企業だけ救済?連邦最高裁がトランプ関税を違法と判断 関税返還の裏で取り残される消費者!

The Financial Page

Where Are the Tariff Refunds for American Consumers?
アメリカの消費者への関税払い戻しはどこで行われているのか?

The Trump Administration has started repaying more than a hundred and fifty billion dollars to companies that paid its import duties. So far, most of their customers are still waiting to see much benefit.
トランプ政権は、輸入関税を支払った企業に対し、1,500 億ドル以上を返還し始めた。しかし、今のところ、ほとんどの消費者はまだ恩恵を受けていない。

By John Cassidy May 18, 2026

 今週、イリノイ州にある教育玩具会社ラーニング・リソース( Learning Resources )社のスタッフは、税関・国境警備局( U.S. Customs and Border Protection:略称 CBP )が管理するオンラインポータルをチェックし、支払いがあったことを確認した。同社は、文字学習用積み木などの知育玩具、ボトリー( Botley )という商品名のコーディング学習用ロボットなどを販売している。週後半には、さらに入金額が増えた。金曜日( 5 月 15 日)時点での入金額は 1,000 万ドルを超えた。同社は商品のほとんどを中国から輸入している。この額は、過去 1 年間に支払った関税額とほぼ同額で、払い戻し請求していた金額とほぼ一致している。「とても嬉しい」と、ラーニング・リソース社の創業家出身の社長リック・ウォルデンバーグ( Rick Woldenberg )は私に語った。彼は、シカゴから北に約 20 マイルのハイランドパーク( Highland Park )の自宅にいた。昨年 4 月にドナルド・トランプが中国やその他数十カ国からの商品に対する包括的な輸入関税を発表した。ラーニング・リソース社は、直後にこの関税は違法であると主張して提訴した数社の 1 つである。今年 2 月に連邦最高裁が画期的な判決を下した。全面的に原告側の主張を認め、トランプ大統領が 1977 年の国際経済緊急権限法( International Economic Emergency Powers Act of 1977 )に基づく権限を逸脱したとし、包括関税を無効とした。連邦政府に払い戻しを命じた。

 「この訴訟自体は法の支配の観点から非常に重要である。当社にとっても大きなリスクがあった」とウォルデンバーグは述べる。同社は約 500 人の従業員を抱えている。ウォルデンバーグは関税の影響で新規採用を凍結せざるを得なかった。新倉庫建設計画も延期し、自社製品の価格も引き上げた。こうした対策を講じたにもかかわらず、同社は 2025 年の売上と利益の予算を達成できなかった。ウォルデンバーグが語ったのだが、関税の払い戻しによって借りていた運転資金の一部を返済することができたという。ようやく財務状況も改善した。

 しかし、この救済は完全なものではない。最高裁判所の判決には、ブレット・カバノー( Brett Kavanaugh )判事による反対意見が添えられている。同判事は、「大統領が本件で問題となっている関税のほとんど(すべてではないにしても)を課すことを正当化する連邦法が他にも多数存在する」と指摘する。トランプ政権はこれらの法律の 1 つを引用し、直ちに 10% の新たな包括関税の導入を発表したが、再び法的挫折を味わうこととなった。アメリカ国際貿易裁判所( U.S. Court of International Trade )がこれらの関税に反対する判決を下したからである。しかしながら、関税をめぐる騒動はまだ終わっていない。今後数カ月以内にトランプ大統領が全く新しい一連の関税を宣言すると予測している者が多い。1974 年通商法第 301 条( Section 301 of the Trade Act of 1974 )を根拠にしそうである。301 条は、大統領に「不公正な( unfair )」な貿易慣行を採用していることが判明した国に関税を課す権限を与えている。トランプ政権は中国や他の多くの国々に対する新たな調査に着手したと伝えられている。実質的か形式的かを問わず、この要件を満たす事例を捜している。

 先週、トランプは習近平( Xi Jinping )と友好的な首脳会談を行った。にもかかわらず、トランプは何らかの形で関税を維持しようと画策している。なおかつ恒久的なものにしようと決心しているように見える。「いつまで緊急事態が続くのか」とウォルデンバーグは述べる。「どんなビジネスでも長期的な視点でビジネス上の意思決定を行わなければならない。日夜ニュースを気にして風向きを読まないといけない状況は疲れる」。

 たしかにトランプ政権下での生活は疲れる。また、消費者にも企業にもコストを強いている。昨年、彼は関税を財源としてアメリカ国民 1 人当たり 2,000 ドルの配当を分配すると表明した。これが空約束に終わった。イェール大学バジェットラボ( Yale’s Budget Lab )の計算によれば、昨年彼が課した関税は、輸入品のコストを約 1.5% 上昇させた。衣料品や皮革製品など特定の品目では影響はさらに大きくなる。非党派系シンクタンクのタックスファンデーション( Tax Foundation )によれば、昨年のアメリカの家計のコスト増額は平均で 1,000 ドルだった。包括関税の一部は違法と判断されているわけで、消費者も払い戻しを受けるべきだろう。しかし、今のところ、政府からの払い戻しを値下げや返金の形で顧客に還元すると表明した大企業は皆無である。例外は( Costco )とフェデックス( FedEx )だけである。他の企業は、関税の一部を吸収したことで圧迫された利益率を回復するためにこの資金を使おうとしているようである。

