世界中に押し寄せる少子化の波?このままでは子供がいなくなる!

5.貧しいから子供を減らしたが、子どもが減ったら裕福になるのか?

 ソウルで子供が多い場所はどこかと尋ね回ったところ、大峙洞( Daechi-dong )に案内された。そこはセキュリティの厳重な高層ビルが立ち並んでいるが、高級 SUV が走り回り、放課後に通う塾が密集している。いわゆる「ハグウォン( hagwon:韓国の私立教育機関 )」である。中には、グロトン( Groton )、スワトン・インターナショナル( Swaton International )、エミルトン・アカデミー( Emilton Academy )など欧米の名門校の名を勝手に冠したものもある。最も恵まれた生徒たちは午後、夕方、週末で 12 校ものハグウォンで過ごす。韓国の家庭の 80% は私立教育を受けており、貧しい家庭は食料品と同じくらいの金額をハグウォンに費やす傾向がある。教育充実のための総支出は、韓国経済全体の 5 分の 1 を占めるコングロマリット、サムスン( Samsung )の研究開発費を上回っている。学校が終わると、生徒たちは黄色いバスに乗り込み、ハグウォンから次のハグウォンへと移動する。ハグウォンが入る建物のガラス窓越しに、とてもカラフルで小さな小学生たちが整然とエレベーターの順番を待っているのが見えた。

 多くの韓国人が子供を産みたがらない理由で大きいのは、過剰な教育のプレッシャーと費用である。リベラルな地域に住むアメリカの親たちも、こうした懸念を共有しているように見える。韓国人の恵まれた幼少時代は、ソウルの 3 大名門大学のうちの 1 つへの入学で最高潮に達する。入学は主に、毎年 11 月の木曜日に行われる修能( Suneung )と呼ばれる全国大学入学試験の成績に基づいて決まる。その日は株式市場の開場が遅れ、多くの建設現場が閉鎖される。交通渋滞を緩和するため、バスと地下鉄が増便される。遅刻した学生は、警察のバイクによる護衛を利用できる。完璧な静寂が求められる英語聴解セクションの時間帯には、航空管制によって離着陸がすべて停止される。

 いくつかの塾では、5 年生で微積分を学ぶ。小学生向けの医学部進学コースを設けているところもあれば、スポーツや楽器に力を入れているところもある。韓国のことわざに「小川から龍が現れる( a dragon emerges from a small stream )」というものがある。どんな田舎でも才能を見出して育てることができるという意味である。しかし、かつて塾の講師を務めていた政治アナリストのジョン・リー( John Lee )は、それが実力主義の理想を述べていることを認識しているものの、懐疑的である。「生徒の点数はいくつかのランクに分けるだけにした。点数が高すぎると、親は子供を『もっと良い』塾に通わせるべきだと考える。点数が低すぎると、親は『お金の無駄だ、効果がない』と考える」と彼は言った。塾の中には、極端に選抜基準が厳しいところもある。ある若い女性が言ったように、「目的の塾に行けなければ、落ちこぼれてしまう」。歴史的に、最も厳格な予備校では、社会的交流は注意深く制限されている。勉強に直接関係のない男女間の会話を禁じる学校もある。ハグやロマンチックな手紙のやり取りは、トイレ掃除当番につながる可能性もある。

 今日の韓国の子供の 5 人に 4 人は、学校を「戦場( battlefield )」と表現する。2012 年には、「私立教育の心配のない世界( World Without Worries About Private Education )」という支援団体が、チャーハンがいっぱい入った哺乳瓶に「ママ!私にはまだ早いよ( Mom! It’s too early for me. )」というキャプションをつけた広告キャンペーンを展開した。夜間外出禁止令( Curfew laws )により、午後 10 時または 11 時以降は塾の授業が禁止されている。それでも、この問題は依然として韓国社会全体の囚人のジレンマ( prisoner’s dilemma )として残っている。こうした状況に原則として強く反対する者たちの中でも、現実的には自分の子供を塾に通わせている者が少なくない。私がその支援団体を訪問した時、ある職員が私に言った、「マクロ的には、誰もが問題だと理解しているが、ミクロ的には、家族や子供のために、やらなければならない」。子供たちは惨めな思いをしているに違いない、と私がコメントすると、彼は私の意見を否定した。「塾に行かせないと、子供たちに申し訳ない気持ちになるのよ!遊び場には誰もいないので、友達に会えるのはそこだけなの」。韓国の若者の主な死亡原因は自殺である。何人かの韓国人が、自国の文化は「壊れている」と言った。

 この仕組みから抜け出すのは容易なことではない。ある朝、私はハプチョン( Hapjeong )という地区にある型破りな保育共同体を運営する 6 人のメンバーと会った。彼らによると、ソウルでもこの地域は学習塾チェーンの出店が少ないことが特徴で、彼らは地元のパン屋が退店したスペースを有効活用した。そのパン屋はスターバックスの隣で、通りを挟んだ向かい側にも 2 軒のスターバックスがあり、4 軒目のスターバックスも斜め向かいにあった。40 年前、ソウルには保育所がほとんどなかった。働く親の中には、アパートに子供を閉じ込めて、うまくいくことを願う者もいた。子供が住宅火災で亡くなったこともあった。2002 年に草の根活動家グループが保育共同体を結成した。

 現在の親世代は、路地裏で遊んでいた幼少時代を懐かしがっている。ダウム( Daum )というアーティストは、「若い頃は近隣の家の敷地にボールを蹴り込んだら、ドアベルを鳴らしてボールを取ってもらい、また遊びを再開した」と私に話してくれた。その街も全くかわってしまった。「今では『窓を割っただろう』と怒鳴られる」。共同住宅で子供の騒音は時に重大な問題となることもある。ダウムと妻のダニ( Dani )は近隣からの苦情が酷くて以前住んでいたマンションから退去せざるを得なくなった。隣人の 1 人は「どうやってもあなたの子供には我慢できない!」と言った。

 ハプチョンの保育共同体では、毎日子供たちを外に連れ出した。子供たちは植物や動物について学んだ。昔からの祭りで季節を認識するよう教わった。標準的な敬語の使用は推奨されず、子供たちは普段はくだけた感じで先生と接した。保護者は、当分の間、子供たちをハグウォンに行かせないことで合意した。この相互保育に参加した母親の 1 人は、「子育てがそれほど怖くなくなった」と述べた。それでも、子供たちが小学校に入学する年齢に達すると、韓国の教育システムに乗っからなければならなくなる。「普通の小学校に上がると、他の小さな子供たちは一日中の椅子に座って学ぶことに慣れていて、体力もあり、ハグウォンにも慣れているが、ここの子供たちは昼寝することに慣れている」と別の母親は述べた。

 政府系シンクタンクの代表であるファン・オクギョン( Hwang Ock-kyeung )は、現在の政策を変えても子供を疎外する文化を改善することはできないと語った。「私の従業員は、自分の赤ちゃんがかわいいと思えないと言う」と彼女は言った。「若者は政府に育児時間の増加を求めているが、それが実現すると子供と過ごす時間が減ってしまう」。社会的地位への執着は、子供を親の功績の象徴に変えてしまう。「多くの親が補助金を受け取り、さらに塾にお金をかけようとする。全くの悪循環である」。大峙洞( Daechi-dong )に行くと、同じ建物に塾とピラティスがあることが多い。それには理由がある。塾にお金をかけられる親は自分の趣味にお金をかけることもできるのである。