加し続けると予測されている。その後、減少に転じるであろう。歴史上初めてのことである。それ以外に確実なことはほとんど何もわかっていない。しかし、あちこちで将来の兆候が見え始めている。韓国の出生率は 0.7 である。これは世界のどの国よりも低い。記録に残っている限り、歴史上最低かもしれない。この趨勢が維持されれば、各世代はそれぞれ前の世代の 3 分の 1 ずつの規模になる。出産適齢期の韓国人 100 人から約 12 人の孫が生まれる計算である。韓国は例外中の例外であるかもしれないが、この計算によれば国自体がそう長く続かないであろう。韓国の政治アナリスト、ジョン・リー( John Lee )が私に言ったように、「我々は炭鉱のカナリアである」。