 消費者を代表して多数の集団訴訟( class-action lawsuits )が提起されている。アマゾンなどの大企業が対象で、価格転嫁という形で消費者に負担を強いた費用の返金を求めている。ウォルデンバーグが指摘しているのだが、商品を輸入する企業でトランプ関税を支払った企業の負担は並大抵のものではないという。だから、現実問題として消費者に払い戻し金をすべて渡すのは容易なことではないのかもしれない。ラーニング・リソース社の場合は、払戻金によって今年と来年のエネルギーコスト上昇分を吸収する計画を立てているという。それで価格を安定させることができる。「それが 1、2 年後に元の状態に戻るための最善の方法だと考えている」と彼は述べる。「これが責任ある企業の最善の行動だと思う」。

 ウォルデンバーグのように訴訟を連邦最高裁まで持ち込んだ者は、ごく稀である。彼とラーニング・リソース社の従業員がトランプ政権の関税問題に対処するために日々の業務で費やしてきた時間、エネルギー、そしてリソースは膨大である。これは、大小問わず多くの企業が共通して抱えている問題である。たしかに外国企業との競争から自社を守るために導入された今回の関税によって恩恵を受けたアメリカ企業は皆無ではない。おもに製鉄会社などである。しかし、実際には包括関税の影響はほとんどの企業におよんでいる。膨大な時間と労力の無駄遣いが発生している。しかも、この政策は本来の目的すら果たせていないのである。

 近年、自由貿易の支持者でさえ、関税は戦略的にも国家安全保障上の理由から正当化されるという考えを受け入れている。特に中国のような極端に重商主義的な国と協力する場合にはそうである。バイデン政権は、第 1 次トランプ政権に導入された中国製品に対する通商拡大法 232 条( Section 232 tariffs on Chinese goods )のほとんどを維持した。それだけでなく、さらに拡大した。しかし、トランプが昨年導入した包括関税は旧来のものとは大きく異なる。最も大きな違いは、アメリカから多くを輸入できないほど貧しい国をも対象としている点である。アメリカとの貿易で黒字を計上しているすべての国が対象である。残念ながらトランプは経済学の基本原理を理解できていない。比較優位( comparative advantage )という概念も理解していない。ある国が、得意な分野の生産に特化し、それらを貿易し合うことで、双方の利益( Gains from Trade )が最大化される。彼は、二国間貿易赤字をアメリカが「騙されている( ripped off )」証拠と見なしている。彼の包括関税の論拠は、貿易赤字総額を削減することが良いというものである。それが製造業の雇用を復活させ、政府の財政も改善することにもなるというものである。

 では、実際の数字はどうなっているのか?イェール大学バジェットラボの報告によると、関税によって約 2,150 億ドルの歳入が得られたという。しかし、連邦最高裁の判決により、このうち約 3 分の 2 を払い戻さなければならない。財政への全体的な影響は比較的小さいものとなるだろう。貿易赤字はどうか?昨年 3 月から 10 月の赤字は大幅に減少した。これは 2 つのことでほとんど説明できる。1 つは、関税リスクを回避・調整する手段として金(ゴールド)の大量輸送(海外移動)が多用されたことである。もう 1 つは、多くの企業が関税発効前に輸入注文を出すことで関税に対抗しようと競い合ったことである。2025 年通期では、モノの貿易赤字は過去最高水準である。今年に入ってからも高い水準が続く。トランプ関税によって、輸入総額は減っていない。主な変化は、輸入元が中国から他の国に変わったことである。ベトナムとメキシコなどである。この点は、先月発表された 2026 年大統領経済報告も認めている。「より多様化したグローバルサプライチェーンへの移行」が指摘されている。

 そういう意味では、これは歓迎すべき展開である。しかし、それはアメリカの外国資金への依存を減らすものではない。本来であれば、貿易赤字は外国からの投資や融資で賄われなければならないし、ミシガン州やオハイオ州の新設工場で雇用が生み出されるべきである。トランプが 2 期目に就任した時​​、アメリカの製造業の全雇用者数は 1,270 万人だった。先月は 1,260 万人である。バイデン政権は、半導体や電気自動車などの特定の技術への投資に多額の補助金を導入した。結果、製造業の設備投資額は 3 倍以上に増加した。2024 年 11 月の大統領選以降、それは約 5 分の 1 減少した。ホワイトハウスは、Apple 、Nvidia などの企業が国内に新工場を建設する意向を発表したことを挙げ、「製造業が力強く復活している」と主張する。現時点では、各種統計資料でそうした兆候を確認することはできない。

 巷ではどこの企業も最善を尽くそうとしている。依然として極めて不確実な状況が続いているが。ウォルデンバーグが語ったのだが、新たな関税措置の可能性が懸念材料であるが、それらも裁判所で無効とされると予測しているという。昨年末、彼は以前から検討していた新倉庫の建設を決定した。新倉庫はバーノンヒルズにあるラーニング・リソース社の本社敷地内に建設される予定である。「当社のルーツは 1916 年に遡る。当社は次の世紀を見据えている」と彼は述べる。「昨年の出来事にひるむつもりはない。軽視するつもりもない。非常にコストがかかる。精神的にも大打撃だった。しかし、私たちは前進し続ける」。関税の払い戻しは、多くの企業が正常な状態に戻るのに役立つだろう。しかし、一方で消費者は何の補償も受けられそうもない。♦

以上